くまプー、トミカにハマる(前編)

-頭文字(initial)Dシリーズ-


最近の吊り目三角目のヘッドライトになってしまったクルマは一般に嫌いです。
どうしてクルマが吊り目三角目になってしまうかというと、鋭角的・未来的という流行による部分が多いのでしょうが、いずれも三角の上端に実際の前照燈が配置されているところを見ればヘッドライトの見かけの低さと実際の高さを確保するためのようです。
これは一時期のスポーツカーがおしなべてリトラクタブルヘッドライトを装備していた理由と同じです。

私はこの「吊り目三角目」や「とにかくオープンカー」の流行に毒される以前のクーペボディが非常に好きです。が、いかに好きでも、それらがどんなに中古になってしまってもクルマを買い揃えることは不可能です。

そこで私が着目したのが350円(チョコエッグ2個分とちょっと)で入手できるトミカでした。
子供へのお土産を装って、2ヶ月に1個の割で計画的に購入します。というのが奥様との協定です。
チョコエッグに凝っていた頃のの異常な購入ペースと比べて何とささやかな趣味でしょうか。

一つには、トミカもクルマ屋さんの動向と密接に連携していて、120種あるラインナップもおおむね吊り目三角目スタイルのものに入れ替わってしまっているという事情があります。
一方では1970年代のモデルをほとんどそのまま販売しているものもあります。「××タイプ」と名づけられているのが一般にそうです。これは実際は「クルマ屋さんに断りなくモデル化してしまったけど、いいよね?」という遠慮ではないかと思うのですがどうでしょうか?

トミカのモデルの120種に加えられる(そして、削除されない)ということは、デザインの流行を示すものであると同時に、「不易」であるかどうかを示すものでもあるようです。

さて、相当の長期間をかけて我が家には6個のトミカが所蔵された(子供に使い倒されている)のですが、不易にも限界があって私の愛する1980年代のクーペがラインナップに入っていません。オークションでも探すかなと考え始めていたところでトイザ”ら”スでこれを見つけました。

「頭文字D」も私の愛読書です。しげの秀一先生は「バリバリ伝説」の頃から愛読していますが、メカ描写のタッチは相変わらず冴えています。
ストーリーの半分以上が深夜の峠の上に、滑って横を向けないとクルマは曲がらないという物理学。多くの人には奇想天外と映る設定は、ディープでエンスーな世界の一面です。

私の愛してやまないクーペスタイルはこの漫画よりいくらか古いところにあるのですが、頭文字Dに登場するクルマではAE86やFC3Sといったヘッドライトが異型でないクルマが私の求める何かを持っています。
きっと、ヘッドライトがすべからく異型という時代の到来とともにクルマのデザインは何かを失ってしまったのでしょう。
また、ボディのデザインもCADやプレス機の進歩により制約が少なくなったため、デザインの過程で風船を膨らましてカーブを決定するなど磨きこみの過程が失われたために却って画一的なデザインの氾濫を招いているような気がします。
フロントフェンダーの盛り上がりはストロークの長いサスペンションを収納するための場所。リトラクタブルヘッドライトはスラントノーズのクルマに(アメリカで要求された)ヘッドライトの地上高を稼ぐためのスタイル。リアスポイラーは後輪の駆動力を地面に確実に伝えるための道具。なのですが、そういった機能の実現のためのやむを得ない出っ張りを磨きこんでデザインの中に収めていくという磨きこみの過程が今のクルマの姿に見えてこないのです。そういったことが今のクルマ屋さんにわかっているのでしょうか?

街角で異型でないヘッドライトのクルマといえば、ギャランΣのタクシーばかりというさびしい時代に、記憶の中にある秀逸なデザインのクルマを所有するというのはもう、トミカの恩恵なくては叶わないことなのでしょうか。

1個350円のトミカが6個入って1999円でした。(定価はもっとします)
頭文字Dシリーズがもう1種類あるさらに横には西部警察スーパーマシンスペシャル(モデルとして唯一のガゼールを含みます)もあったのですが、所蔵するトミカの数がここで倍増してしまったので、とりあえず辛抱です。

