発表論文一覧


 1990年代 (NO.45〜NO.80)


45 音楽が自閉症児の血圧に及ぼす効果 (1990) 鳴門教育大学学校教育研究センター紀要(4巻pp.65-72)
〔執筆者〕原田和幸、中塚善次郎。共同研究につき本人(中塚)担当部分抽出不可能。

 概要:音楽が自閉症児の心理・生理的側面にどのような効果をもたらすのかを血圧を指標として測定した。自閉症児と非自閉症児との比較を行うことによって次のようなことが明らかになった。音楽聴取後の非自閉症児群の血圧が変化しなかったのに対して、自閉症児群では音楽聴取前の血圧に戻った。この結果から、非自閉症児は音楽の余韻が聴取後も残るのに対して、自閉症児では音楽の効果が聴取時にしか及ばないことが示唆された。


46 自閉症児の発達段階とその特徴−潜在クラス分析法による津守式乳幼児精神発達質問紙の分析− (1990) 児童青年精神医学とその近接領域(31巻4号pp.1-9)
〔執筆者〕中塚善次郎、蓬郷さなえ。本人(中塚)はデータ解析と論文執筆を担当。

 概要:自閉症児の発達段階(発達の質的な区切り目)が何歳頃に存在するかを明らかにするために、3歳から12歳の自閉症児82人と、それに年齢ごとに人数と発達水準をマッチングさせた非自閉症の障害児82人に、津守式精神発達質問紙1〜3歳用と3〜7歳用を実施し、得られた1−0パターンを2つの群別に潜在クラス分析した。その結果、次のことが明らかになった。両群とも発達段階は2つ存在する。そして、段階の区切り目は自閉症児群では8歳頃に、非自閉症児群では9歳過ぎにある。発達の低い段階では両群はよく似た特徴をもっている。しかし、発達の進んだ段階では、両群の特徴は異なっており、非自閉症児群では5領域の得点のばらつきが相対的に小さくなってバランスがとれてくるのに対して、自閉症児群では低い段階の特徴がそのまま保たれている。しかし、自閉症児群の2つの段階間の差を領域ごとに見ると、社会の伸びよりも探索と言語の伸びが大きい。これはその基本障害が認知・言語障害であるとする説を支持しないものである。


47 発達遅滞児の運動発達のマイルストーン:粗大運動からの検討 (1990) 鳴門教育大学研究紀要 教育科学編(5巻pp.117-125)
〔執筆者〕大西久男、蓬郷さなえ、原田和幸、中塚善次郎。共同研究につき本人(中塚)担当部分抽出不可能。

 概要:目的は粗大運動の発達のマイルストーンの超過時期を再考するとともに、発達障害のタイプによってその通過時期がどうかを検討することである。そのために調査1ではマイルストーンを0歳から14歳にわたる発達障害児49名と、健常児1305名に遡及的に調査し、調査2では1歳半検診の受診者168名に同様の調査を行った。調査1では、健常児の基準値から見ると、自閉症児は全てのマイルストーンで遅れていた。また、その他の障害種ではこれまで言われてきた通りの結果が認められた。次に調査2では、調査1とほぼ一致した結果が見られており、調査1の結果が信頼性のおける資料であったことが確認された。


48 ワロン理論による自閉症児・障害児理解 (1990) 鳴門教育大学学校教育研究センター紀要(4巻pp.57-64)
〔執筆者)中塚善次郎、原田和幸。本人(中塚)は論文執筆を担当。

 概要:N式自閉傾向測定尺度における社会性因子は自閉症児の基本障害を表すのであるが、ワロン理論における姿勢・緊張系(情動)の機能から自閉症児の社会性障害を概観することによって、他の症候のメカニズムも理解することができる。このことは、人間の精神発達における情動機能の重要性をも意味しており、自閉症児だけでなく障害児教育において、この情動の教育を無視することは出来ない。


49 新しい障害児「響育」理論の確立をめざして (1990) 鳴門教育大学研究紀要教育科学編(5巻pp.139-159)
〔執筆者)中塚善次郎、松田文春。本人(中塚)は論文執筆を担当。

