あるUFOの正体

-夕焼けの中を飛ぶ炎-


10年ほど前にUFOを見て驚いたことがあります。
UFOといっても、「私が知らない」という意味で、銀色の灰皿の形とかしていたわけではありません。
帰宅途中の車から、雲の多い夕焼け空を見ていたら、地平線近く、南西の雲間に炎の塊のようなものが飛んでいて、ゆっくり東へ移動して行くではありませんか。
メラメラと燃えています。隕石でしょうか?あんなのが落下したら大災厄になるのではないでしょうか。
それともロケットでしょうか?種子島から打ち上げるロケットは地球の自転の速度をおまけに利用するため、東向きに打ち上げます。しかし、それがこうして見えているのでしょうか?

ああ、カメラを持っていないのは惜しまれます。車を停める場所もありません。
ところが、翌朝の新聞を丹念に見ても、隕石の落下や、ロケットの打ち上げがあった様子はありません。そのときはさっぱり何だかわからずじまいでした。

その昔、私はまた別のUFOを見たことがありました。
大阪に住む友人を電車に乗って訪ねていって見たら、予告なしに行くものだからあいにく友人は留守でした。仕方がないので歩いて伊丹空港に行って、滑走路の端で降りてくる旅客機を眺めていました。
関西空港が完成してからずいぶん密度が減ったと思いますが、滑走路東端で降りてくる飛行機の数十メートル下に立つと壮観です。銀色の機体に地面が映り、ゆっくりであれば自分が映っているのまで見えるのではないかと思うくらいです。
夜9時になるとぴたりと飛行機の着陸は終了し、静寂が訪れます。
鋳物工場などが立ち並ぶ滑走路脇を歩いていたそのときです。

北西の空、六甲山の方角から何か光るものが並んで飛んできました。
燃え尽きる寸前の線香花火のようにチカチカ火花を吹き出す燃えるものの塊が数個、さいころの五の目のように互いの位置関係を変えないまま編隊を組んで空を横切って行きます。
あれ?何だ?・・・ははーん、さすが大阪の街はけったいなものが飛んどるなあ。
私はさっきまで飛行機の着陸を2時間あまりも見続けていたため、見慣れない飛行物体に対してさほど驚くことも出来なかったのでした。

その夜の11時のニュースで、それは人工衛星の大気圏突入であったことを知りました。大阪の上空を横切って紀伊半島沖に墜落したそうです。
正体が分かればUFOでない理屈ですが、何にせよ珍しい現象があったのならしっかり目を開いて見届けたいのが人情でしょう。私は大阪の一件の時、もっとよく見ておけばよかったと大変後悔したものです。

さて、夕焼けの中を横切って行った、先のUFOは何だったのでしょう。


先週、同じものと思われる物体が飛行中のところを発見し、ちょうど車も停まっていたし、カメラには200ミリレンズが付いているし、絶好のチャンスを得たので10年前の仇に写真を撮ってやりました。
実際は、車の中で退屈していて、レンズを付け替えて被写体を探していたというのが真相ですが。
画面を横切っているのは飛行機雲です、そして、この2つの物体はその雲よりいくらか高いところを飛行しているようです。
この日は大気が不安定なのか飛行機雲がたくさん見られる日でしたが、飛行機の高度によってはすぐ消える飛行機雲が出来ます。
これが夕方の紛らわしい時刻に飛んでいたらちょうど私が見たUFOとそっくりに見えるに違いありません。
飛行機の後ろで出来ては消える飛行機雲は、見ているとノロノロ動く彗星のようです。


拡大してみても、飛行機の姿は定かではありませんが、白い筋が4本吹き出ているところを見るとボーイング747あたりでしょうね。
10年前のあの夕焼けも雲の多いときだったと記憶しています。そして、暮れゆく太陽に透かされるようにしてしっぽのような飛行機雲が輝いていたのでしょう。
私はこんな飛行物体を見ると、正体が分かっていてもじっと見送ってしまうのです。
いつか、本当に珍しい本物が混じっていることもあるかも知れませんから。


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