最古のマザーボード

-拾いものですみません-

最近、このページに画像が多くなってしまって困っています。 今日もまた大きな画像をUPしてしまって良心にとがめています。

これは半年ほど前にごみ捨て場から拾ってきたプリント基板です。
NEC TRAINING KIT (TK-80)という文字が輝いていますね。
個人的には欲しくてもどうしても入手できなかった記憶のあるマシンですが、こういうものを自ら組み立てる方々がいたというのは驚異です。

世間には基盤マニアの人がいるというので(私もその端くれでなきにしもあらずですが)、ここに展示して昔を懐かしむことにします。
これが日本最古のマザーボードという定義で間違いないかは異論もあるでしょうが、マイクロコンピューター普及機の魁であることは間違いありません。
マイクロコンピューターという言葉は1980年代が終わる頃には組み込み式コンピューターを意味するようになって代わりにパーソナルコンピューターの時代になったわけですが、このマシンは拡張によってはBASIC言語が動いてゲームなどがプログラミング出来るようにもなるすごいやつでした。
このボード完成品1枚が8万円ぐらい、拡張してBASICが動くようになれば12万円ぐらいと記憶しているのですが、その頃は自分で買える身分ではなかったので定かな記憶ではありません。
ただ、新品のパソコンの値段というのは昔も今も消費者の購買力が基準で決まっていますから似通ったものだなあと感心します。

「最高のものを買ったのでこれで当分遊べるぞ!」と、思った方。その「当分」はいつまで続いたのでしょうね。

さて、ボードにICの名前が書いてありますからこのマシンのスペックを調べてみましょうか。

CPU Intel8080A
今でも主流のIntel製でした。動作クロックは2MHzだったと記憶しています。
Intelのパーソナル向けCPUは4ビットの(どんな命令体系だったのでしょうね?)4004から始まって8ビット化8008、そしてこの8080で一世を風靡したのですが、その後ザイログのZ80に主流を奪われてしまいます。
Intelの進化はI/O周りを強化した8085、16ビット化した8086と続き、8086が各社のパソコンに採用されたため主流の座を奪還します。8086が80286になり、80386になり、80486と来たところで同業他社に紛らわしい名前を使われ、数字の登録商標が取れないためPentium(5を意味しますね)の名前の登場となります。
それならIntelの最新CPUはHexiumかSeptiumあるいはOctiumと進化しそうなところですがどういうわけかその方向には進化しなかったようです。
8086の命令体系は8080の上位互換となっていましたから、このTK80で動いたプログラムはPentiumIIを使った私のマシンにも移植できるはずです。が、ある理由によりそれは非現実的なものとなっています。

メモリ 2101または5101 8枚
8枚で最大1キロバイトものメモリが搭載されています。
この文章をここまで書いてサイズを調べてみたら2.7キロバイトありましたから、どんなに窮屈なものだったか想像を絶するものがあります。
このメモリでゲームをプログラムしたり、達人は家計簿をつけたりしていたというのですが。あと、モールス符号の解読、人工衛星の軌道計算、電卓のエミュレートなど、無限の用途が約束されていました。
今、1キロバイトのRAMで何ほどのことができるでしょう?Windowsを終了させる文字列ぐらいは書ける?いえいえそれは1キロバイトの10万倍ぐらいをWindowsそのものが占めていて初めて出来ることです。
2101と5101はピン互換ですが、5101の方はCMOSで、消費電力が小さいため乾電池で数日間のバックアップができるというスグレモノでした。

チップセット らしきもの 
8255というCPUと同じ大きさのLSIはパラレルI/Oです。これは優秀なLSIで、その後のパソコンにも長いことこれが使われていました。
あと、8224、8228、8212と、82xxの番号のICが散在していますが、比較的簡単な仕事しかしていません。現代でいえばチップセットというところですが、回路図片手に目で追えるようなのんびりした処理系でした。

ディスプレイ 7セグメントLED表示器8桁
8888 8888と8個並んだのがディスプレイです。
これでルーレット、占い、シューティングゲームなどを実現するのもすごいですが、プログラミングそのものもすさまじい作業だったに違いありません。
その下にある穴に16進キーを含む25個のキーがあってそれでパチパチ打ち込んでいたのでしょうが、1キロバイトの状態を考えて決めるのに今で例えればLinuxのサーバ立ち上げよりずっと大きな労力を要したものでしょう。
さあ、こんなマシンが欲しいですか?
私は歴史の遺物、これ1枚あったら足りました。動いていては疲れそうです。
あ、株式会社アスキーが「復活!TK80」というCD−ROM付きの本を出しているようですね。Windows上で動くTK80エミュレーターだそうです。
はんだごてを振り回して、機械語を乗りこなしたい方にはTK80のほとんどまるまるの機能が小指の先ほどに収まったワンチップマイコンも出回っています。ううむ。これがあればHEXclock実物版が出来るのですが。

現代のマザーボードは同じような大きさですが、これに比べると自作というも恥ずかしいような簡単なものです。そういうやつなら、必要以上に作っては投げしてみたのですが、これはきっとTK80時代(私は中学生でした)のトラウマのなせる業でしょう。
コンピューターの性能は年々倍になるので25年経った今では数百万倍の仕事が出来るわけですが、新しいものが人を引きつける喜びというのは当時のTK80の方が遥かに大きかったのだろうと思うのです。


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