怪しいセールスマン

-電話番号を盗む商売-


ある日、我が家に奇妙なセールスマンがやって来ました。
聞けば有名な外壁張替え(サイディング)施工業者です。

しかし、我が家は焼き杉の板壁も真新しい新築で、屋根はいぶし銀色の入母屋和瓦下り尾千枚葺きです。この家のどこにセールスの余地があるでしょうか?
セールスマン氏の手元には、この近所の数十軒の略地図と名簿がありますが、ほとんど全てが新築か、さもなくば田舎の典型的な入母屋屋根の農家ばかりです。
「ウチはサイディングの用事はありませんねえ。」「はあ、そうでしょうねえ。」
始めからこの話、カラクリがありそうです。何やら無名な宗教団体の寄付を募りに来る方々、あるいは法外に高い珍味を売りに来て、応援歌を歌って踊って帰る方々、そういった本音を隠しているセールスに特有の奇妙なうしろめたい感じをまとっています。

セールス氏は早々に引き上げる様子を見せましたが、そのときカラクリの正体を現しました。
「ちょっと電話をお借りできますか。」「はあ。」
「セールスの進捗状況について会社に連絡を入れるように指示をされておりまして、」「はあ。」
してみると、このセールスマンは、近所の数十軒を巡回しながら全ての家で会社に連絡をとっているもののようです。
きっと電話を受ける事務所では発信者番号表示(ナンバーディスプレイ)が装備された電話機が待っていて、このセールス氏が表札を確認して電話を入れる都度、電話番号を収集しているものとみうけられます。
「はい、どうぞ。」「恐れ入ります。」
当然私は、電話帳に載っている方の電話機を渡しました。
セールス氏は、電話を受け取ると、会社に連絡するような通話をしていました。
「もしもし、××です。今Sさんのところへ伺っていますが、あと数軒回ってから帰ろうと思いますので、よろしく。」云々。
それからおじさんは、10円置いて次の電話番号収集のために去っていきました。

このおじさん、もしも仮に本当に某有名サイディングの販売員だったとしても、こんな詐欺的な方法で電話番号を収集することは適当なのでしょうか。
もしも仮に本当に某有名サイディングの販売員なら、こんなみみっちい副業をしなければならないほど会社は困窮しているのでしょうか。
こんなことまでして電話番号を収集する方々がいるからには、電話番号(とりわけ電話帳に載っていないもの)に何らかの価値があるということです。

最近は電話番号を電話帳に載せない人も多くなりました。
ウチも、同姓同名の人がいて、あちらの人のほうが有名人であるため、間違い電話の害を避けるため電話帳に名前を載せていません。
一方、電話帳に載っている電話番号は逆引きデータベース化されて年賀状ソフトのおまけにまで付いています。ケイタイに電話を貰ったら、カーナビに電話番号を入れると、即座に発信場所までの経路が表示されたりもします。
自分の情報は本人の知らないうちに販売されて、他人に利用可能となっています。コントロールするすべがないし、拒否することもできないのはちょっと空恐ろしいほどです。彼らのデータベースに電話帳に載っていない電話の住所が書き加えられたなら、その利用価値も一層高まることでしょうが、本人が電話帳に載せないことを選んだ意思や必要性というものは踏みにじられてしまっています。
世の中の何者かが電話帳に載らない裏電話帳を作成しようと動き始めているのをつかんでしまいました。

世の中にはこれに限らず、住所と電話番号を書けば粗品をあげるからと執拗なまでに言い寄ってくる保険屋さんなどがいます。(今その一人と戦いつづけているところです)
インターネットで簡単なアンケートに答えたら抽選で素敵なプレゼントが当たったりして、それで生計を立てている人がいたりもします。
以前私が立てていたホームページにメールアドレスを書いていたら、いつしかそのアドレスに定期的に迷惑メールが配信されるようになってしまいました。
(今はホームページのどこにもアドレスは書いていません。知恵のある人にはすぐわかるアドレスですので。)

どうやら、私たちの住所、氏名、電話番号、生年月日、メールアドレス、趣味、職業、パソコンのメーカー、OSのバージョン・・・等は収集するだけで何らかのお金を生み出すもののようです。
そして、収集されてしまったら最後、私たちは何かを失わなければいいのですが。


今朝の新聞の経済欄に 「さいでりあ 新興産業が 手形不渡り」という記事が出ていました。
その後、「さいでりあ」って何という会社だったかなと、いくら考えても思い出せなかったのですが、上記の記事が暗示していたことが1年もたたないうちに現実のものになってしまいました。(03.01.08追記)

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