大沢池の地質

-オウムも訪れた変な名所-


片手間地質調査の旅は、今回上田邑地区の大沢池にやって来ました。
第三紀層のみごとな砂泥互層は鏡野町で多く見られるので、その写真を撮りに行った帰りに、大沢池の南端を渡る橋を渡りました。一宮地区は、前回調査した場所から西が古生層であるのに対して、鏡野町から上田邑地区の大部分が第三紀層なので、この辺が境だったらわかりやすいのになあ。と、思って池を眺めると、東岸が古生層で、西岸が第三紀層になっているではありませんか。

この池は全国的に有名になったことが1度あります。
オウム真理教のメンバーが坂本弁護士一家を拉致し殺害した事件のおり、事件を起こしたことに興奮したのか、坂本弁護士一家の遺体を新潟県から富山県のあたりの山中に埋めたあと、島根県のあたりまで追うもののない逃避行をしました。それから引き返すとき立ち寄ったのがこの大沢池です。
彼らはこの池に血痕の付着したパジェロのフロアマットを捨てたというのですが、数年経って大捜索をした時に、見つかったのかどうかははっきり知りません。

調査はまず、革靴に背広で東岸の岸にへばりつくところから始まりました。
東岸の岸そのものは走行が東西で傾斜が極めて急な(縦に割れている)古生層の変成したものがずっと見られます。
岸から少し上がった道沿いでは層理がはっきりせず、なんだか破砕されたような状態が見えますが、腐っていて(風化して)何だかよくわかりません。
何度か池に落ちそうになりながら池をほとんど一周したのですが、池の東側ではあまり変わったものは見つかりませんでした。
この時、すすきの穂に目を打たれて大いに痛かったのですが、家に帰っても痛いので目をこすっていたらすすきの種が目から出てきました。今日の最大のびっくりはこれかも知れません。

今度は西側の廃屋のある広場から靴をとられないように気をつけて入り江を回って見ます。
橋のたもとでは東岸と同じ古生層ですが、廃屋の裏に達したところでいつの間にか第三紀層に変わります。境目がどうなっているかは風化のためよくわかりませんが、垂直に切れている感じがします。
スコップで掘ってみればわかるのでしょうか?私はアマチュアですので、科学のためとはいえ他人の土地を掘り返すことははばかられました。

1つ目の入江を回り終えた岬は第三紀層で出来ています。緩やかに南西が下がっています。
真っ白い石英質の石ころが散らばっているのが目立ちます。それからなぜかカラス貝の殻がたくさん落ちています。
次の入江を回ったところでしばらく行くと湖岸は古生層に変わります。
境目はどうなっているでしょうか。


写真は境目付近を写したものですが、みごとに風化しています。細い木ぎれが落ちているあたりが境界で、下には角張った石英の岩脈が走っているのに対して、上半分はおおむね土で出来ていて白い丸い石ころが含まれています。
この周囲には真っ白いビー玉のような石がたくさん散らばってもいるし、第三紀層にたくさん含まれているところもあります。
この石はこの大沢池で作られたものではありません。5千万年前にこの場所で海岸を洗っていた波が造った玉砂利です。材料はこの近くの古生層から洗い出されたものと思われますが、かなりな長時間波に洗われていないとこんな玉砂利はできません。このため池が出来てからの歴史では不可能なことです。どうやらここが古生層と第三紀層の不整合面のようです。一宮で見られたような十数メートルの砂利の堆積ではなく、非常にあっさりと砂泥互層に移行しています。

今度は橋より南側の西岸を見て見ましょう。
橋のたもとは古生層ですが、しばらく行くといつの間にか第三紀層に変わります。
変化が垂直的で、基底れき層のようなものが見られないのであるいは断層なのかも知れません。

もう少し南に進むと第三紀層とおぼしきものが水平な層をなしていますが、池の水面にほど近いところに角ばった岩がはさまっています。どうしたらこんなことが起こるのでしょう?
その奥の真っ黒い土は日本原などで見られる黒ぼこ土(火山灰土)のようですが、津山市内で黒ぼこを見ることは珍しいのでこれも不思議な感じがしました。いったいここで何が起こってこうなったのでしょう?

細かいことは私にもわからずじまいでしたが、今回の大沢池の調査をまとめるとこういうことになります。
池の周囲の大部分は古生層で出来ていますが南西部に第三紀層が見られ、境界は不整合です。
境目は南東〜北西に伸び、池の岸をかすめるように地質を分けています。この線を境に地図の等高線も南西が緩やかに、北東が険しくなっています。
そして、大沢池を形作る谷自体がこの地質の変化による浸食の差によって生み出されたような気もします。断層があることも予想されますが、今のところは不明としておきましょう。

数千万年もの時を越えて、ここが海岸だったことを教えてくれた、そのときから今まで変わらぬ大きさの石ころだった真っ白な石をちょっといとおしく思って拾って帰りました。


補遺・フィールドマップ
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