ふだん亜鉛をよく見かけるのは、屋外に使われているトタン板、あれが亜鉛メッキ鋼板です。
塗装がされていないものは、霜のような模様の結晶が貼り付いているように見えます。
亜鉛は鉄よりもイオン化傾向が高いので鉄より早く錆びます、鉄の表面にメッキされた亜鉛の層が存在して錆びている間は内部の鉄はイオン化傾向が亜鉛に勝っているため錆びることがありません。しかも亜鉛の錆は白色であまり汚らしくないので錆びていながらも見かけはほとんど変わりません。こうした理屈で亜鉛メッキ鋼板は相当の長期間風雨にさらされることに耐えることができます。
よく考えると、これは亜鉛の錆び易さが大きな役割を果たしていることになります。
この逆の考え方を用いたのが灯油缶やクッキーの缶に見られるブリキで、これは鉄より錆びにくい錫でメッキされた鋼板です。
ブリキ缶を屋外に放置したら、表面の小さな傷から水分が入り込み、内部の鉄が先に錆び始めるのでさほど長持ちしません。
昔から使われているトタン板に、こんな逆転の発想が使われているのは何だか痛快です。
こんなローテクな方法ですが、風水的に考え抜かれた方法は、ハイテクや力まかせの方法よりずっと勝っているのです。
さて、ノーガキが長くなりました。
私の所有する車の1台は、マフラーのタイコが3年ごとに破れるという難儀な性能の車です。
この夏には外板の数カ所が大きく錆びて、かなりな板金修理を要してしまいました。
そこで、愛車を錆から守る風水護符を入手して、その効果を検証してみようと思いついたのです。
亜鉛はマンガン乾電池のマイナス極に使われているので、単1乾電池をバラせば、それなりのものが採取できるはずです。しかし、今回はもっとすばらしい材料を入手してきました。
今では見かけることが少なくなりましたが、工事現場でポールの先にくっついて豆電球を点滅さている紙巻きの乾電池は、分解してみると単1乾電池の数倍の大きさのマンガン電池が2本入っています。
これをバラしたらすばらしく大きな亜鉛板が手にはいることでしょう。
材料は工事用乾電池、タガネ、ハンマー、万能ハサミ(またはブリキ鋏)です。
以前(20年前)やったときは鉄切りノコでゴリゴリ切って相当の時間と労力を要したのですが、製品がいくらか大きくて切断面が美しいということにこれほどの手間は引き合わないので、今回はタガネでたたき切るという方法を選びました。
表面の紙をはがすと、わくわくするほど大きな乾電池が現れます。
ブリキのケースなども使われていませんから、亜鉛がむきだしになっています。
また、工事現場にこれが捨てられている場合は、3Vでバイメタルによる自動点滅する電球がささっていることも多いのですが、今回はついていませんでした。
プラス極がのぞいている上面は厚手の油紙のようなものでできていて、丁寧に分解すれば鉛筆ぐらいの太さの炭素棒を採取することができます。
いざ、分解に取りかかろうとタガネを打ち込んで見たら、何だか妙です。
タガネがスポリと刺さってしまいます。
側面をハンマーで軽くたたいてみると、亜鉛板はおおむね溶けてなくなっています。
実はこの電池、3年前の水害の時に拾得したもので、3年間車のトランクに放り込んで通勤していたものです。(経済的にも、環境的にもよろしくないので車に無駄なウエイトを積むのははやめましょう)
電池を使い切った時点では亜鉛板は健在ですが、長期間放置すると文字どおり電池はなくなってしまうことを知りました。
結局5本の工事用電池のうち、亜鉛板が残っていたのは1本だけでした。危うく計画が頓挫してしまうところでした。
さて、タガネで底面に沿ったところを断ち切って、万能ハサミで側面を切開すると、中は真っ黒です。
成分は炭素、電解質、でんぷん糊、二酸化マンガンなどの練り混ぜられたものだと思います。
近年の電池でしたら水銀は使用されていないので、津山市では「もやせないごみ」として処理しましょう。
二酸化マンガンは電池の放電によって電極周りに発生する水素の泡を水に戻し、放電を維持するために触媒として加えられているのですが、これが回収できたら、何か再利用の道はないでしょうか?
なお、マンガン電池以外の種類の電池は分解すると危険な気がしますのでやたらと分解してみないことをお勧めします。
さて、バラした乾電池の真っ黒な中身を捨てて、電極の亜鉛板をハンマーでまっすぐに直し、お好みにより縁をきれいに切りそろえたらさび止めの護符は完成です。
このような亜鉛による防錆法は、ボイラーの中など、直接手を加えることのできない鉄製品でちょくちょく行われているそうですが、車に使用するには注意しておかなければならないことがあります。
それは、鉄よりイオン化傾向が高い亜鉛により、使用箇所にはふだんより多くのイオンが発生し、さび止めの護符が効力を失ったとき、すなわち亜鉛を消耗しきったときにはその部分から急速に錆が発生する可能性が考えられることです。
実際、薄手のトタン板が表面の亜鉛層を失ったときは即座に鉄もボロボロに錆びてしまいます。
あと、使用にあたっては車体と電気的な接続を行うことが必要です。
どうやら車体に穴をあけてビス止めが必要なような気がしたので、この試みは現在ここまでとなっています。
そのうち「さび止めの護符(設置編)」と、でき得れば「さび止めの護符(結果編)」を報告したいところですが、あと3年もして再びマフラーが錆びる頃に、このホームページが存続しているかどうかは不明です。