我が家の食物連鎖

-生き物ばんざい-


我が家は田園地帯にぽつんと建っている木造家屋です。
昭和46年頃の建築と記憶しています。
田園地帯に建っているので、常に野生動物および不良家畜の侵入に晒されています。
私の感覚的なものですが、田舎にも2段階あって、タヌキの優勢な田舎とキツネの優勢な田舎があるように思います。タヌキの方がより人家に近く住みつき、キツネの方が人里離れて住みつくように思っていたのですが、我が家はなぜかキツネ地帯のようです。

さて、新築当時はまっさらで、野生動物の侵入もなかった我が家でしたが、時代の変遷により侵入する動物も変遷していき、「生き物ばんざい」な世界を構成しているので、今日はこれをレポートしてみます。

ファースト・コンタクト
最初の野生動物の侵入は、田植えを控えて、周辺の田に水が張られた時期に起こりました。
侵入してきたのはネズミです。ただし、市街地で優勢な巨大なドブネズミやクマネズミではなく、カヤネズミといって、しっぽまで入れても8cmくらいのネズミです。
目は真っ黒くつぶらで、ハムスターより愛らしい(異論がある方もおありでしょうが)姿をしています。

たんすの引出しなどに勝手に巣をこさえて、久々に開けた引出しの、底敷きの新聞紙を粉々に噛み砕き、1cmぐらいのピンク色をしたカバのような子ネズミが5匹ほどもいたりしたら、思わず捕獲して養ってみたくもなります。
現実にはハムスターと違って逃がしたら家財をかじったり、押入れの隅をふんだらけにしたりするので、飼ってもいいけど決して逃がしてはいけないペットでした。

追跡者
愛らしいカヤネズミの侵入を追って、イタチが侵入して来るようになりました。
淡い黄色のしなやかな姿は、これまた優美なものですが、さすがに噛みつく動物ですからこれに近づくことはできませんでした。
イタチが侵入する姿を目撃されることはめったにありませんが、狩りの最中に天井板に飛び降りてドスン、バタバタ・・・と大きな音をたてるのですぐわかります。

子供時代、家の周辺で遊んでいると、いつしか遊び場の真ん中にイタチがふんをしてしまい、そこで遊びにくくなってしまうという経験をしたこともありますが、これは偶然ではないことを教える事件がありました。

ある秋、我が家ではさつまいもをふかして薄切りにして天日に干し、干し芋にすることを試みていましたが、外に芋を干していると必ずイタチに盗まれるという事件が続いていました。
日中は家は無人ですから、イタチの攻撃に芋は無防備です。相手が人間なら1日のうちに全ての芋を盗む事も不要ですし、繰り返し盗む事も考えられませんが、相手がヒマな野生動物だから始末におえません。

そこで、幾度目かの挑戦のときに、慎重を期して鍵のかかった縁側に一週間連続で干して、一つも盗られずに土曜日を迎えました。
そして日曜日。家に人がいるからと縁側を開けて、最後のひと干しをしたのです。
2時間ほどの間に芋は一つ残らず姿を消していました。
夕刻になって、縁側から少し離れた温室で芋は発見されました。

盗んだ芋をひとまとめに山にして、大量のイタチのふんがかけられていました。

野生動物もイタチぐらいになると、利益のない単なる遊戯のために行動する場合もあるということをそのとき理解しました。

犬の時代
イタチの侵入とともに、ネズミは確かに減ったようでした。
特に秋以降、水田に水がなくなると、ネズミは家の中から姿を消します。そして水田に水が張られると家に侵入してくるというサイクルが続いていました。
そこに、犬がやって来ました。もちろん野生ではなく、正式なペットです。

犬の出現によって、我が家の生態系は大きな変化を見せました。
イタチが犬をおそれて寄り付かなくなったため、ネズミが大繁殖し、冬場も住みつくようになってしまったのです。
ひとばんじゅうカリカリと壁をかじる音が続いたり、壁の中で毛むくじゃらな何かがもそりもそりと移動する音が聞こえます。
壁の特定の部分が帯状に極端に汚れているのはネズミの通り道です。床に白い粒が落ちているのはたいがい乾いたごはんつぶですが、同じ大きさで黒い粒が落ちているのはネズミのふんです。(ただし、戸外に落ちているのはアマガエルのふんです。)

家の中がネズミに荒らされているのに、番犬は無力です。
なるほど、食物連鎖だなと感じ始めたのはこの頃です。

ウサギの時代
犬がいなくなってから、一度ウサギを飼っていた時期があります。
犬がいなくなったらイタチは再び侵入してきて、ネズミと追いかけっこをくりひろげていましたが、ウサギだけはこの生態系のバランスに関与していませんでした。
ウサギは人間が寝静まった夜の台所で、何やら仲間みたいなものがチョロチョロと遊ぶのを見ていたようです。昼間に何だかネズミみたいな振る舞いをしてウサギらしくない遊びを披露してくれました。

