津山の新しいお城

-備中櫓見学-


今年のお正月あたりから、鶴山城址に真新しい建物がそびえています。
築城400年記念事業の一環として、当時の姿そのままに再建された備中櫓です。
昨年末まで長いこと足場で囲われた箱みたいなものがあっただけでしたが、この3月18日にいよいよ完成し、一般公開されることになりました。
今日はお花見シーズンに先がけて備中櫓の見学に行きましたのでレポートしてみます。

そもそも、美作の国津山城に備中櫓というのはどういうことでしょう?
この櫓の「備中」は鳥取城主池田備中守長幸(いけだびっちゅうのかみながよし)に由来しています。
池田備中守長幸は津山城の初代城主、森忠政の娘婿になります。
備中守が津山に来た時にちょうど備中櫓が完成したことが記録に残っています。長幸が備中守に任じられたのが1615年(元和元年)、津山城の工事完成がその翌年ですから、備中櫓の完成も1616年と考えられています。
その翌年には備中守長幸は本当に備中松山城主となっています。
復元に先がけた発掘作業の結果、池田家の家紋である揚羽蝶がデザインされた瓦が出土したことからも、池田家と備中櫓の関係の深さがうかがわれます。
復元された備中櫓にも揚羽蝶の文様が入った瓦が使用されています。

備中櫓は津山城の中でも天守閣に次いで目立つ建物であり、本丸の中では最奥部に位置しています。普通の櫓は防衛のための兵士の詰め所であり、中は土間だったり倉庫だったりするわけですが、備中櫓は本丸の御殿とつながった座敷となっており、全て畳敷きとなっていました。
御座之間や茶席の存在からみて、城主かそれに近い人の居室として使われていたと想像されます。

こうした城郭の中での特別な位置づけ、観光資源としての見栄えのよさ、そして天守閣を再建するには予算が足りない(失礼!)といった理由から復元事業の対象としてこの備中櫓が選ばれたのでしょう。

さて、入園券を買って門をくぐると、大谷川から拾い上げられ、大石曳きイベントで使われた築城残石が展示されています。
400年前にこんな石を切り出し、形を整えて、吉井川を渡り、お城山を引き上げて石垣を築いたわけですが、それにしてはここの石垣はずいぶん沢山の石で出来ています。
今の世の中、鉄筋コンクリートの建物がニョキニョキと無造作に建てられる時代ですが、この石垣、この御殿を今の人々が作ることはできないでしょう。
必要がない、主がいないから作らないといえばそれまでですが、400年経っても残るものを作るエネルギーというのは大変なものだと思います。

大きな石段を駆け足で登ると、いきなり眼前に備中櫓が現れます。
備中櫓を見るためにわざわざやってきた私ですが、急に目に飛び込んできた美しい櫓の姿におもわず立ち止まってしまいました。
見上げたときの姿はみごとですが、写真を撮ろうとすると桜の枝がどこかに入ってなかなか完璧なアングルが確保できません。桜が満開になったら花の海に浮かぶような備中櫓の姿が期待できるでしょう。
本丸に上がって見る備中櫓は、南側から見た姿とは趣が違います。
南側から見た姿には、優美ななかにも防衛の機能が盛り込まれ、きりっとひきしまった城砦としての風格があります。
北側から見たときには、御殿の一部として使われていたというとおり、優雅な生活のかおりを感じました。真新しい白木の柱がなんだかお寺の庫裏みたいです。

見学は追加料金もいらず、なにげに入って見学できるようになっています。ちょっと贅沢な感じです。
内部は広く、凝った作りになっています。そう、まるで時代劇に出てくるみたいな御殿そのままです。
間取りは案外複雑で、多数の部屋があり、それぞれに作りが違います。先に紹介した御座之間や茶室、二階の部屋には一段高くなった御上段もあり、格式の高い人が生活していたことをうかがわせます。

二階からの眺めはすばらしいものです。石垣の上からでも同じ景色を見ることは出来たわけですが、御殿の窓から見るとまた趣が違います。しかも、世にあまりない真新しいお城です。
こういうお城の主になったなら、さぞかし気分のよいものでしょうね。

駆け足の見学はあっという間に終了しましたが、この真新しいお城にもちょっと気にかかるところがあります。
立派な白木の柱が随所でひび割れています。真新しいわりにはみっともない気がします。

現代の家の柱がひび割れないのは、見えないところに切れ込み(背割り)が入れてあって、木材が乾燥して収縮したときにはその背割りが広がることで他の場所がひび割れるのを防ぎます。
このお城を建てた大工さんはそんなことも知らないのでしょうか。

もちろん、この備中櫓を復元した現代の大工さんはそんなことを先刻御承知です。
でも、400年前に備中櫓を建築した時には背割りの技術はなかったのです。そういう意味では「このお城を建てた大工さんはそんなことも知らない」は正解です。そんなことまで当時のお城を再現してしまいました。これはいよいよ手が込んでいます。

今年のお花見にはたくさんの人がここを訪れるでしょう。ぜひとも皆さんにここを見学してもらいたいものです。
大規模で複雑な石垣、城跡を埋め尽くす桜、それに往時の城を偲ばせる御殿が加わってまた新しい体験が出来ると思います。
内部は案外部屋がたくさんある。内装は意外と質素。
柱のひび割れにも注目。
この角は石垣の形に従ったため、直角ではありません。
当時石垣を真四角に積む技術はありませんでした。
城下の眺めも絶景です。
厠がありました。立ち入りも使用も絶対禁止です。
棟瓦に揚羽蝶の文様が見られます。
レポートにあたって津山城築城400年のページを大いに参考にしました。
他にも津山城について非常に興味深いことがたくさん載っています。

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