 概要:まず障害児教育の実践に強い影響を及ぼしている、2つの心理学理論を考察し、その限界点を示した上で、障害児教育のための新たな哲学的理論を確立する必要性を述べた。次に近代哲学史における自覚の問題を論考し、その自覚の諸契機の弁証法的統一として響存哲学が展開された。さらに新しい障害児「響育」を実践していく上での基本的姿勢を指摘した。


50 幼児の情動表出尺度の構成 (1990) 鳴門教育大学学校教育研究センター紀要(4巻pp.49-56)
〔執筆者〕蓬郷さなえ、中塚善次郎。本人(中塚)は企画を担当。

 概要:嬉しい時、怒った時、嫌な時、恐ろしい時などについて子どもがどのような行動をするかを問う110項目の質問項目を0歳から5歳までの保育園児375名について、担任の保母に3件法で評定してもらい、そのデータを因子分析して次の8つの尺度を構成した。1.対人攻撃、2.対人威嚇、3.対人拒否、4.対人回避、5.自己歓喜、6.自傷行動、7.パニック、8.自己退行。これらの尺度は情動の質ごとではなく情動のもつ行動の機能として構成されているのが特徴である。前四者は社会的機能をもった表出行動に関係し、後四者は生物学的に規定された表出行動に関係した尺度であることがわかった。


51 障害児響育要諦−教師と親のための指針− (1991) 鳴門教育大学研究紀要 教育科学編(6巻pp.41-57)
〔執筆者〕中塚善次郎。

 概要:筆者はこれまで、ワロン理論によって自閉症児ないし障害児を理解しようと試みたり、ワロン理論と鈴木の響存哲学の統合による新しい障害児「響育」理論の確立を図ろうと試みてきた。その概要を述べ、健常者−障害者平等論を実現させていくには、一人ひとりの心に「人の心を感じるこころ」を育てていく道が是非とも必要であることを述べた。その方向性を示した後、教師や親が障害児に実際に接していく上での心構えを、十か条に要諦として示し、解説を行った。


52 障害児教育に於ける人権論再考 (1991) 鳴門教育大学学校教育研究センター紀要(5巻pp.57-64)
〔執筆者〕松田文春、中塚善次郎。共同研究により本人(中塚)担当部分抽出不可能。

 概要:今後のより充実した障害児教育の根本理論の基礎を得るために、障害児の人権を視点にして、現行の教育体制の限界を探ろうとした。初めに、現代の障害児教育体制の形態の要因となってきた歴史的過程を概観し、現代教育体制が抱える問題点を提示した。次いで、現行障害児教育の根拠となる法制度の構造とその現実的解釈を、障害児の基本的人権という立場から明らかにし、これからの障害児教育のための本来的解釈として筆者らの立場を述べた。


53 精神薄弱養護学校在籍者にみられる自傷行動とその関連要因 (1991) 鳴門教育大学学校教育研究センター紀要(5巻pp.45-55)
〔執筆者〕原田和幸、辻行雄、中塚善次郎。本人(中塚)は研究の企画と解釈を担当。

 概要:精神遅滞児に見られる自傷行動は多様なものであり、その多様性を分析していくことは行動の理解のためには必要不可欠である。自傷行動に関する従来の仮説の多様性もおそらくそれを反映していると思われる。本研究では自傷行動の形態、頻度、強度、生起する対人状況などについて調査し、障害種別や対象児の適応レベル等によってどのような違いがあるかについて分析を行った。その結果、自傷行動の形態によって生起する対人状況等に違いがあること、また障害種別では自閉症児群が他の群に比べて多種の自傷行動の形態を示すことが分かった。また、形態に関する13項目を因子分析した結果、固有感覚的自傷行動因子と、体性感覚的自傷行動因子が得られた。


54 Relations between Autistic Symptoms at six year of age and social maturity :A restrospective examination (1992) 鳴門教育大学研究紀要 教育科学編(7巻pp.399-412)
〔執筆者〕Zenjiro NAKATSUKA, Sanae TOMAGO, Hisao OHNISHI, Hiroshi GOTO

