目指せハムの人

-燻製をつくる(鶏・豚篇)-


今度は上の子供が熱を出してしまい、またもや燻製の日がやって来ることになりました。
前もって妻に注文を出しておいたら、鶏の手羽先とムネ肉が買いこんでありました。

今回は保存食としていくらかでもハムに近づくよう、ソミュール液への浸けこみ、塩抜き、風乾、できるだけ低温での燻煙、ボイルといった工程をできるだけ横着にやってみようと思います。
なぜできるだけ横着な方法でないといけないか、というと、それは私のポリシーであるという外はありませんが、何かをする時に必ず道具立てにお金をかけて専用の道具を揃えることに反発するからです。
それに、燻製がアウトドアの趣味であるのは、自ら仕留めた獲物を保存食にする必要があったハンターや、遊牧民や、アルムおんじ(?)の営みを根源としているからでもあります。
スモークウッドも燻製箱キットも金網さえも売っていないところでも燻製は作れなければいけないのです。

ノーガキが長くなりました。

前夜20時
ソミュール液を作ってみます。食塩をテキトーに大さじ2杯ほどアルミ鍋にぶち込み、砂糖をその3分の1ぐらい加えます。これに家じゅうのスパイスを厳選して加えます、といっても黒コショーしかありませんでした。
少量の水を加えて煮立てたら、食塩が溶け残るので完全に溶けるまで水を加えます。水を加え過ぎたら食塩を足します。(本当は生卵が浮く位の濃さ、とか5分間煮立てて自然に冷ますとかノウハウがあるようです)
このソミュール液(もどき)に肉を浸けこみますが、ポリ袋に入れて中の空気を吸い出してやれば、少量の液でも効率的な浸けこみができます。
手羽先の一部は追いがつおつゆの素に浸けこみをしました。

朝10時
朝寝から目覚めて活動開始です。
ふた切れあるむね肉のうち1つを取り出して、塩抜きをします。
器に入れてチョロチョロの水道水で1時間放置します。
こうすることで過剰な塩分とともに肉の中の不純物が排出されるそうです。

11時半
塩抜きが終了した肉をたこ糸で縛ってみました。
ハムならサラシで巻いてから円く整形するのでしょうが、今日は鶏肉なので思いっきり気楽にやってみます。
縛り終わったら扇風機の風にあてて風乾です。
昼食が終るまで1時間半の風乾で表面はからっと乾燥し、早くもハムの雰囲気を帯びてきました。

13時
燻煙を開始しました。
大きな段ボール箱に肉が1個きりですからあとはからっぽです。
桜のスモークウッドを使用しました。3時間煙が出ると書いてありますが、実質は2時間少々しかもちません。
おおっと、気がつくと段ボールの燻煙箱が風でひっくり返っています。起こしてコンクリートブロックで支持しました。
スモークウッドが終っても、肉に今一つ色が着いていないので、チップと炭火を入れて温燻に切り替えました。
さすがにチップは盛大に煙を出しますが、隣の家は今日は着物の虫干しをしています。よりによってこんなときに。
燻煙箱の中の肉は脂が滴ってさながらローストチキンの様相です。今度はしっかりと煙の色になりました。

15時30分
燻煙を終了、ボイルを開始しました。
ボイルの最中に肉のうまみが流出してしまわないよう、ポリ袋に入れてボイルしました。
約1時間のトロ火でのボイル終了後、袋の中にはとても美味な肉汁ができていました。

帰宅した妻に早速切り分けて試食していただきます。

「んまー。すごいが。ちゃんとハムになっとるが。」

「コツがわかったけん、今度は豚肉を買うて来てくれたらハムを作るよ。」

「?豚肉を買うて来たのにわからんかったん?」

「じゃけ、これは鶏のむね肉じゃろ、豚ロースがあったら・・・」

「何言ようるん。これが豚肉じゃが。あんたは鶏肉と豚肉の区別もつかんの?鶏は白身で豚は赤身じゃろう。それぐらいのことがわからんのかな。ようそんなことで燻製ができるなあ。」

「・・・。」

どうやら私の作ったのはハムそのものだったようです。


さて、出来上がりのハムは一応の評価は得たものの、私自身にはやや不満でした。
味は濃い目で燻製らしい味に仕上がっていますが、脂が抜けてしまっており、断面まで茶色に煮えてしまっています。
燻製のイロハを解説したページには必ず「熱燻」「温燻」「冷燻」の区別がしてあり、ハムは30℃以下で行う冷燻に分類されています。おまけに燻煙後のボイルは70℃を超えてはいけないようです。
私は横着のあまりその温度を厳守しなかったので、大事な脂分を燻煙箱の下の地面に吸わせてしまったようです。
浸け込んであるもう一つの肉は温度管理に注意して今度こそ完璧を目指しましょう。

そういうことで3日後の土曜日。
材料は前回の豚モモ肉の残り半分。手羽先5本のうち3本はめんつゆ浸け、2本は塩水浸け。ゆで卵5個のめんつゆ浸けです。

前夜20時
塩抜きを開始しました。世話は時々ひっくり返してみるだけです。

22時30分
塩抜き終了、めんつゆ浸けの手羽先やゆで卵も一緒に扇風機で風乾をします。約1時間で満足のいく乾き具合になったので、あとは自然乾燥に任せます。

朝7時30分
今回はスモークウッドのみによる燻煙です。燻煙箱をセットして風で倒れないようにしたら、のんびりと待つだけです。この日は小雨が降ったりしていましたが、かんかん照りよりましかも知れません。

10時
煙が出なくなったので燻煙終了です。
今回は煙の色があっさりとしかついていません。香りはよく着いているようなのでこれで良しとします。
ゆで卵はこの時点で完成、豚肉と手羽先はポリ袋に入れてボイルします。
今度は温度計で70℃を超えないように慎重に温度管理しました。トロ火でも鍋の温度は上昇しつづけますから、時には火を止めて冷ましたりもしました。今回は材料が少なかったため小さな鍋を使いましたが、大きな鍋の方が温度管理はしやすいと思います。

11時過ぎ
ボイル終了。完成です。
今回はソミュール液、塩抜き、風乾、冷燻、ボイルと温度管理まで基本的な燻製の手順をトレースしてきたわけですが、作品の方はどうなったでしょうか。

ハムはちょっと塩味が強過ぎみたいです。断面はピンク色を残しており、脂も溶け出さずに残っています。風味を失わず、最低限の保存性も満たしているようですから、これならサバイバル的保存食としてはまずまずだと思います。
ところがなぜか妻の評判は「防腐剤の味がする。」と酷評です。防腐剤だけは入ってないはずなんですが。
どうやら煙とかかわりのない焼豚の味を基本と考えているため、燻製の味わいには興味がないようです。

手羽先はどうかというと、夕食に出したら大半を子供に食べられてしまいました。
中までボイルが行き届いており、煙の味もいいかげんに付いています。めんつゆ味と塩味はほとんど差がありませんでした。皮がパリパリし過ぎていますが、これは2〜3日おくと軟らかくなるそうです。(食べてしまったので未確認)
もとよりちょっぴりしか肉のない部分ですが、箸で身をほぐして子供に渡すと妻が「早く皮を捨てなさい。捨てないとパパが食べるから。」

燻製卵はどうなったかというと「私は燻製の味は嫌いだけどパパがコレステロールを取りすぎてはいけないから子供と私で全部食べる。」ですと。
(こっそり味見したところ、浸け込みのおかげもあって非常に美味でした。)

燻製技術の修得と向上が課題なのではなくて、ひょっとして家庭内イジメの克服がカギですか?


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