栃の植栽

近い将来 実で収益 遠い将来 木材として 価値の高い 植えて 楽しみな 一石二鳥の木


●● 目 次 ●●

◆まえがき
◆管理がしやすくてつくりやすい木
◆樹齢が若くても高価な木
◆実で収益が見込める木
◆治山治水環境保全に役立つ木
◆材価が最も安定している木


写真説明 栃大経立木 鳥取県辰巳峠にて 筆者撮影


まえがき
 戦前日本全国の山の奥地は樹齢数百年をかぞえる広葉樹の原生林で埋め尽くされていた。戦後の日本を復興するための資材としてこの原生林が次から次へと伐り出されて建築や家具、製紙などの原材料として活用されてきました。そしてその跡地には戦後の住宅難を解消する目的で杉桧など針葉樹の一方的な植林が進められてきました。
 そして今伐期をむかえた杉桧の原木が伐り出されて市場で商品化換金されていますが、外材攻勢と建築様式の変化による需要の減退、生産過剰などが重なって、内地材の価格は値下りし低迷に陥っております。
 杉に至っては山から伐り出して換金しても経費を差引くと只同然という惨々たる現実に林家は泣かされています。
 植林での収益性もさることながら環境保護の面からも今、広葉樹増植の必要性が大きく叫ばれています。広葉樹増植の重要性にようやく目覚めた国や県市町村などの指導のもとさまざまな形で各種の広葉樹の植栽が行われております。これら植樹の目的は将来の収益というよりも環境保全を重視してのことであり将来に備えて大変大切なことであります。然しこれとは別に将来収益を目指しての広葉樹の植林も又大切なことであります。
 さて広葉樹の植林として将来に向けて、どんな木を選んで植えれば有望であるのか?そこで登場させたいのが栃の植栽であります。栃の植林と言っても里地の皆さんにはピンと来ないかも知れません。これまで栃という木が奥地の木と思われていて温暖な里地では育たないのではとの懸念からこの木の植林を考え着手する人はありませんでした。私はこの栃が里地でも生育する木か否かを確かめるため、四年間にわたって観察し実地に育苗植栽を試みて参りました。その結果里地とも言える津山市近郷の土地でも立派に生育する木であることを経験し確認した次第であります。
 詳しくは別項の事項を読んでいただければ大変ありがたいと思います。
               広葉樹専門木材業50年  川 口 悦 二


管理しやすくつくりやすい木
 かつて栃の生産地は岡山県の場合、上斎原、羽出、富、中和村など、言わば奥地の国有産地の原生林からの産出が多く見られた。
 従ってこれまで栃という木が生育する条件として、気候の寒冷な地方でしか育たない木と考えられていた。ところがその予想に反して、比較的温暖な里地でも栃が立派に成長する木であることが判明、立証された。
 津山市の南端、佐良山地内で木材業を営む片山治朗さんは今から13年前、富村の山中で伐採作業中、苗丈50〜60pの栃の実生苗木数本を見つけて、ごぼう抜きにして持ち帰り屋敷に植えたところ、すくすくと見事に成長して、植えて10年後には実をつけはじめて、その後年々実の数も増加している。現在立木は、枝下3.2m、幹の胸高直径約20pに達しており、もともと栃の産地である奥地の知人もこれを見て驚愕感心している有様。この現実を見て、私もこれまで奥地の木と思っていた認識を改めて、現に昨年より自宅の周辺の畑地において育苗を行い、久米町の持ち山へ植栽を実施している。栃はつくりやすい木として項目にもあげているが、その理由として山に植えた場合、大風や大雪などによる折損、倒木などの被害を受けにくい点があげられる。植栽した栃の幹は、上に伸びてゆく過程で年間(一夏)に40〜60p伸長してその年を終える。そして翌年もまた同じような伸び方をして、徐々に年数を重ねて上に伸びていく。従って栃の場合、樹高3mになるまでに5〜6年を要する。このような形で樹幹を形成していくのは松とよく似ている。
 桐や桑などのように一年で3〜4mも幹を伸ばすのと違って、栃の場合は年々幹を太らせながら頑強な形で幹を形成する木なので、当然のことながら風や雪に対して耐える力が強く、支柱とか引っ張りなど厄介な作業も不要となる。このことが栃つくりの利点であり魅力だと思う。
写真説明 植栽後十三年の栃立木 枝下3.2m、胸高直経20cm(岡山県津山市皿地内にて撮影)
樹齢が若くても高価な木
 おおかたの木材は、樹齢が古くて中芯の赤身が発達していて外側の白身が少ないほど良質材として歓迎され、相場も高いのが常識となっている。ところが栃の場合はその逆で芯の赤身が少なくて外側の白身が多いものほど良質材として価値が高い。栃の赤身は板などに製材した場合、干割れや狂いなど異常なほどに生じ易く不良材として扱われ、価値が大幅に低くなる。現在、国内で産出が見られているものでは、奈良、三重、徳島、兵庫などの県産の栃が良質なことで知られている。何れも国有林から出材されているものである。材が堅く、光沢に優れていて縮杢を有する材が、他府県のものより多く見ることができる。栃は縮が生命とも言われ、昔から寸八と表現されている板の幅一寸に八本以上、縞柄が入っていれば最高で、俗に糸縮と呼ばれている。平成14年春、岐阜の銘木市場に出品された糸縮の原木で長さが5?、末口56pが?単価170万円でせり落とされて、史上最高値と注目を集めた。樹齢が若くて評価が高い木といえば、ぶな、かえで、かし、むくなどがある。何れも赤身が敬遠されて白身が歓迎される木である。将来、収益を目指して植林を行う場合、樹齢が若くて価値が高い木があるとすれば、こんなありがたいあるだろうか。
 この特性を最大限に活用しての栃の植林こそ、将来大変楽しみな木であると思う。