 概要:6歳時点での自閉症候が成長後の社会生活能力をどれほど予測しうるかを調べることが目的である。そのために31名の自閉症児を対象に、6歳時点での症候を遡及的にN式自閉傾向測定尺度で捉え、現在の社会生活能力を新版S−M社会生活能力検査で捉え、両検査間で正準相関分析を行った。その結果、第1正準相関係数のみが有意であり、それに対応した構造行列から、成長後の社会生活能力を予測する場合、N式自閉傾向測定尺度の非言語通心、言語通心、社会性一般、高級感覚の各尺度に属する異常行動が見られているほど適応は悪く、特定刺激への固執、特異な能力を含む同一性保持因子に属する行動が見られているほど適応が良いことが分かった。このことから幼児期の自閉症候を予後予測因子としてみる方法が示された。


55 自閉症児の情動表出行動の特徴−ダウン症児と精神遅滞児との比較− (1993) 発達障害研究(15巻1号pp.55-62)
〔執筆者〕中塚善次郎。

 概要:ワロン理論に基づいて構成された「幼児情動表出尺度」を発達障害児3群(自閉症、ダウン症、精神遅滞)に実施し、N式自閉傾向測定尺度と津守式乳幼児精神発達質問紙との相互相関を求めた。その結果、対人的情動表出行動は発達と関連があることがわかった。また、自閉傾向が強いほど対人情動の表出が少ないこと、さらに情動には二つの機能があることが指摘された。


56 情動・感情の教育−同和教育における意義− (1993) 鳴門教育大学学校教育研究センター紀要(7巻pp.53-58)
〔執筆者〕清重貽一、中塚善次郎。共同研究につき本人(中塚)担当部分抽出不可能。

 概要:現在の同和教育は認識論中心に展開されがちであることに対し、その正しい方向性として「情動・感情の教育」を提唱した。また、差別の生まれる機制を考察し、それを越える心の教育として「宗教的情操」の高まりを強調した。


57 人間精神の心理学モデルによる精神病理の解釈 (1993) 鳴門教育大学学校教育研究センター紀要(7巻pp.59-65)
〔執筆者〕中塚善次郎。

 概要:主に精神分裂病と躁うつ病の病理を説明するために、新たに構築された人間精神の心理学モデルが適用された。それは、人間の生を自己と他己との弁証法的運動として捉えるもので、5つの精神領域のそれぞれに自己と他己とのモーメントをなす、1つずつの精神機能を仮定している。5つの中、自己モーメントとして自我+情動機能と、他己のそれとして人格+感情機能のバランスの崩れとして2大精神病が説明できるとし、精神病理の解釈に新しい道を示した。


58 児童・生徒の心理的ストレス(T)−ストレス尺度の構成− (1993) 鳴門教育大学実技教育研究(3巻pp.69-79)
〔執筆者〕赤尾泰子、大西久男、中塚善次郎他4名。共同研究により本人(中塚)担当部分抽出不可能。

 概要:高校生が日常生活の上で、そのような心理的ストレスに悩まされているかを測定する方法として、ストレス尺度を開発することが目的である。まず、普通科高校3年生89名を対象にして150項目からなる質問紙調査を行い、得られたデータを因子分析した結果、12個のストレス尺度が構成され、解釈された。


59 障害を持った子どもの母親のストレス−障害認知時のストレスの構造と規定要因の検討− (1993) 鳴門教育大学研究紀要(8巻pp.183-198)
〔執筆者〕大西久男、中塚善次郎、宮崎令子。本人(中塚)は研究の企画、解析を担当。

 概要:わが子が障害児であるとわかった時の母親の心中はこれまで明らかにされておらず、母親の心理援助やその軽快していく過程を追う上では心理構造を客観的に把握する方法が望まれる。そこで障害児をもつ母親に遡及的に質問紙調査し、そのデータを因子分析した。その結果、5つの尺度が構成され、次に現在の母親のストレスとの関連が検討された。


60 人間響育要諦−教師と親のための指針− (1993) 鳴門教育大学実技教育研究(3巻pp.81-106)
〔執筆者〕中塚善次郎。

 概要:障害児教育は教育の原点である、と言われる。それは、障害児が人間としてぎりぎりのところで存在しており、そうした人への教育がどんなものであるかを考えてみることが、教育を考える原点である、ということを意味している。先に障害児響育要諦を表したが、本稿ではもう少し一般化して人間響育要諦として十か条にまとめて示した。なお、これは「人間精神の心理学モデル」の教育への応用でもある。


