勝手に野鳥の会

-衆楽園のカワセミ-


それは2月のある夕方のこと。
衆楽園を散策していたら、池の北端の岩の上にいたのです。
光沢のある瑠璃色の翼と、小柄な体に不釣合いな長い嘴を持ったカワセミが。
私はその華奢で優美な姿にいっぺんに魅せられてしまいました。

しばしの対面のあと、私が歩を進めようとするとカワセミはチィーッという声を残して水面すれすれに飛び去っていきました。
しかし、ここは市役所と、総合体育館と、市営プールと津山商業高校に隣接した街の真ん中ですよ。
それじゃまるで、津山がすごく田舎みたいじゃないですか。

二度目の遭遇は数日後、池に浮かぶ高瀬舟のへさきにとまっている姿はまさに一幅の画でした。
その後衆楽園に行くたびに気をつけて観察すると、数回に1回はどこかでカワセミの姿を見かけるようになりました。2羽いることもあります。
目にするのはたいてい飛び去っていく瞬間ですが、瑠璃色をした小さな三角が水面すれすれを滑っていく姿を見て、「ああ、セミに似ているなあ。」とカワセミの名の由来をひとり納得しました。

聞けば一宮あたりの宮川では少し前は普通にカワセミを見ることができたそうです。(近年どうであるかは不明です)
流れにダイブして、小さな体に不釣合いな大きな魚を捕り、石に打ちつけて魚を気絶させた後、頭から丸呑みにするのだそうです。

その美しい色合いがカワセミの愛される最も大きな理由でしょうが、不釣合いに長い嘴とか、不釣合いに短いしっぽとか、不釣合いに大きな魚を丸呑みにするとか、そういったおかしさを持ちながら、本人だけがちっともおかしいと思っていない、そういうところがまたご愛嬌のような気がします。
こうして私は暇さえあれば衆楽園でカワセミを追う、勝手に野鳥の会を始めてしまうことになりました。

衆楽園は津山に殿様がいたころの殿様の庭でした。中央の池の周囲を小径がめぐる回遊式庭園で、「霧島」「中島」「蓬莱島」「紅葉島」の4つの島があります。
(写真は津山市ホームページの地図システムから拝借)

カワセミはいつも油断しているときに現れ、すぐに飛び去ってしまいますから、とうとう私は衆楽園を歩くときは200ミリ望遠をつけたカメラを抜き身で提げて歩くのが習慣となりました。
こうして準備万端を整えるとなぜかカワセミは現れません。
この池にいつもいる鴨のうちいくらかはアイガモではないかという疑念をいだき、鴨の姿をかつてレポートしたことはありますが、こうして気をつけてみると他の鳥もけっこう見られます。
そうして図らずも私は衆楽園のカワセミ以外の鳥たちとばかり仲良くなってしまったのです。

カルガモ
一番衆楽園で目立つのはやはりカモ類でしょう。
常時十数羽が見られますが、池の西岸の人がよく来るあたりにいて、えさをねだったり愛嬌を振りまいたりして見ていてなごみますがちっとも野生の感じがしません。
首が青い(緑)のがマガモで、写真を撮ったのはカルガモでした。カルガモはくちばしから目にかけてすっと線が入っているのが特徴です。
雌はどれが何ガモやらまだよくわかりません。
このカモは写真を撮った直後に飛び去って自らがアイガモでないことを証明してくれました。

コサギ
愛嬌を振りまくカモに対して、孤高な感じを受けるのはサギ類です。
白鷺(コサギ)は足の先が黄色なのと、頭のてっぺんにかざり羽がついているのが特徴です。
サギ類は他にアマサギ、ゴイサギがよく見られますが、彼らは人の渡れない蓬莱島を好むようです。
ゴイサギは地味な色をしていますが、よく見ると水鳥としてはバランスのとれた姿を持ち、なんだか思いつめたような目でじっと水面を見ているのは印象的です。

キジバト
ここで珍しくも何ともない鳥の代表が鳩です。
ハト類も様々な種類があるようですが、たまたま写真が撮れたのはキジバトでした。
どこからともなく「どでーぽっぽー」と聞こえる声の主がこれです。
ハトといえば観光地でハトのえさを売っているところでは、私は必ずハトのえさを所望します。
出雲大社と池田動物園は麦、高知城は豆を売っています。
こうしたところのハトは例外なくなれなれしくて、腕に乗り頭に乗り手から直接豆をつつきえさ袋の中に頭を突っ込み、初めて見た子供なら恐怖を覚えるほど集まってきます。
えさをやってハトと語らうというイメージではなく、アナーキーな混乱が好きだからどうしてもハトのえさはやめられません。

あと、珍しくない鳥の二番手はヒヨドリでしょうか。
体は大きめ、色は茶色、くちばしは短い、飛行高度は高い、食べ物は木の実が多いが農作物の被害がばかにならない。ときたらカワセミの正反対のキャラクターですね。
カワセミがつれなくするので、ヒヨドリとも仲良くなりました。
体が大きいのと、人をあまり恐れないことから写真はなかなかいいのが撮れています。(後日掲載予定)
カモとは逆に池の東岸の木立を好むようです。

ムクドリ
勝手に野鳥研究会もカモ・サギ・ハト・ヒヨドリは知っていますが、ここで始めて何者か名前を知った鳥はムクドリです。
足とくちばしがオレンジ色で、頬に白いところがある、やや大柄な鳥です。
不思議な事にムクドリは他の鳥と離れて、池の南の門のあたりにいることが多いようです。
こうして鳥の名前を知っていくことは、花の名前を知ることに似て何か心を豊かにしてくれます。

今年は桜が10日近く早く咲き、一昨日ぐらいから衆楽園の池の上を帰ってきたツバメが飛び交い始めました。

さて、肝心のカワセミの写真は。
1ヶ月半の激闘の末、やっと1枚撮れました。

カワセミ


アマサギ
ヒヨドリ
コゲラ
その後、変わった鳴き声をする鳥がいるなと思って写真をとったらキツツキ(コゲラ)でした。

鳥たちの中には臆病で写真の撮れる距離まで近づけないものもいます。
私は写真を撮って帰って図鑑と見比べて初めて何という鳥かわかるといったシロウトですからまだまだ研究の余地はありそうです。

今回よい写真がとれなかったけれども、衆楽園で見たことのある鳥といえば
ツバメ、スズメ、カラス、モズ、セグロセキレイ、ゴイサギなどですが、それって珍しくない鳥のリストですか?


カメラを引っさげての激闘からまる1年経ったある日、偶然カワセミを捉えることができました。 写真のデキは悪いのですが、なんとかカワセミとわかるでしょうか。
舟に止まった・・・カワセミ
(03.05.13追記)

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