私が初めて買ったクルマは初代CR-Xでした。5年オチで57万円だったと記憶しています。
わざわざP店に行って買ったのは「近所だから」という極めてシンプルな理由からでした。
買って早速注文のあるところをメモして、それなりに完全な状態からスタートしたいと願ったのも無理はありません。
確か10項目あった注文の中には、リアスポイラーのくぼみにHマークのエンブレムが欲しい(無償にて対応して頂いた。)なんて愚かなものも含まれていました。
なぜHマークが四角なのにそのくぼみは平べったい十字型をしているのかは長いこと不審に思っていましたが、どうやらそこには「無限」のエンブレムが必要とされていたということにはそのクルマが廃車になってから気がつきました。
あと、「ヘッドライト脇のスモールランプがスモークになっているので純正品を取り寄せて欲しい」という注文は有償にて対応して頂きましたが、届いたのは自分のクルマに付いていたのと寸分たがわぬスモークのASSYでした。「純正がスモークなんですよ。」と身にしみるほど教えてくれた迅速で親切な対応には頭が下がる思いです。
10項目の注文のうち、私が最も気にしていたのは、サンルーフまわりは雨漏りの元になるのでしっかり補修しておきたい。という点でした。案の定サンルーフのはまる枠に1円玉が差し込めそうな大きな穴が開いています。これだけはいくらお金をかけても直しておきたいので、買ったばかりのクルマは長いこと入庫していました。
さあ、直ったという知らせにクルマを受け取りに行きました。
「サンルーフの板に違う色の物しかなかったので塗り直しに手間取りました。」という説明に、おやおやと思いながらサンルーフの窓枠を見ると1円玉が差し込めそうな大きな穴はそのまま残っていました。
「板が雨漏りするはずないじゃないですか。僕はこの穴を埋めて欲しかったのです。」という抗議に返って来たお返事はこうでした。
なお、このため車の外板と内装の間に漏った雨が、この車の悲壮な最期(ジャッキアップポイントがクルマの自重を支えきれず、タイヤ交換中にジャッキが車に突き刺さった)と関係していたことは想像に難くありません。
さて、そのCR-Xはホンダの低燃費に関する自信作でした。
ダッシュボード上の時計は「タイムコントロールモジュール」と呼ばれ、間欠ワイパーのタイミング、ルームランプの遅延消灯、サイドブレーキ戻し忘れ警告、燃料残量警告、燃料消費量、トリップメーター、平均車速、消費燃料、とおそろしく盛りだくさんの機能を持っていましたが、納車後真っ先に私が試したのは「平均燃費」の機能でした。
最初のテストで驚くなかれ、津山市から奈義町まで往路25km/l、復路27km/lの低燃費でした。これは注意深く運転したプリウスの燃費と同等です。
低燃費の秘密は、CVCC技術、徹底した軽量化など種々ありますが、その大きな部分をアクセルオフ時の燃料カットによっていたようです。
スロットルの軸には可変抵抗によるスロットル開度センサがついていますが、これの機能は実はアクセルの開度をEFIに知らせるためのものではありません。
アクセルから足を離しているかどうかの検知が第一目的で、次にアクセルをどのくらいの勢い(角速度)で踏み込んだかを検知するためのものです。
実際アクセルをどのぐらい踏んでいるかは吸気圧力センサが検知しているので、スロットル開度センサとは無関係です。
このスロットル開度センサの確かさによる、低燃費の優越感は、そう長続きはしなかったのでした。
何度目かのP店における整備の際に、アイドリングが高くなって不安定になる異常が発生しました。当然燃費はガタ落ちです。
早速P店に持ち込んでメカニックM氏に見せたところ、あっという間にスロットル開度センサを取り外し、また取りつけ直してしまったのです。
私は現実にあっと言いました。
サービスマニュアルによると、スロットル開度センサの脱着を行った場合はゼロ点調整のために運転席を取り外し、その下にあるコントロールユニットの指定端子の電圧を規定値内におさめるよう取りつけ位置調整を行う必要があることを私は知っていました。
それだけの覚悟と機材があってやったことだと思っていたら、M氏は、