61 哲学を取り戻すべき心理学−人間「精神」の心理学構想− (1993) 鳴門教育大学研究紀要(8巻pp.199-213)
〔執筆者〕中塚善次郎。

 概要:今や心理学は哲学の扱った「人間はいかに生きるべきか」という価値の問題から遠ざかってしまった。その問題点を指摘し、他者と自己の統合として人間が生きていることを取り上げ、両者の相互作用の在り方の概念を含んだ心理学が要求される点を論じた。その上で人間精神の心理学モデルが提唱され、個々の要素が解説された。


62 『ユング心理学』ノート−自己・他己理論を通して見えたもの− (1994) 鳴門教育大学研究紀要 教育科学編 (9巻pp.313-332)
〔執筆者〕中塚善次郎。

 概要:心理学理論としていま最も注目を集めているユング心理学を、筆者の提唱する「人間精神の心理学モデル」によって見た時に、ユング心理学の基本的な概念が人間理解にとってどういう意味を持ち、それらが、筆者の自己・他己理論にどう関連づけられるかを検討した。ユングは、無意識に「マナ識」に当たる個人的無意識と「アーラヤ識」に当たる集合的無意識を仮定し、この集合的無意識に潜む「原始類型」に他者性を求めようとしたが、それはあくまで「自己」の中に「他己」を求めようとするもので、筆者の提唱する「他己モーメント」が決定的に欠落していることが指摘された。さらに、その欠陥を克服すべく、筆者の無意識論を展開した。


63 精神分裂病の基本障害と諸症状−自己・他己理論による了解の試み− (1994) 鳴門教育大学学校教育研究センター紀要(8巻pp.95-104)
〔執筆者〕中塚善次郎。

 概要:筆者の構築した自己・他己理論を適用して、精神分裂病の基本障害と諸症状の解釈を試みた。分裂病の基本障害は、自己モーメントに対して他己モーメントが相対的に衰退し、やがて喪失することであると仮定された。その結果、その病者にも基本的に見られるのは「外界への自己定位の不能性」であることが分かった。また、こう仮定することによって症状の整理が可能になった。つまり、プレコックスゲフュールは「人の心を感じるこころ」である感情の障害であり、幻覚は感覚の、妄想は認知の、作為体験は自我の、それぞれ障害であると解釈された。


64 自己・他己検査の尺度の構成 (1994) 鳴門教育大学学校教育研究センター紀要(8巻pp.73-80)
〔執筆者〕赤尾泰子、中塚善次郎、金山貴美子。本人(中塚)は企画、項目作成、因子分析、論文構成を担当。

 概要:中塚の構築した自己・他己理論の仮説を実証するために、自己と他己を測定する尺度の開発を試みた。そのために、「〜ありたい」という価値的目標を問う78の質問カードを作成し、Q技法の分類法に従って9段階に分類してもらった結果を主成分分析した。その結果、1.出世追求、2.趣味追求、3.社会貢献、4.秩序尊重、5.欲望追求、6.他者志向の6尺度が構成された。さらに、個人ごとの尺度得点を算出し、主因子法による因子分析を行った。その結果、1と2と5が自己を、それ以外が他己を測定していることがわかった。さらに、6尺度の妥当性を検討するために、個人の得点をZ得点に換算し、大学生、院生、教員の各群別に比較した。その結果、各群による特徴が見られ、本検査の有効性が検証された。


65 障害児(者)をもつ家族 (1994) 教育と医学(42巻5号pp.58-63)
〔執筆者〕中塚善次郎。

 概要:障害児(者)とその家族は、周知のように大きなストレスにさらされている。養育の中心的存在である母親が感じるストレスには具体的にどのような種類があり、そのストレスを規定する要因にはどのようなものがあるか、筆者の研究を通じた知見が展開された。まず、ストレスには5種類のものがある。1.社会的圧迫感、2.養育負担感、3.不安感、4.両育探求心、5.発達期待感である。さらに、これらのストレスの規定要因として、@子どもの障害種、A子どもの年齢、B家族関係の3点に関してストレスの特徴が述べられた。最後に、質問紙により捉えられた、障害児をもつ両親の養育態度の特徴を述べ、親の心の持ち方について教示した。


66 自閉症児における認知−言語教育のあり方 (1995) 鳴門教育大学実技教育研究(5巻pp.107-119)
〔執筆者〕藤川清美、中塚善次郎、大西久男。本人(中塚)は基本哲学の提供と研究の企画を担当。

