謎の電源系強化デバイス

-「ホットイナズマ」を自作する-



ガソリンの値段が一挙に4円も上がった今日この頃、仕事をしていた私にカーマニアのK君から電話がかかってきました。

「コンデンサーというのが何かよう知らんけど、車のバッテリーにコンデンサーを付けたらプラグの火花が強くなったりするん?」
「そりゃあ、面白い問題じゃな。バッテリーは大きな容量を持つけど化学変化で電気を作るけん瞬間的なパワーが出んかも知れん。コンデンサーは容量はちっちゃいけど、電気を瞬間的に取り出す瞬発力がある。取り付け方によっては、効果があるかも知れんな。」
「ホットイナズマと言うもんを2万円ぐらいで売りょうるんじゃけど、これの中身がコンデンサーで、中身がわかっとったら簡単に自作できるんじゃって。自作がはやりょうて、付けたらパワーがアップして、燃費も5%ぐらいようなるんじゃ。kumapoohさんも試してみてんや。」
「そりゃあな。ハロー効果ゆうて、こんな高いもん付けたんじゃけん、その分だけパワーアップしそうな言う心理的効果もあるけん、慎重にためさにゃあいけんな。」
「せえで、効果はありそうな?ぜひ試して見てん。」
「そうじゃなあ。古い単純な車なら効果がありそうなけど、新しい車にはそのぐらいなもん元々ついとるんじゃないん。新しい車はイグニッションが電子化とかされとって負担が少なそうなし。」

「ホットイナズマ」というのは、とあるパーツメーカーが発売している電装系強化グッズです。
外見は小ぶりながら堅牢なアルミの箱で、いかにもなヒートシンクと、太い電線が2本、そしてパイロットランプがついています。
価格は1万円そこそこのものから、2万円程度のものまで数種類あるようです。
効果はまず電装系の安定動作、それによる電装品への負荷軽減、ヘッドライトの照度向上、オーディオノイズ低減、バッテリー寿命の延長。また、トルクアップ、レスポンスアップ、クリーン排気、燃費向上といった効果もうたわれています

そしてその箱を開けてみたら、原価数百円の電解コンデンサーがその正体であるということもよく知られています。
ついついウンチクをたれてしまった以上、私もその実証実験に参加してみなければなりますまい。
もっともらしいウンチクを垂れることなら誰でも出来ます。自ら汗をかいて中途半端でもいいから自分なりの結果を出す。それが当サイトのポリシーです。
ということで、結果がショボくてもご容赦ください。いつものことですから。

まず、「ホットイナズマ」について情報を集めてみると、3つの機種がありました。
「低・中回転タイプ」「高回転タイプ」「マルチタイプ」の3種です。
中身はというと「低・中回転タイプ」が4700μFのコンデンサ、「高回転タイプ」が470μFのコンデンサ、そして「マルチタイプ」にはその両方のコンデンサが並列に入っているようです。
それはおかしい。

電気にちょっと詳しい人なら、コンデンサーを並列につないだときには、トータルの容量は単にその和になるということをご存知のはずです。
「低・中回転タイプ」の4700μFと「高回転タイプ」の470μFのコンデンサーを両方装備すれば、合計の容量は単に5170μFとなり、メーカーの表現を借りれば「も〜っと低・中回転タイプ」になるはずです。
この辺で、このデバイスの設計について、私は多少の疑念を持ったわけです。
「電気の知識のない人がこれほどの価格で販売されている製品を設計するはずがない。しかし、その製品はどう考えても電気の知識の基礎を超越して設計されている。」

それでは、バッテリーにコンデンサーを取り付けることは意味がないかどうか、私なりに考察してみます。

電気回路の電源系にコンデンサーを取り付ける目的は大きく分けて2つあります。
まずは、電源系の幹線部分に大き目のコンデンサーを取り付ける場合。
これは、たぶん「ホットイナズマ」の目的とするものと同じで、負荷の変動に対して電源電圧の安定性を確保する目的、あるいは供給された電源に含まれる波打ち(リプル)の除去といった目的があります。
簡単に言うとガバッと電気を使ってもタレないように電気を貯めておくような目的です。

もうひとつは電気を使って仕事をする(特に火花やノイズが発生する)部品近くに、小容量のコンデンサーを取り付ける場合。
これは、個々の部品が発生したノイズをコンデンサーが吸収して、他へ悪影響(車の場合はラジオの雑音とか)を及ぼすのを防ぐ効果があります。
実はそのためのコンデンサーは車にはじめから実装してあるみたいです。
回路図でイグニッションコイルの近くにコンデンサーが描いてあったらそれですが、比較的容量が小さく、電源安定化の効果は期待できません。

