インクジェットセーバーZを試す

-プリンタ不調に効く注射-


私のサイトのお手本であった「今日の必ずトクする一言」は2003年3月に休止してしまい、多くのファンを嘆かせたものですが、時折書庫をのぞきに行くとあれ不思議。記事が少しずつ追加されています。
最近はペースが上がってきて月イチ更新ぐらいになってきました。

最近の記事で、私も憤慨していたインクジェットプリンターの不調を治療する薬のことが載っていましたので、年末の年賀状シーズンを迎えて私も追試してみることにしました。

元ネタの山本先生は、耳鼻咽喉科の先生ということですが、パソコン、ビデオ、ファンヒーター、車、バイク、オーディオ、発電機、電気ポット、腕時計、等々何でも治してしまいます。
我が家には先生のご託宣を受けて活を入れられ、21世紀に生き延びるWindows98型パソコンが多数(少なく見積もって7台)ありましたが、パソコンリサイクル法の施行により1台4千円の負の遺産となり、死ぬことが許されなくなってしまいました。こういうのは永遠の命を得たと言うのでしょうか?

今回俎上に乗ったのは我が家にあるものと同一メーカー同一型番のインクジェットプリンターですが、我が家でもインク目詰まり、ヘッドクリーニングの繰り返しで、1年の半分は使用に堪えず死んでいる状態でした。
インクジェットプリンターが不調なのは我が家に限らず全国的なものなのでしょうが、これは技術的限界なのだからと思いみんな耐えているのでしょう。

そこに山本先生が処方したのが「インクジェットセーバーZ」です。
その正体は自動車用LLC、古い言い方をするとラジエター不凍液のようです。これをインク量の10%加えるとインクの目詰まりを防止できるそうです。

水溶液に不純物を溶かすと水分が蒸発しにくくなるため、沸点が上昇します。「モル沸点上昇」という言葉が頭をよぎったら正解です。
ラジエター不凍液の成分はジエチレングリコールで、水と混ざりやすい石油類で腐食性がないことが不凍液に使われる理由です。「モル凝固点降下」という言葉が頭をよぎったら正解です。
ジエチレングリコールといえば、ワインに甘みを出すために不凍液を混入した事件がありました。調べてみたら1985年のことです。ジエチレングリコールにはあまり激しくないけれども毒性があり、このワインは日本にも輸入されてしまったために問題になりました。
この事件そのもので健康被害を受けた人はいませんが、この事件により「ジエチレングリコール=毒」という知識が広まったのは確かです。

我が家にはLLCは車に現在注入されているものしか在庫がありません。それからLLCにはワインへの混入を防ぐためか着色されているのでカラーインクに混入するのはためらわれます。

そういう場合は「浣腸液」を5%加えてもよい。となっていましたので、私は夜の薬局に「いちじく浣腸」を買いに走りました。


いちじく浣腸の主成分はグリセリンです。こちらは脂肪が分解したら生成する栄養分ですから毒性の問題はありません。また着色もされていないのでカラーインクに混ぜても色が濁るおそれがありません。甘みもあるのでワインに混ぜても・・・。

インク量の5%と言っても、どこにもインク量なんて書いてありませんからものさしでインクを実測しました。
我が家のプリンターの場合、黒インク(IC5BK05)は縦3.0cm、奥行5.2cm、厚さ1.3cmぐらいでしたから大まかに掛け算したら20ccというところですか。カラー(IC5CL05)の場合は5色に分かれていて縦3.0cm、奥行5.2cm、厚さ0.6cmぐらいでしたから容量10ccなのでしょう。これの5%を注入することにしました。

インク上面のビニルをはがそうとしたら「−Contains diethylene glycol.−」と小さな字で書いてあります。仮にインクが甘くても飲む人はいないって。

メーカーもインクの乾燥目詰まりを防ぐためにジエチレングリコールを使うことは知っているようです。しかしその加え方が甘いのはジエチレングリコールの毒性に配慮したためでしょうか。インクの乾燥が遅くなるのを恐れたためでしょうか。まさかユーザーが目詰まりとクリーニングを繰り返すことでインクを浪費することを期待したわけではないでしょうね。

浣腸液をブチ込んだインクジェットプリンターは確かに詰まることなく年賀状の印刷を終えました。色が濁ることも乾燥が遅くて困ることもありませんでした。

しかし本当のテストはこれからです。数日から数週間休ませたらこのプリンターは必ず目詰まりしていました。そのたびに必ずクリーニングを繰り返していました。インクの消費量の半分は年賀状で、残りの半分はクリーニングに費やされていたのです。そして半年後にはインクが尽き、次の年賀状シーズンまでインクジェットプリンターを使う努力は放棄されていたのです。
この追試の目標は今年の後半もプリンターを快適に使うことです。まだまだ私の結論は出ていません。もちろん、山本先生を信頼していないわけではありません。検証可能であることこそが科学の本質ですから、先生の福音を広める一助になれれば幸いです。
なお、インクジェットセーバーZを試される方は自己責任で行ってください。トラブルが起こっても責任は持ちません。きっとメーカーの保証も効かなくなります。私もそれを承知した上での人柱です。