実で収益が見込める木
 栃の実は餅やお菓子などの原料としてその素朴で特殊な味が受けて、人気が高く今、注目されている。先般(15年10月5日)早朝、NHKテレビで "栃餅で村おこし"と題して滋賀県の村が紹介され放映された。滋賀県高島郡朽木村では数戸の農家が共同で村営の施設で栃餅をつくり、直売店で販売する。一方、全国各地へふるさと宅急便で送り出しているとのこと、1個100円で販売、年間4万個を作っているそうだ。
 先般、私はこの記事を書くため、栃の実について知識を得る目的で鳥取県のある山村を訪ねて取材した。村人の話によると栃は8月下旬から9月上旬にかけて実を落とし、村人達は山深く入って実を拾うわけだが、時季になると拾い手が多く争奮戦となり、未だ夜が明けぬ暗いうちから、懐中電灯の明りを頼りに拾う者も出てくる始末という。
 拾った栃の実は自家で栃餅に搗いて食するほか、余った実は売ってお金にすることもできる。値段は拾ったばかりの生実で1升1,500円、乾燥実だと2,000円位で引っ張りだこで売れるそうだ。豊作の年には、1人で1日に2斗も拾う人があり結構よい稼ぎになるという。インターネットのホームページを見ると、山形県の山菜専門店がアク抜きした剥き身を、1キロ(約7合)4,000円で通販している。栗とか銀杏の実に比べると比較にならない位、高価なものである。
写真説明 植えて十三年でこんなに大きく成長した「栃」。一升瓶と比較して撮影(岡山県津山市皿地内にて撮影)
治山・治水、環境保全に役立つ木
 山を蘇らせ豊かな自然環境を取り戻そうということで、近年山に広葉樹増植の必要性が強く叫ばれている。かつて奥地の山々が原生林で埋め尽くされていた頃、広葉樹の森は旱魃や洪水の調整に役立ち、人々の生活に豊かな恵みをもたらした。原生林の森が失われた今、人々は旱魃や洪水、益鳥獣や昆虫、魚族の減少、絶滅など生態系をも崩しかけない現実に頭を痛めている。森での餌場を失った熊、猪、鹿などの獣達が里に来て農作物を荒らしたり人に危害を加えたりする現象が頻繁に起きていて今問題になっている。これも一概に動物達を責めることはできないのではないか。
 開発の名のもとに人間が山の自然を破壊している報いと思わねばなるまい。治山、治水、環境保全、木材の供給源など将来の視点に立って今、広葉樹の造林増植こそが農政の重要課題ではないだろうか。
材価が最も安定している木
 近年殆どの木材価格が値下り低迷する中で、唯一栃の良材は好値を堅持している。その理由としてまず感じることは産地が限られていて産出量が少なく、品薄感が強いこと、今ひとつは外材に頼ることができない木材であることがあげられる。現在、中国、ロシア、カナダなどより各種の広葉樹の原木が輸入されている。
 特に中国からはけやき、たも、せん、くり、なら、くわ、ほう、きり、かつらなど日本に存在するあらゆる広葉樹の原木が輸入されている。しかし、ここで注目したいのは相場が良い木材であるはずの栃が見られないことだ。或いは中国の山には栃が存在しないのかも知れない。外材の影響を受けない栃、高値の原因はここらあたりにあるものと思われる。近年、生活様式の変化と建築の洋風化に伴い、家の造作材とか家具などに広葉樹の材が多く使われるようになった。洋間が主流の今日の住宅では床、階段、ドアなど、また、テーブル、椅子、食器棚など針葉樹よりも広葉樹の材を用いたものがよくマッチするのかも知れない。このような形で栃材の用途も今後伸びていくのではと期待されるところである。
写真説明 (岡山県勝田郡奈義町内にて撮影)

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栃苗木 価格
1 株 525円(消費税込み)
苗丈け 約35〜40センチ
茎 経 約1センチ
ポット苗につき活着抜群の苗です。
●苗の申込みは、最低10本以上お願いします。