原子力発電賛否投票

-20万円で参加できる不思議な投票-


私の手元に例年届く投票用紙が今年も届きました。
中国電力の株主総会通知です。

昨年春に1380円(×100=13万8千円)ぐらいで購入した株ですが、ハイテクバブル崩壊の間じゅうじわじわ上がり続けて、SONYで出した損を慰めてくれた株です。
この投票には、今回で3度目の参加になります。

普通の株式総会通知には

  1. 第○○期利益処分案承認の件

  2. 取締役○○名選任の件

  3. 監査役○名選任の件

  4. 退任取締役および退任監査役に対する退職慰労金贈呈の件

というありきたりで、まず否決されることのない項目が並んでいるだけですが、中国電力に限っては一部の株主から次のような興味深い提案があって、株主の原子力開発に対する意識をアンケートして下さることが年中行事となっています。
これは中国電力が原発1ヶ所(島根原発)を稼働させ、さらにもう1ヶ所(上関原発)を計画中ということが背景にあり、原子力開発に反対の株主の一団(124名、株式の0.025%を保有する方々)が株主提案として会社の方針の変更を求めているものです。
タイトルは5.が(2つ目の)「利益処分案承認の件」である以外は「定款一部変更の件」(1)〜(6)となっていますから、今度は内容を抜粋してみます。
  1. 利益処分案承認の件
    世界の核被害者救済と新たな核被害者をつくり出さないために30億円を「核被害者救済基金」として利益処分する。
    また、現在ある「中国グリーン電力基金」について目標、助成方法などを改正し、30憶500万円を利益処分する。


  2. 定款一部変更の件(1)
    定款の(目的)の条に「ただし、核燃料は使用しないこととする。」を追加する。


  3. 定款一部変更の件(2)
    定款の(目的)の条に「自然・再生可能なエネルギーなどでの発電事業」の号を追加する。


  4. 定款一部変更の件(3)
    定款の(目的)の条に「使用済み核燃料および核廃棄物の管理保管事業」の号を追加する。


  5. 定款一部変更の件(4)
    定款の(選任)の条に「取締役には、監督官庁である国や、許認可権をもつ地方自治体からの派遣は受け入れないものとする。また、これに準ずる特殊法人などからの扱いについても同様とする。」の項を追加する。


  6. 定款一部変更の件(5)
    定款に「プルサーマル、核燃料サイクルの禁止」の章を新設する。


  7. 定款一部変更の件(6)
    定款に「設備投資の検討委員会」設置の章を新設する。


それぞれの株主提案に「提案の内容」「提案の理由」その上「取締役会の意見」というのが付されていて、その内容はありきたりの株主総会議案とは全く違っています。 たとえば6.定款一部変更の件(1)だと、
提案の内容
当社の定款第1章,第2条(目的),(1)電気事業を一部改正し,「ただし、核燃料は使用しないこととする」を追加する。(後略)

提案の理由
原子力発電の重大事故は,国内においても,美浜原発の事故,もんじゅのナトリウム漏れ事故,東海再処理工場爆発事故と続き,ついには,JCOの臨界事故で2人の社員が大量被曝をし,治療のかいなく亡くなられるという悲惨な事態を招くに及んでいます。
今後,電力自由化が拡大していく中で,コストダウンが求められ,安全性の追求がおろそかにされていくことが大いに考えられます。加えて,島根原子力発電所は老朽化が進み,地震災害すら予想される時,事故の危険性を否定することはできません。
当社は,当社を支える社員,消費者である地域住民の安全を保障する責務があるのであり,かかる事態は絶対に避けなければなりません。また,重大事故を招くような事態は,膨大な補償金支払いで当社の利益を損ね,社会的信用をなくし,会社の存続すら危ういものとなり絶対に避けるべきです。
原発事故が起きることを考えれば,一切の核燃料を使用しないことに尽きます。

取締役会の意見
取締役会としては,次の理由により本議案に反対いたします。
原子力発電は,エネルギー供給の安定性,経済性,環境保全の面ですぐれた電源であり,長期にわたり電力を安定的に供給していくために必要不可欠であります。今後電力自由化が進展していく中においても,その位置づけが変わるものではなく,当社は,安全確保を最優先に,引き続き原子力発電所の安定運転に取り組んでまいります。
なお,定款は会社の基本事項を定めるものであり,ご提案のような業務執行に関する事項を規定するのは適切でないと考えます。

こういったやりとりが分厚い封筒で配布され、結果の投票に参加させてもらえるというのは毎年の楽しみです。

原子力開発が現在、緩やかなターニングポイントにさしかかっていることは、大方の人が感じられていることでしょう。
放射性廃棄物を完全に処理するということを含めば、原子力発電のコストはマイナスであるということも個人的には私は信じています。

そうした中で、この株主提案を行う方々は原子力政策転換の魁となるのでしょうか?
それとも、「取締役会の意見」(顔をしかめて子供を諭すような口調を連想してしまいます)が、世の中の大人の意見として大勢を占めるのでしょうか。

この投票は、原子力政策の先行きを占うものであるとともに、株主の利益追求の姿勢も問うていることに面白味があります。この両者はみごとなまでに噛み合わないものです。
私にも、中国電力がいっきに原子力発電から手を引いてしまうことは想像がつきません。そんなことをしたら競争力を失って、株価ばかりか、自宅に配電される電力の価格にさえ跳ね返るかもしれません。
仮にもひとつの会社の方針を決定する投票で、実現不可能なことや良識に反する内容を含むものがあれば(この中にそういうものがあるとかないとか言っているのではありません。念のため。)むやみと賛成することはできません。
一方で、原子力が危険でコスト高で有害なものであるなら、それに一定の歯止めをかけることが出来る投票をさせてもらえるのは得難い光栄です。

結局私の1票はここでは面白半分なものに過ぎないかも知れません。
しかし、株主のすべてがこれらのことについて考え抜いて投票しているとも到底考えられません。
そればかりか、会社の方針や株価の先行きについてさえ真剣な興味を有している株主ばかりではないように思います。
この投票について考えれば考えるほど、国策というもの、民主主義というもの、株式会社における株主の位置づけ、といったものについて考えさせられます。そういったことに、日本人はたまには頭を絞ってもいいんじゃないでしょうか?

ところで、私自身はこれらの問いかけにどう投票するのでしょうか?
それはこれから考えます。


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