チェーンメールを斬る

-ちょっとはツッコんでみてよ-


食後のひととき、私はリビングのパソコンでWebブラウズに余念がありませんでした。
そこへ、妻宛ての携帯メールが着信しました。
しばらく読んでいた妻は、急に、
「これ、いそぎの伝言だから、できるだけたくさんの友達に回して!」といい始めました。
私は、その時点で「ははあ、チェーンメールだな。」と予想がついたので、「そういうのは、やたらと人に回さない方がいいよ。」と、言いながらのっそりとそのメールを見に行きました。
電文はおおよそこんなものでした。
友達からメールが来ました…転送します読んでみて
B型Rh-の血液が緊急で必要なので、よければお知り合いにメールを回して御協力をお願いします。
「友達の子供の同級生が悪性リンパ腫で手術の時の日赤の保存血だけではたりないそうです。
お知り合いの方で該当し御協力願える方がおられましたら連絡先を教えて下さい。
こちらからすぐに連絡いれます。明日中ぐらいです。すでにいろんな枝葉で100人以上まわってるはずですが、現在東京に一人みつかっただけです。どうかよろしくお願いします」
もし情報があれば連絡下さい。
こういう文章は、自己増殖性を持たせるために特有な形式を持っています。
それは「(任意の内容)+(私をコピーしてほかに回して)」という様式で、(任意の内容)の部分が難解で手がこんでいるほど増殖力が強いものです。
・・・という元ネタは20年ほど前の「サイエンス」誌の連載で読んだものだと記憶しています。

さて、私の手に落ちたこの不幸の手紙にツッコミをいれてみましょうか。
まず、冷静な人の不信感を買うのは、情報の中に、自分自身が引き起こした結果が記述されているところですね。
「すでにいろんな枝葉で100人以上まわってるはずですが、現在東京に一人みつかっただけです。」の部分がそうですが、自分が流した情報の流れがどういう結果を引き起こしたか、初めから文章に記載しておけるのは以外にあり得ませんね。
仮にこれが神様からきたものでないとすれば、その目的は何でしょう。このメールが本当に人を疑わない人ばかりの世界に置かれたら、メールの発信者は世界中のB型Rh-の人のメールアドレスのリストを作ることができるでしょう。
それだけでもけっこう邪悪な感じがします。

そこを指摘して、妻にチェーンメールの配布を思いとどまらせたら、「そう言えば、悪性リンパ腫って、血液の病気だから手術ではなくって骨髄移植が必要なんじゃない?日赤だって珍しい血液型の人は登録しているはずだし。」
うわ!私より激しいツッコミが入りました。
骨髄移植は受ける側から見れば輸血にも似ていますが、RhやABO以外の型にもうるさくて、このメールじゃドナーを募集することはできないでしょう。
厳密に言えば悪性リンパ腫も範囲が小さいうちはチョキンと外科切除する場合はあります。しかし、その場合でも大量の輸血は必要ないものと思われます。

こうして、このメールは根も葉もないどころか悪用されるおそれがあることも判明したわけですが、

「みんなわかっていてお祭り騒ぎに参加しているだけなんだからいいじゃん。」ですと。
どうやらチェーンメールに熱くなった馬鹿者は私の方だった模様です。
くれぐれもチェーンメールを増殖させるのはやめましょう。


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