 概要:現在、教育現場では自閉症児への認知−言語教育は、いわゆる、従来の健常児に対するのと同様な「お勉強」を強いるものから、何々法といった特定の方法を全ての自閉症児に無差別に与えるものなど、かなり不適切と思えるもので満ちている。本研究は、自閉症児の基本障害を他者との情動の共有の障害とみなし、それを育てることを中心にした「情動の教育」の必要性を主張し、それに基づく認知−言語教育を提案している。


67 知的障害者に人格の完成はあるか (1995) 鳴門教育大学研究紀要 教育科学編(10巻pp.243-258)
〔執筆者〕中塚善次郎。

 概要:現在、知的障害者は、高等教育からは完全に締め出されている。憲法では、全ての国民は教育を受ける権利をもつとされ、教育基本法では、教育の目的として人格の完成が規定されている。しかし、現実に知的障害者が高等教育の場から締め出されているのは、知的障害者には人格の完成が不可能と考えられているからだと思われる。本論文では、そうした考え方が間違いであることを指摘し、知的障害者が、いかにして人格の完成にいたれるかについて述べている。


68 自己・他己双対理論に基づく人間精神発達理論−Stern理論の検討による細密化− (1996) 鳴門教育大学研究紀要 教育科学編(11巻pp.309-331)
〔執筆者〕中塚善次郎。

 概要:自己・他己双対理論に基づき、情動+自我および感情+人格という、広範で包括的な精神機能の発達を扱った、独創的な発達モデルが示された。このモデルでは、発達段階が1.胎児期、2.乳児期、3.幼児前期、4.幼児期後期、5.児童期、6.青年期に分けられ、1・3・5期が他己充実期、2・4・6期が自己充実期と想定されており、成長に連れて二つの時期を交互に経過しながら、自他の弁証法的統合を繰り返しつつ、精神が発達していくと想定されている。そして、Sternによる発達理論の批判的検討を通して、この自己・他己双対理論に基づく発達モデルの細密化が行われた。


69 障害児教育を支えるコミュニケーション(T)−「コミュニケーションとは何か」自己・他己双対理論に基づく検討− (1996) 鳴門教育大学学校教育研究センター紀要(10巻pp.41-50)
〔執筆者〕中塚善次郎、上松育代、木村みどり、大田雅美。本人(中塚)は基本哲学の提供、研究の企画、論文の執筆を担当。

 概要:コミュニケーションとは何かの問題について、自己・他己双対理論の立場から検討を行った。コミュニケーションとは、人間が他者に定位してはじめて精神的健康や福祉・安寧を得ることができる存在であるという、基本的な在り方に関わる概念であることと、心理学的には自己と他己の弁証法的統合の過程として捉え得るものであることを述べた。また、コミュニケーションの社会・心理的機構を具体的に明らかにし、さらに、コミュニケーションの現実的意味と具体的問題点として、コミュニケーション障害としての精神病理と、学校教育現場における諸問題について検討した。


70 障害児教育を支えるコミュニケーション(U)−重度・重複障害児教育と障害児をもつ親の援助に関する文献の検討− (1996) 鳴門教育大学学校教育研究センター紀要(1996年10巻pp.51-60)
〔執筆者〕上松育代、木村みどり、大田雅美。中塚善次郎。本人(中塚)は研究の企画と構成を担当。

 概要:同名論文(T)の考え方に従って、重度・重複障害児のコミュニケーションの問題を扱った文献と障害児をもつ親への支援を扱った文献とを検討した。前者では、子どもの側の発達を主眼とする研究と、こころを重視し、関わる側の問題も扱っている研究に分けて検討した。後者では、一般的な社会支援の研究動向を概観した後、障害児をもつ親への支援を取り上げた論文の中で、特に、こころの通じ合いである情緒的支援にふれた記述があるものを中心に検討した。


71 まなざしの人間精神学 (1997) あたらしい眼科(13巻11号pp.1645-1649)
〔執筆者〕中塚善次郎。

 概要:自閉症児がアイ・コンタクトをとれない原因を、自己・他己双対理論と人間精神の心理学モデルによって説明することを通じ、人間存在の本質的な意味と、まなざしがもつ人間的な意味について検討を行った。そして、まなざしに関する「邪眼」と「慈眼」という言葉を取り上げ、邪眼が自己に、慈眼が他己に対応していることを説明した。さらに、多くの人々がこころを磨く修行をすることで慈眼を取り戻し、他己社会を実現することの必要性を述べた。


