蒜山三座
縦走(2006年12月17日 晴のち雪)
<はじめての蒜山>
「岡山の山ML」の中で、たくや氏から蒜山縦走の同行者募集が出た。
たくや氏は、HP「大山の風」を運営されている有名人。
さらに蒜山ガイドクラブにも所属されていたり、私の高校の先輩でもあったりする。
私も岡山の山をいくらか登ってきたが、悲しいかな蒜山には登ったことがない。
間違い無く岡山を代表する山のひとつであり、早く登りたい、と機会を考えていたところ。
今回は三座縦走を誘われており、念願が一発で叶いそうなので、即断即決。
企画もコースも全てたくや氏にお任せ、という無責任同行を決め込む。
中国道院庄ICから米子道蒜山ICまで一気に走り、待合場所の百合原牧場へ。
間もなくたくや氏が現れ、簡単に挨拶後、犬挾峠までたくや氏の車で移動。
天気予報が脅かしていた為か下蒜山登山道に車はない。
それでも12月中旬であり、周辺は氷点下、しっかり足元は凍っている。
おかげで黒土の斜面もじるくなく滑らず歩きやすい。
余談だが、私は今まで「じるい」は岡山全域の方言と思っていた。
が、先日、知らない聞いたことがない、という岡山住民に出会った。
私の中で「じるじる」などは世界標準になっても良いと思えるほどの擬態語なのだが。
たくや氏はペースを崩さず、淡々と登られる省エネ歩行。
私はペースもまちまち、ドタドタとやかましい浪費歩行。
山慣れている人には付いてゆくだけで勉強になる。
気温は低いがドタドタ歩きの私は、すぐに暑くなりTシャツになる。
初冬の日差しが暖かく照らしてくれ気持ちが良い。
雲居平の女性的でなだらかな曲線が朝日と共に迎えてくれる。
<晴天の山歩き>
雲居平から西正面に反り上がる登山道の中間あたりが八合目。
昨年の大雪で八合目標柱が亡失し、現在もまだ発見されていないということ。
調査の為、たくや氏が大ウネの急勾配な笹原に入ってゆく。
私も上部の笹薮へ強引に突っ込んで探してみる。
しばらく、それぞれに捜し廻るが体も隠れるほどの笹薮で手がかりすら見つけられない。
結局、見つけるのは難しそうだという結論になり、調査終了。
雲居平から下蒜山山頂への道のりは急坂であるが、好展望の為、振り返り振り返り歩く。
日本海の海岸線がすぐそこに見え、その爽快な景色に気持ち良さが盛り上がる。
汗をかき始めた頃、うっすらと雪の残る下蒜山山頂に到着する。
大山の山頂部が少し雲を被っているが、晴天で青空と周囲の山並みがすばらしい。
たくや氏は大山山頂部の雲を残念がるが、私には十分すぎるほどの見晴らし。
標高が上がり、気温も低く風も強くなりアノラックを再び着込む。
中蒜山、上蒜山に向け、いよいよ縦走スタート。
たくや氏は、道すがら、たくさんの解説をしてくださる。
そのひとつ、フングリ乢。
「フングリ」はどういう方言なのかと話し合う。
「語源」 【ふぐり=陰嚢】
1 金玉(きんたま)。睾丸(こうがん)。いんのう。
2 松ぼっくり。松かさ。
巨人がまたいで、ふんぐりをしこたま打ち上げた、という由緒正しき伝説から付いた名前。
私くらい足が長ければ打ち上げることもなかったろうが、きっと、短足の巨人だったに違いない。
聞いていたとおり、蒜山三座の稜線は高低差が結構ある。
高低差が大きい分、ダイナミックな景色を楽しむことも出来る。
三座山頂の直前直後はどこも急登のようだ。
中蒜山へ向け、登りつめていると塩釜からの中蒜山登山道と合流する。
合流点をもう一息で避難小屋のある中蒜山山頂。
<のんびり大休止>
広々とした山頂から二人で展望の山々を固定して楽しむ。
山頂で遊んでいるうちに、西から雪雲がみるみる接近してくる。
先ほどまで見えていた上蒜山も一気にガスに飲み込まれる。
後半は降られそうだ、と話しながら避難小屋へ入り、少し早い昼食にする。
たくや氏の買い替え間近の古いEPIを拝見すれば、私のEPIはもっと古かったという事実。
「どう?」と出された焼酎お湯割りをおすそ分けいただく。
私「うーまい」
たくや氏「ホーザンだよ」
二人「にやーり」
のんびりしているうちに、外は吹雪になる。
食事をしながら吹雪を眺めていると、にぎやかな声と共に7人パーティが到着。
関西から前泊で当地に入り、上蒜山から縦走してこられたらしい。
たくや氏の自然保護巡視員の腕章を見つけ、感激され話が弾む。
塩釜に下るか犬挾峠に下るか、天候具合もあり悩まれている。
どちらに下山しても宿が迎えに来るから構わないとのこと、それも便利だ。