一週間ほどしたある日、私は一杯飲んで代行で帰ってきました。
代行の運転手さんに車庫の前でクルマを停めてもらうと、料金を支払い、代行の車を見送ってから車を車庫におさめました。
そこで何かが起こったのです。
アクセルとブレーキとクラッチと一度に足を離すと、車はなぜかトコトコと早歩きの速度で走りはじめました。そして自宅の庭を斜めに横切り、花壇を踏み潰してその先へダイブしたのでした。
もちろん、一杯やった挙句の軽率でした。しかし、アイドリングの異常さえなければ何事も起こらなかったのも事実です。
翌朝、花壇の向こうに60度傾斜でそびえるCR-Xの腹を見て私が後悔したのは、飲酒運転の軽率よりもむしろ車のメカを知らないメカニックに車を委ねたことについてでした。
そのあと、タイヤ屋に行ってクルマ屋の無知を訴えたら、タイヤ屋は早速「スロットルバルブストップスクリュ」を回しよりました。
ば、馬鹿者。これはサービスマニュアルに「絶対調整を行わないこと」と指定してあるネジだぞ。
結局、私は専門家に見える人たちを相手にする事をやめて、決してプラスを指すことのない連成計を購入し、スロットル開度センサに細字マジックで目盛りを描き、走っては調整、走っては調整を行って1年ががりでこの件の始末をつけたのでした。
車検を受けました。
まだ性懲りもなくP店に通っています。
念のため断っておくとCR−Xは本来V店で売っている車種です。しかし、P店取り扱いのシビックは全く同じメカを搭載していますから、CR−Xが整備できないメカニックはシビックを整備することができないはずです。
そこのところを信頼して、私も一途に通ったものです。
さて、車検が終わってクルマを引き取りに行きました。
「お世話になりました。」と、運転席に座り、
「ああ、そう言えばちょっと前からバックランプが切れていたんですが、言うのを忘れていました。直ってますか?」
「ちょっとバックに入れてみてください。」
意外な事にバックランプはつきませんでした。
セールスの人はいささか慌てたようです。
すぐさま、私の通常の利用における単なる消耗は無償で修理して頂けました。
しかし、私としては10倍払ってもいいから二度とこのような事がないよう注意していただければそれでよかったのです。
寒くなった早朝、車が走らなくなりました。
極めてよくあるトラブル、バッテリーあがりです。
一晩充電すると、出勤できて帰りもエンジンがかかりますが、2日目にはかかりません。
行きにエンジンがかからなくても代りの車がありますから大事に至りませんが、帰りにエンジンがかからないのはちょっと厄介です。
もちろん、P店に持ち込みます。
しばらくしてクルマを取りに行くと、高価な部品(マグネチックスイッチ)が交換してあって、工賃と油脂類補給まで計上してあります。
そして、結果はみごと職場からの帰りに閣座してしまったのでした。
以来CR−Xは毎晩充電して、1日の走行に備える、立派な電気自動車に変身してしまいました。
もう一度だけP店に赴き、メカニックM氏にかけあってみました。
サービスマニュアルにはこう記してあります。
「白い沈殿物があるときはバッテリの寿命時期が近いことを示す。(サルフェーション現象)」
ああ、自動車の専門屋さん。あなたは自動車の専門家かもしれませんが、私は理科の専門家です。
バッテリーの充電状態は確かに液の比重でわかりますが、バッテリーの寿命とは金網状の鉛にペースト状の硫酸鉛を詰め込んだ電極が充放電を繰り返すことによる体積の変化に耐え切れず千切れて底に沈んでしまうことにより決まります。(さらに複雑なことも起こりますが)
完全に充電ができた電解液を持っていても、電極が溶けてなくなったバッテリーが働けるわけがありません。
あなたがまず試してみるべきは、バッテリーを取り外して懐中電灯で透かして見ることだったのではないでしょうか。
かくして私はP店に依存することをついに止めて、みかん色の看板のお店でバッテリーを所望したのでした。
今日のお話は、「クルマは正しいディーラーで整備しよう。」というお話でした。 決して特定のクルマ屋や特定のメカニックへの誹謗中傷の意図はありませんのでご承知ください。