逆さにものを見る私たち

-逆さ網膜像のささやかな実験-


普段、私たちが生活している中で、目に映るものが逆さに見えているなんてことを意識したことがあるでしょうか。

知識として知っている人は多いだろうと思います。

しかし、実体験として網膜に逆さに景色が映っているのを経験した人はまずいないはずです。
私は暇人なもので、ちょっとしたことで網膜に逆さにものが映っているんだなあと知る経験をしましたので、全国の暇人の皆様もちょっと試してみて下さい。

※注意:試しすぎると目を傷めることになりますのでちょっとだけですよ。※

まず、出来るだけ下の方を見ながら、上の瞼の上、眼窩のところを押してみます。

指に眼球の弾力が感じられると同時に、視野の下の方に光とも影ともつかないギラギラしたものが見えないでしょうか。
見えなくても一生懸命やってはいけません。たぶんそこんところは眼球を動かす細くて大事な筋肉がついているところですから力いっぱいやっては危険だと思います。
さて、目玉の上の方を押してみたのに下の方にギラギラが見えるのはなぜでしょう?
私はこのギラギラが、網膜が感光面から見て裏側、つまり眼球の外側から圧迫を受けてそこに何らかのイメージを生じたものだと考えました。

つまり、出来るだけ上を見ることによって眼窩の外側に網膜の裏側が向いているのをとらえることが出来たのです。


さて、今度は出来るだけ上の方を見ながら下瞼の下の方を押してみます。
今度は上の方にギラギラが見えないでしょうか?
今度は上の方を見ることにより眼窩の下側で網膜の裏側をとらえることが出来たようです。
実験はこれだけですが、もう一つだけ実験をより完璧にするために確かめておきたいことがあります。
すでに2度、大切な眼球を危険にさらして来ましたから、これに耐えられる人だけ覚悟して臨んで下さい。

この実験で私が疑いを持ったのは、このギラギラ像が、眼球を一方から押すことにより、眼球が反対側の眼窩に押しつけられて、頭蓋骨と網膜の圧迫により作られた像なのではないかという点です。
そういう考え方でも押した方の反対にギラギラ像が見えることが説明出来ます。

これの反証を挙げるのは比較的簡単でした。
再び一杯上を見上げた状態で、今度は二本の指で眼窩すれすれの眼球をそっと押してみましょう。
ギラギラ像は2つ見えます。
これで今疑った頭蓋骨押しつけ説の反証ができました。
眼球が反対側に押しつけられてギラギラ像を作るならば、二本の指で押しつけたときにギラギラ像は中間点に1つだけ見えるはずです。

さて、私はこの実験をしてみて、2つのことを思いました。
一つは、網膜の後側に触れることができるなんて、眼球って結構ダイナミックでアバウトな作りなんだなあという印象です。
もう一つはこれに反するようですが、その構造に比して実際に見える映像があざやかで、しかも方向感覚が修正されているという視覚の精妙さに対する感動です。
ものを逆さに見ながら平衡を保ち、歩き、見分け、何でも出来る私たちですが、どうしてそれが出来るかというと、実は単なる「慣れ」なんですね。


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