さて、この昭和池は池のすぐ下から市街地の北半分までをエリアとする相当な範囲を潤しています。その多くはいったん河川に放流した用水を下流で汲み上げて用水路に流す形で幹線水路としているのですが、エリアの中には大きな谷を挟んだ向かいの山の上も含まれるので不思議に思っていました。
住宅地図の、住宅がないところを見ていると、昭和池から東の山肌に、等高線に沿って水路が延びています。時にはトンネルになり、また現れたりして、2キロほど東に行った後、水路は山腹で急になくなっています。(A地点)
川の立体交差マニアとしては、ぜひともそこに行ってみないことには済まなくなりました。
登山口はここだろう。と、あたりをつけて登り始めたのは、川沿いにある小さなお稲荷さんの前からでした。正確な道案内は知らないので、ため池の土手をよじ登ったり、林を突っ切ったりしてやみくもに登ります。おっと、正式な道に出ました。実際はお稲荷さんの右側の細道を登ればいいようです。
水路に突き当たったら、水路沿いに東へ進みます。等高線に沿って延びる水路は、ドングリの林や、竹藪の間をぬってクネクネと進んでいきます。草刈りもまめにしてあるようで、日当たりのよい、風情のある道です。
水路はシーズンオフのため、水がなく、枯れ葉が積もっています。
何度もカーブを曲がって、その先に予期したものが見えました。
今度は車に乗って向かいの山の同じくらいの高さに登り、出口を調査することにします。
向かいの山は果樹園と住宅団地になっていて、すでに田んぼでなくなっているところが多いようで、何度か関係なさそうな人家の庭先や果樹園の中で道がなくなっているところに迷い込んだあげく、ずいぶん高いところで大きめの水路を見つけました。(B地点)
これはすごい。農業用水路には、場所によってポンプアップの場所があったり、完全に地下に埋設された水路網も多々あるわけですが、逆サイホンという物理法則だけに頼って川を立体交差させるのはこれが究極です。しかも、それを管理している人たち以外、まず気がつかないような方法でこんな大きな谷を一またぎしているのは感動です。
川の立体交差を追い求めてきた孤独なマニアは、ここに来て大いに満足して、ひっつきもちにほつれたスラックスと赤土にまみれた革靴で、古めかしいカメラ片手に立ちつくしたのでした。
なお、金沢の兼六園付近には江戸時代の大規模な逆サイホンがあるとのことです。