「低・中回転タイプ」のコンデンサーは容量が大きく、「高回転タイプ」のコンデンサーの容量は小さいというのは、CR発振回路でコンデンサーを小さくしたら発振周波数が高くなるというところからの連想でしょう。経験的な至適値があるというなら否定は出来ませんが、電源電圧の安定化が目的の(上記の説明なら前者の目的の)コンデンサーなら容量にはあまりこだわりはなく、どちらかというと大きいほうがよいと言えるでしょう。

「ホットイナズマ」についてもうひとつ見落としてはならない特徴があります。
それは、太い電線が付いているというところです。
同じメーカーの発売している「ホットアース」という製品は、豪華高純度銅線を利用して抵抗値の低いアース線を各部に直接配線することによってトルクアップ、レスポンスアップ、燃費向上、始動性アップ、排気ガス洗浄、ヘッドライト照度アップ、オーディオノイズ軽減といった効果を狙う製品です。
抵抗値の低いアース線を電気的に妥当な使い方をするならば、メーカーの宣伝するような効果があるかも知れません。
ただし、「ホットイナズマ」についている線は回路上でアースの役割は持ちません。

結局、「ホットイナズマ」は、車のメーカーが見落としている、あるいは不要なため省略している何かではあるようです。が、電気的に緻密に設計されたかどうかは疑わしい。という風に私の目には映りました。

さて、ノーガキはこれぐらいにしていよいよ製作にうつりましょうか。

部品は合計1000円ぐらいで調達できます。
自作記事の中にはコンデンサーを大量に並列接続して「さらに適用回転域を拡大」とか主張している方もありますが、私はコンパクトな実装という点を重視して単一のコンデンサーを使っています。
コンデンサーは行き当たりばったりに調達したので25V4700μFで450円でした。
また、これまた行き当たりばったりに調達した圧着端子は穴の大きさがバッテリーの端子のネジよりかなり大きかったので実際には使いませんでした。
配線は懐かしいラグ板を買ってきて配線します。
電線が細いのは元の仕様に反していますが、私には太い電線を引き回してコンデンサーにハンダ付けする技術力がなかったためです。

私の工作は昔から仕上げが雑なものと決まっていましたが、最近になって(ホームページで公開するに足る品質が必要となって)ケースにも凝るようになりました。
私の電気工作の所要時間と労力の大半はケースの加工に費やされているのですが、みなさんこうなのでしょうか?

中身は極めてシンプルです。
本家「ホットイナズマ」も、自作派ホットイナズマもパイロットランプを特徴のひとつに数えていますが、バッテリーの電流をじわじわ消耗するものをバッテリーに取り付けるのは愚かと考えて、私のデバイスにはパイロットランプは付けませんでした。
コンデンサーや太い電線に何らかの電源安定化効果があるとしても、デキの悪いパイロットランプが存在することで全て帳消しになる可能性があります。
実装としては内部をボンドで固めるなど、もう少しマシなことが出来たはずですが、これも技術と資材の問題から先送りされています。

完成したら、配線ミスがないか、期待通りのものが出来たのかテストしてみます。
テスターを抵抗レンジにして、電線の両端に当てると、意外と低い抵抗値を一瞬指示します。
それからすぐに抵抗値が上がり、無限大になります。
これはコンデンサーがテスターによって充電されるためで、この状態でテスターを電圧レンジにして計り直すと1.5Vあまりを指示します。
こういう動作をすれば、一応配線は間違っていないということですね。
配線を間違って車に何か起きると翌日出勤できなくなるので、やや慎重にやってみました。

車のボンネットを開けて、バッテリーのマイナス側に黒いリード線をつなぎ、続いてプラス側に赤いリード線をつなごうとしたら、1回だけ「プチン」という音とともに火花が散ります。
これも予期された動作ですが、面白いのでこの状態のコンデンサーをショートさせたら、「プチン」とまた火花が散りました。4700μFというのは、12Vだと結構あなどれない電荷を蓄えるようです。

ブラブラ配線のまま考えることしばし、私の苦手な「しっかりとした実装」は、ニジマスを燻製にしたときに使った針金の残りで解決されました。


さて、この「コンデンサー」を装着したまま1日使ってみたのですが、効果はどうだったのでしょう?
燃費のことはまだわかりません。
このネタを提供してくれたK君はしきりに「エンジンブレーキの効きが悪くなる」と言うのですが、確かに言われてみればそんな気もします。
エンジンの吹け上がりも軽い気がします。
しかし、いずれも「そんな気がする」レベルのものばかりです。

このデバイスに関する私の見解は今のところ

こうしたデバイスの効果は否定できないが、他人の作ったもの、とりわけ高価なものを購入して取り付けることには賛成できない。

というところです。


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