ところで、私の年賀状を受け取った親族や友人は、まさかそれが浣腸液で印刷されているとは思わないでしょうね。きっと。


さて、検証の結果はどうだったでしょう。
私の場合は約3ヶ月間、黒のインクを1度クリーニングしただけで、全く不快感なくプリンタを使っていました。

その後、インクが原因ではない激しい紙詰まりを機に「黒インクカートリッジが正しく認識できませんでした。」というエラーが出て黒インクカートリッジを交換せざるを得なくなりました。
このエラーがグリセリン注入によるものかどうかははっきりしません。 インクカートリッジが使ったインク量を記憶して管理しているなら、そういうこともあり得ますが・・・。

早速新しいインクを買ってきて、(自分の書いたこの記事を参考に)グリセリンを注入して取り付けます。
またもや「黒インクカートリッジが正しく認識できませんでした。」というメッセージです。
「もう、このプリンタ捨てるわ。修理するゆーてもなんかゴチャゴチャして気が悪いけん。」

「そういう時はたたいてみりゃ直るんじゃ。」

そういう奥様の的確なアドバイスのもとに、私はプリンタをちょっとたたいてみました。
第1撃は、プリンタがはずみで後ろの壁にぶつかるくらい。
「あ、なんかしらんけど電源切れたわ。」
第2撃は、はずんだプリンタに弾かれて、パソコンラックの最上段に乗っているスキャナをはじめ、積んであった本や何かがみんな吹っ飛ぶくらい。
「あ、直った。ほなインク買わんでもえかったがな。」

と、いうわけでインクジェットセーバーZに起因する異常ではなかったようです。
しかしまことに世話の焼けるプリンタではあります。
(05.03.27追記)


その後、プリンタには格別の不調はありません。
しかし、プリンタが勝手に休養を取ってしまう時期がなくなったためインクの消費量は激増しています。
我が家の場合は、これまでの数年間の3倍のペースでインクを使っているようです。
もちろん、クリーニング等に消費されていた分まで無駄なく使っているわけですから、非常にお買い得なことではありますが。
(05.09.20追記)
年末には、この記事に検索から飛んで来られるお客さんがいくらか増加したのですが、ここでひとつ残念な報告をしなければなりません。

数々の不調を克服して、1年間クリーニングをほとんどせずにプリンタを利用することを可能にしてくれた「インクジェットセーバーZ」ですが、1年を経て肝心の年賀状のシーズンを迎えたときに問題が発覚しました。
用紙に「専用光沢紙」を選んだり、画質を「きれい」にしたりすると、印刷結果にピンクや水色の線がたくさん入って、年賀状の印刷に使えません。

インクの粘度に変化を生じたため、小さいインク粒の形成に問題が生じているのでしょうか?
ずっと以前にも同じような問題が起こったとき(そのときはインクジェットセーバーZは使っていませんでした)は、Windows98だからこうなるんだよ。とモノ知り弟に教わって、そうなのかと納得していたのですが、今はWindowsXPを使っています。
結局、大量の書き損じはがきの発生に耐えかねて、印刷のたびに「普通紙、速い(でも粗い)」を選ぶことで、今年の年賀状は切り抜けました。

これがインクジェットセーバーZの影響によるものか否かは確定できませんが、インクジェットセーバーZを添加することによってメーカーの保証もサポートも受けられない状態になっているわけですから、文句を言っても致し方ないことでしょう。
いえ、私はこの状態には満足しています。

インクジェットセーバーZは、不幸な縁によって自分の手元にやってきた、不調の多いインクジェットプリンターどもに、自己責任において活をいれ、壊して廃棄する代わりにいくらかでも有意義な余生を送らせるための、止むを得ない代替策です。
この記事を読んで、「これさえあれば万全」と早とちりし、改めて当該インクジェットプリンターを買いに走ることは避けてください。
また、最新のプリンターを買ってきて、その性能も確認しないままインクジェットセーバーZを適用して、保証の効かない状態にすることもまた避けるべきであろうと思われます。


「インクジェットプリンターども」としたのは理由があります。
私の父親が、「古いインクジェットプリンターをまだ使えるならやるぞ。」と、年末に新品インク付きでくれたのが、同じメーカーの670式というプリンタでした。

ええ、私には使う技術と能力はあります。が、使う気力はありません。

父の書斎を訪れてみると、670式を不要にしてしまった新型機が鎮座していました。
D800式とそれには書いてありましたが、父はソレとうまく付き合う方法を電気屋から伝授されていました。
「用事のないときもときどき印刷しょーたらインクが詰まらんのじゃと。」

それを避けるために私は日夜戦い続けているのですが、それそろ音をあげてもいいでしょうか?
(06.01.03追記)

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