その結末を見てわたしは「いいなあ。」と、思ってしまったのです。もちろん、足下の断層が動くという経験についてではありません。それ以来、私は「川の立体交差マニア」になってしまったのです。
今回の調査地点は中国縦貫道津山インターチェンジ付近の農業用水路です。Aのところに取水口があり、Bまで川の南岸を水路がくだっています。
ところが地図上の水路はここで途切れてしまい、川の北岸のCから水路が始まっているのが見て取れます。
さあ、現地に行ってみましょう。
吸い込み穴の不気味さとはうらはらに、静かな流れがありました。
これらの水路の標高は、その間を流れる加茂川の川底よりも高いところにありますから、この2つの穴をつなぐ部分は逆サイホンになっています。吸い込み穴から落とす水の勢いによって、川底を通る水路から再び沸き上がらせるだけの水圧を与えているわけです。
じゃあ、その川底の水路はどうやって造ったのでしょう?
川底は河原の石がずっと下まで堆積しているわけですからトンネルを掘り抜こうというのは無謀なことです。加茂川の全水量が湧き出す井戸が出来てしまうだけでしょう。
聞くところによると、この川底水路は2年計画で始めの年に半分を掘り、次の年に加茂川の流路を変えて残りの半分を完成させたそうです。
川底の地質はクジラの化石などを産した二宮地区と同じ第三紀層で、硅化木などの化石が産出したそうです。
さて、水路をさらに下っていくと、D地点でこの水路は再び大きな川に注いでしまいます。
写真手前の水色の柵のようなものがここまで追ってきた水路の樋門です。この川は北から流れてきた蟹子川という支流で、向かいに見える樋門は川崎地区を潤す才勝土地改良区の取水口です。この部分で水路と川は平面交差になっているわけです。
この場所の小さいダムのようになっている井堰は可動式になっていて、加茂川との水位差は3mほどでしょうか、私が追ってきた1.5kmにも及ぶ水路と逆サイホンはこの場所での数メートルの水位差を確保するために作られたようです。そればかりか、ここまでの水路がなくても通常はここに見える取水口に水がなくなるおそれはほとんどないでしょう。
加茂川の本流には上流にダムがあるため相当な干ばつの時でも水がなくなるおそれはありません。私が見つけた川の立体交差や平面交差は数年に1度の干ばつの時に役立つよう設計された特別の水路だったわけです。
この調査の写真が出来上がったとき隣席の友人が「ようそんなことに気がついたんじゃなあ。」と感心したのですが、それは「誰もそんなこと気にしてないよ。」の意味でしょう。
ええ、誰でも知っていることは独創をモットーとするこのページの主義に反しますから。
でも、「そんなこと、誰でも知ってるよ。」といわれたら困るなあ。