メインはもちろんこれです。
きっちり「藤原とうふ店(自家用)」の文字も入っています。
実は津山市東部には「藤原とうふ店」のロゴの入った赤/黒のAE86トレノが出没します。
どなたが操っているかは存じませんが、そーいうことは私も大好きです。
ところが、箱から出して左側を見ると、「藤原とうふ店」の文字がありません。おい!手抜きか?
それから頭文字Dを注意深く読み直してみると、確かにクルマの左側には文字はありません。
作者もTOMYも注意深く描き分けたもののようです。
その後、白/黒のパンダトレノに「藤原とうふ店」のロゴが入った車も見かけました。次に遭ったときには助手席側に「藤原とうふ店」の文字がないことを確認しなければなりません。
FC3SとFD3S。これもお目当てのクルマでした。
FD(3代目RX7)は今でもトミカのモデルに入っていますが、私は巨摩郡の乗っていたFCがとりわけ気に入っていました。
「コマグン」って何か?いえ、知らない人は知らなくて結構です。
このモデルはドアに妙な文字が大書してありますが、これはカッコワルイと思います。
原作ではここにステッカーが貼ってあるのですが、それの再現ならしない方がマシだったといえるでしょう。
ただ面白いのはガシャポンで(トミカでない)「頭文字D」シリーズがあるのですが、この不恰好な文字も忠実に再現しているため原作からのモデル化ではなく、明らかにトミカのパクリだと自白しているところです。
そしてシルエイティ!
このセットのために幻のクルマがトミカになってしまいました。
実車の世界ではS13シルビアが180SXに先行して発売され、世間はクーペボディのシルビアはこのシルエイティの姿で発売されると信じていたのです。
大方の予想を裏切ってリトラクタブルヘッドライトで登場しちゃった180SXへの反抗がこのシルエイティの出現でした。
裏面を見ると1999TOMYと刻印してあります。上記FD3Sもこの年にトミカになっています。そうするとこの「バトルスペシャル」セットは1999年から販売されていたようですね。
漆黒のスカイラインGTRも秀逸です。
塗装のツヤ、くびれたボディライン、GTRのエンブレム、透明パーツによるヘッドライト。これで350円の子供のおもちゃだなんてもったいなさ過ぎます。
実車のGTR、なかんずくR32を愛してやまない方も多いことでしょう。そして今の「ゴーン」スカイラインを見てお嘆きの方々も多い事でしょう。
ハコスカ、ケンメリ、ジャパン、鉄仮面RS、そしてR32。これが私のあこがれた「最後の」スカイラインにならないことを祈ります。そして、実車を所有できないまでもトミカを大切にいたしましょう。黙祷。
セットの最後はAE86レビンターボです。どこがターボなのかとツッコまないで下さい。
私がツッコミたかったのは原作ではでっかいスポイラーがついてなかったかな?という点です。
このトミカは実車が現役だった頃の金型から作ったものらしく、GTRと並べたらトミカの進歩がうかがえます。
しかし、この2つは同じ箱に入って売られていたのです。
私は実車としてはトレノよりレビンのとりわけ初期のモデルが好きでした。
理由はフロントグリルの中央に「無用の可動部分」を備えていたからですが、あれってどんな条件のとき動くのでしょうか?自動では動かないものだったのでしょうか。こればかりは実車を所有してみなければわからない謎でした。

この記事を書く過程でトミカをますます研究して、ますますハマってしまいました。

あげくにはガレージセールで昔のトミカを当時の価格の数倍で購入するような(良心的で賢明なお店でした。お買い得だったとは思っています。)こともしてみたのですが、イケナイ!そんな大人みたいなことをしてはイケナイ!やはり、トミカは実車が現行モデルであるうちに買っておもちゃとして使い倒すのが本来の姿です。
私の本当に欲しかったモデルは子供が使い倒してボロボロになったものでも5000円なり1万円なりで取引されているようです。それは何か間違っている。

トミカを商売にしてしまう人(但しTOMY以外)、大人買いする人、使い用と取っとき用を買う人。
そんな人たちに大いに反発を感じながらも、・・・このコレクションをわが子に与えずに隠してしまっている私は困ったオヤジです。


今日、おもちゃ屋めぐりをしていたら、トミカの頭文字Dシリーズに高級バージョンが出ていました。
6台で4000円あまり。なかなか美しく仕上がっています。
RX−7のドアの異様にでかいステッカーも小さめに修正されています。
私は早速とびつ・・・かずに、普通のトミカのRX−7(94番、FD3S)を買って帰りました。
やはり、おもちゃ箱に放りこんで使い倒してこそトミカだと思うものです。

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