72 障害児教育を支えるコミュニケーション(V)−障害児支援を含むボランティア活動を規定する家庭養育環境− (1997) 鳴門教育大学学校教育研究センター紀要(11巻pp.103-110)
〔執筆者〕木村みどり、大向裕美、大田雅美、倉橋雅子、上松育代、中塚善次郎。本人(中塚)は研究の企画と構成を担当。

 概要:学生のボランティア活動への熱心さと小さい頃に受けた家庭の養育環境との間に関連がどうあるのかを調べることを目的として、大学生を対象とした質問紙調査を行った。結果の分析から、ボランティア活動の熱心さを示す測度として3測度が得られ、家庭の養育環境質問項目から4つの尺度が構成された。前者の3測度は、@活動の参加意志・回数、A活動の分野の選択数、B活動のきっかけ(動機)の選択数からなり、後者の4尺度は、1.社会性、2.行儀作法、3.子ども尊重、4.生活自律からなる。両変数群間の相関値から、社会性の尺度がボランティア活動を規定する要因としてより重要であることが分かり、親のしつけによって社会性を育てることが大切であることを述べた。


73 障害児教育を効果的にするためのコミュニケーションの研究(T)−自閉症児の時間障害を理解するための時間論の構築− (1997) 鳴門教育大学学校教育研究センター紀要(11pp.75-84)
〔執筆者〕中塚善次郎、大田雅美、大向裕美、木村みどり、上松育代。本人(中塚)は基本哲学の提供、研究の企画、論文執筆を担当。

 概要:自閉症児の症候を精神病理学的に理解するために、自己・他己双対理論に基づいて新たな時間論を構築した。これは、自己が未来を、他己が過去を形成する働きを担い、自己(未来)と他己(過去)の弁証法的運動とその統合の過程が現在を生み出していくと考えるものである。自己が未来を形成するのは、自己の可能性を追求して生きていこうとする期待や予期の働きにより、他己が過去を形成するのは、他己が自分のなしたことを客観化する働きによる。また、未来と過去の統合である現在は、自我−人格の精神機能によって営まれるものである。


74 障害児教育を効果的にするためのコミュニケーションの研究(U)−同名論文(T)で構築した時間論による自閉症児時間障害の理解− (1997) 鳴門教育大学学校教育研究センター紀要(11巻pp.85-94)
〔執筆者〕大田雅美、木村みどり、大向裕美、上松育代、中塚善次郎。本人(中塚)は研究の企画と構成を担当。

 概要:同名論文(T)で構築した時間論に基づき、社会性障害をもつ自閉症児の、時間障害の説明を行った。自閉症児の記憶想起現象と、精神分裂病や心的外傷後ストレス障害の記憶想起現象との比較を行うことによって、自閉症と精神分裂病は、どちらも社会性の障害であり、他己障害であることを明らかにした。他己障害では、過去を喪失していることになり、現在も存在しないために、未来へ安定を求めて同一性への固執が起こる。また、自閉症児のなした行為の記憶は、客観化できずにいつまでも情動的色彩を帯びたまま自己の中に保たれる。こうしたことから事例記述を解釈し、さらに教育にあたって考慮すべき事柄を述べた。


75 知的障害児の社会・生活行動(T)−新版S-M社会生活能力検査に見られる養護学校の実態とその意味− (1997) 鳴門教育大学研究紀要(12巻pp.191-204)
〔執筆者〕中塚善次郎、大向裕美、赤尾泰子、木村みどり、岩井勉。本人(中塚)は研究の企画と論文執筆を担当。

 概要:精神薄弱養護学校在校生の社会・生活行動を新版S-M社会生活能力検査で調べた結果、6つの領域で多少のバラツキはあるが、高等部でも再重度児では社会年齢が2〜3歳にしか達せず、重度児でも4〜6歳程度にしか発達しないことが明らかになった。こうした子どもたちはほとんど社会的に自立することができず、一生にわたる援助を必要としている。このような事実が教えるのは、他者に援助することが人間の存在の本質である、ということである。