猫の時代
ウサギのあと、我が家に猫がやって来ました。
猫にも良し悪しがあって、ネズミを捕らない猫もありますが、我が家の猫は優秀でした。

まだ子猫のうちからネズミを捕り始め、捕れると家族のもとにくわえて来て報告してから食べます。ただ、布団の上で食べるのが好きなのが玉にきずでした。
猫がネズミを食べると、ほとんど血の跡も残さずふしぎなくらいきれいに食べますが、我が家の猫は必ず2つのパーツを残します。
一つがネズミの鼻先で、もう一つが何だかわからない灰色の胃袋のようなものでした。
猫的に「うまくない」ものなのでしょうが、飼い主としては「証拠物件などいらないからきれいに食べといて」といいたいところです。

時にはモグラみたいなものや、スズメをとって来ますが、家族はこれも本業の一部とみなして許すこととしていました。

これにより、ネズミは激減しましたが、その影響か意外なことが起こりました。
家の中に何だかゴキブリが増え始めたのです。

どうやら恒常的に家に住みついていたネズミは、ゴキブリの卵を食べるなどしてゴキブリの繁殖を抑えていたようなのです。
張本人の猫はネズミが見当たらないときにゴキブリを捕まえてきて遊んでいることもままありましたが、ゴキブリの跋扈に猫が役に立つことはありませんでした。
この猫は現在も我が家に住んでいますが、今年で15歳ぐらいになるのですっかり隠居してしまっており、我が家はネズミ、イタチ、そして食べ残しのキャットフードをあさりに来る(ネズミを捕らない)近隣の不良飼い猫に蹂躙されるままとなっています。

以上の経験から、我が家にはゴキブリ->ネズミ->イタチという食物連鎖が存在することが推定されます。
また、家の年齢によって侵入経路が変わり、古い家ほど野生動物(および不良家畜)の侵入を許しやすいということも言えるようです。

さて、昨秋のある日、夕食を食べていると、背後の台所の方からポツリ・・・・ポツリという音が聞こえてきました。
まるで水道の蛇口から水滴が垂れているような音と間隔だったので、水道の方を見ると、水は垂れていません。それどころか音も止まります。
向き直って食事を始めると、またポツリ・・・・ポツリと音が始まります。

見ると水漏れの止まる水栓!?
日常の中に割り込んだ怪奇におののきながら、私は音の源をたどって台所を探索し始めました。

すると、勝手口のゴミ袋の間からひょこっと顔をのぞけるものがありました。
顔は2秒ほどで引っ込みましたが、金色で華奢でしなやかなイタチです。
チョコエッグのおまけで言えば野生フェレットみたいなものですが、純国産の野生フェレットが台所に住みつくなんてファンタジーです。
どうやら隠居ネコのキャットフードを一粒ずつ盗っていってはポツリと噛み砕いて食べているようです。

その夜はそれ以上現れませんでしたが、その後もイタチは勝手口に常駐してキャットフードを常食にしているようです。猫が隠居してイタチが堕落したなら、誰がこの家を守るのでしょうか。(野生動物に義理人情を期待するなって。)

台所に仁王立ちになって観察をしていると、我が家のイタ公は愛らしい顔をひょこっとのぞけます。
こんな交流が数日に及び、とうとう私はイタチの引っ込んだ勝手口にむかって怒鳴りました。
「我が家の飯を食うんなら、ちったあネズミを捕れ!。」
そしてその夜、事件は起きたのです。

午前3時頃でしたか、寝室の隣の物置でドスンという大きな物音がしました。
壁にネズミの通り道とおぼしき汚れの筋が見つかったので、粘着式のねずみ取りを置いた場所です。
みごとにイタチがくっついて暴れています。
家族全員が物音で起き出して、イタチの救助作戦をするはめになりました。

救助作戦といっても、手を出せば噛みつきますから、粘着シートごとほうきの柄か何かに引っ掛けてイタチをぶらさげたまま玄関に運びます。
しばらくぶら下げたり押したりしていたら、足が離れてイタチは粘着シートごと戸外に飛び出し、玄関先にねずみ取りを残して去っていきました。

しかし、イタチが去った家の中には
最後っ屁
がたち込めて、目がチカチカするほどの臭さでした。

翌日、夕刻になって、家じゅうの臭いが何とか散った頃
我が家のペットが一匹減ったなあ。と、思いながらさびしく勝手口をのぞきこむと、
ひょこ!
出ました。毛がガビガビになったバカイタチは懲りずにそこに住んでいました。


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