吹雪の中、避難小屋を出発し上蒜山へ向かう。
雪は積もりはじめたが、気温も上がった為か、足元はかなり「じるく」なっている。
二人ともフードを被り、黙々と歩く。
流れるガスと吹雪にさえぎられ、視界は数十メートル。
吹雪といっても、ホワイトアウトとかではなく、粉雪吹きすさぶ程度。
今年初めて、私にとっては数年ぶりの降雪中の歩行は楽しく気持ちがはずむ。
<一番低い1200m峰>
上蒜山山頂もすっかり白くなり、足早に上蒜山三角点ピークへ向かう。
雪の積もった熊笹をかき分け数分で三角点ピークへ。
上蒜山は山頂も三角点ピークも中下に比べるとこじんまりしている。
ガスで展望のほどは分からないが、樹木が多くそれほどの好展望は望めそうにない。
それでも上蒜山は岡山県の数少ない貴重な1200m峰。
特に標高順では一番低い1200mであり、山としての個性も強く記憶に残る。
地肌が剥き出しになり滑りやすい急坂を百合原牧場に向けて下る。
しばらく歩くと八合目の槍ヶ峯の広場に到着。
晴天時ならばすばらしい展望があるとのこと、次回に期待したい。
山頂よりも山頂らしい場所に思え、なるほど槍ヶ峯たるゆえんか。
この槍ヶ峯から少し下ったところが七合目三角点、標高1030mである。
下山途中、切り口も真新しい大きな赤松の切り株がある。
たくや氏の解説では尾根ルートに貴重な日陰を提供してくれていた木なのだと。
倒れてしまい登山道を塞いでしまったので切り取られたということ。
平成16年10月20日の台風23号で、岡山県北を中心に激甚災害と呼ばれる風倒木被害があった。
仕事柄、山や木と接することが多く、こういった風景を無数に見つづけている。
被害発生から二年以上の時間が経過したが、手付かずの被害地はそこここに残る。
過ぎてしまったことはどうしようもなく、来るべき次の景色に向けて歩むしかない。
過去から学び、より良い明日へ、山登りをしていてもそんなことを考えることがある。
低木草原帯から植林帯に入る頃、下界の展望が開けてくる。
開けてくるというよりも雲の下に出たということか。
色とりどりに並ぶ別荘や牧草地が眺められる。
百合原牧場に駐車している私の車もぽつんと見える。
しばらく歩いた樹林を抜けると、広い百合原牧場。
それほど悪天候でない百合原牧場に到着。
雪は積もっておらず、標高の違いを感じさせる。
朝、駐車したままの車に到着し、長そうであっという間だった縦走も終了。
私の車で犬挾峠までのんびり走る。
今、歩いてきたばかりの蒜山三座が「もう帰るのか」と新雪に輝く。
<一期一会>
朝と違い、犬挾峠にはたくや氏の車の他にも二台駐車あり。
うち一台は下山直後の片付け中らしい三名が見える。
ヘルメット装着の方や使い込まれた重登山靴やらが見られベテランパーティらしい。
もしや知り合いでは、と、ちらりちらりと視線を送れば、先方もこちらを気にされる。
出発される時に「失礼ですがメーリングリストの方ですか?」とおっしゃる。
「!」まさしくビンゴ。
メーリングリストのメンバーすずき氏ご一行だったのだ。
こちらから声をかけられず、大変申し訳なかった。
ひと時、話をし、次回の再会というか山行を約束してそれぞれの帰路につく。
蒜山三座、大展望の秋山と吹雪の雪山を同時に楽しめる贅沢な一日。
念願の縦走と登頂のうれしさを十分感じることのできる山行に。
道中、山の話、植物の話などしながら案内して頂いたたくや氏に感謝したい。
噂にたがわず、蒜山はとても良い山でした、ありがとうございます。
当日の画像は「お世話になったたくや氏」のHPをご覧下さい。
<今回のコースタイム>
犬挾峠登山口8:15−五合目8:52−雲居平8:59−七合目9:08−九合目9:28−9:38下蒜山山頂9:47−
ふんぐり乢10:28−塩釜分岐10:58−11:07中蒜山山頂12:00−上蒜山山頂12:39−12:49上蒜山三角点
12:53−上蒜山山頂12:59−八合目13:13−七合目三角点13:22−三合目13:43−百合原牧場14:00−
百合原登山口14:05−車−14:18犬挾峠登山口
<歩行時間>
犬挾峠登山口−1時間23分−下蒜山山頂
下蒜山山頂−1時間20分−中蒜山山頂
中蒜山山頂−39分−上蒜山山頂
上蒜山山頂−1時間6分−百合原登山口
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