76 自閉症児における左半球障害仮説の提示−コミュニケーション障害の大脳生理学的基礎 をより深く理解するために− (1998) 鳴門教育大学学校教育研究センター紀要(12巻pp.21-30)
〔執筆者〕中塚善次郎。

 概要:本論文の目的は、自閉症児では大脳左半球機能系が障害されているとする、新しい仮説を提示することである。大脳生理学者のエックルスが述べているように、ヒト科になって愛他主義が発生し、それに連れて左右半球に機能差が生じたが、その左右半球に、自己・他己双対理論で述べられる自己と他己が対応していることを明らかにした。次いで、左半球は人格+言語+運動+感情(人の心を感じるこころ)を司り、右半球は自我+認知+感覚+情動を司るが、自閉症児では左半球機能系が障害されていると考えられることを、これまでの研究を引用して明らかにした。


77 時間性の学としての倫理学−自己・他己双対理論による革新− (1999) 鳴門教育大学研究紀要(13巻pp.1-15)
〔執筆者〕中塚善次郎。

 概要:大谷愛人著『倫理学講義』を取り上げ、自己・他己双対理論およびそこから構築された時間論に基づいて、倫理学の革新に関する考察を行った。大谷は、現代の倫理学がカオス状態の中をさまよう学問に陥っていることを指摘しているが、そうなってしまった基本的な原因は、現代人が自己肥大と他己萎縮を進行させ、他己の領域に属する信ずべき価値や目的を喪失したところにある。また、理性主義や個人主義がこの傾向を加速させている。こうした中で、自己・他己双対理論は、自己と他己の統合という、人間の根源に帰ることこそを、現代のあるべき姿として示すものである。また、大谷の言う「今日の時代の倫理的意味」を的確に捉えることができ、「倫理学が求める特殊性」も十分に満たすものである。


78 人権問題に関する基礎的研究(T)−若干の哲学的・「人間精神学」的考察− (1999) 鳴門教育大学学校教育研究センター紀要(13巻pp.29-38)
〔執筆者〕中塚善次郎、岩井勉、佐々木博人。本人(中塚)は研究の企画と論文執筆を担当。

 概要:「人間精神学」を背景として、人権問題に関し、次の7章からなる考察を行った。@差別解消のために、人間存在についてどう考えるべきかについて、Aいじめの心理メカニズムについて、B人間の「真の平等」を実現するものは愛であることについて、C子どもの人権は大人が愛と自由を与えていれば自然に実現できるものであることについて、D人権の主張には義務の遂行とのバランスが大切であることについて、E自由と平等と友愛との関係はどうあるべきかについてF民主主義の欠点である衆愚政治を克服するにはどうしたらよいかについて。


79 学道要諦−教員養成系大学・大学院学生のための指針− (1999) 鳴門教育大学研究紀要(14巻pp.149-162)
〔執筆者〕中塚善次郎。

 概要:この要諦はもともと、平成2年度初頭、当時の学生・大学院学生の勉学・学問に対する態度があまりにも出来ていないことを痛感し、基本的な心構えと姿勢を教示するために「大学・大学院学生心得10条」として作成したものであり、以来筆者の授業を履修した学生には毎年配布を行ってきた。この10条の作成を意図するに至って、既に10年以近い年月が流れたが、その必要性は本学学生に限らず、ますます増大しているように感じられ、公表することとしたものである。なお、これまでに発表してきた「障害児響育要諦」「人間響育要諦」と、この学道要諦を合わせて「響育関係3要諦」としたい。


80 「人権と平等論」ノート (1999) 鳴門教育大学学校教育研究センター紀要(14巻pp.93-102)
〔執筆者〕中塚善次郎、小川敦。本人(中塚)は研究の企画と論文執筆を担当。

 概要:自己・他己双対理論と、これまでに展開した人権と平等に関する議論を基礎として、新たに、次の5章からなる考察を行った。@人間が真に平等に至ることは、生死を明らかにすることによってだけ可能であることについて、A大乗起信論の考える平等とは何かについて、Bアメリカの社会、精神病理がなぜ起こるのかについて、C実母殺しから考えられる、平等とは何かの問題について、D尊属殺重罰規定の合憲および違憲判決から考えられる、平等概念の哲学的意味について。




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