久米の里、手作りのガンダム

-久米のガンダム見学記-


今般の合併で津山市になった久米の道の駅には個人が手作りした身長7mのガンダムがります。
厳密に言えばモデルはガンダムの続編、ゼータガンダムのMSZ−006です。
作成者は地元津山市(旧久米町)宮部上の中本正一氏、製作期間7年を要し、1999年12月に完成しました。

私も二足歩行型有人汎用機械には並々ならぬ興味があり、「機動警察パトレイバー」に出てくるような「レイバー」をいつか作ってくれるのではないかと期待して川崎重工と神戸製鋼所の株を長期保有していた(日立・三菱は高くて買えなかった)ぐらいその実現を願ってやまなかったものです。こういう機械は1998年ごろには実現していたはずなんですけど。

近年になってからにわかにASIMOやSDR−3X、といった2足歩行ロボットが出現して技術の基礎を固めつつることを示していますが、コケては危ないので動的有人二足歩行はまだ出現していません。(有人二足歩行機械はLANDWALKERとして実現しています。)

このガンダムが宮部上の田んぼの中に立っていた頃からその噂はキャッチしていましたが、こうして取材するのは初めてです。

訪問してまず思うのは、これを個人が作ったとは思えないその大きさでしょう。作ることもそうですが、設計図から描いて具体化させるところまで個人がやり遂げたというのは、努力というより気力のなせる業でしょう。



間近に見て感銘を覚えたのは、これが単なる巨大なスクラッチモデルではなくて、歩くために必要なアクチュエーターを装備しているということでした。コイツは確かに二足歩行のための筋肉を装備しているのです。



あとはこれを操るために動的歩行をつかさどるオペレーティングシステムを搭載するばかりです。
人間の平衡感覚に頼って操縦することは不可能ですが、技術の着実な進歩によりこれを歩かせる(そしてコケない)ことが出来るプログラムの実現はもうすぐです。

この道の駅は、ガンダムのほかは国道沿いの農村によくある道の駅で、割と広く明るい店内には土産物や野菜や漬物、梅干などが売られています。
入り口にガンダムの製作過程の写真とともに『製作者 中元正一氏への10の質問』というのが掲示されていました。以下に転載させていただきます。これを読むと製作者の意図とモノ作りへの真剣な意欲がうかがえます。

Q1 このガンダムはスケールモデルではないそうですが?
A 設定からすると3分の1スケールぐらいになりますが、これはZガンダムの形をした二足歩行有人汎用機械であり、このスケールがベストと考えています。

Q2 二足歩行型有人汎用機械とは?
A 人間が乗って操縦し様々な作業に対応できることを目的とした、いわゆる万能機械です。人間と同じように手足を使って作業をしたり、移動できるということから人間の力を増幅する機械とも云えます。

Q3 なぜガンダムのデザインに?汎用機械なら外観にこだわらなくても良いのではないか?
A 全く新しいデザインは思いつきませんでしたので、既にあるものを使わせていただくことにしました。
そこで模型雑誌に掲載されていた「藤田一巳版Zガンダム」が大変気に入りました。
また、直線的なデザインは加工もしやすいと考えた中で、巨大ロボ、SFメカで育った自分としては何としてもこの形で実現したいと思いました。

Q4 Zガンダムならば、フライイングアーマー、シールド等の装備は?
A 二足歩行を目指すにあたっては、なるべく軽量に作りたかったので荷物となる装備は不要でした。
また、平和利用のため武器も必要ありませんでした。

Q5 なぜこの大きさに?
A @中に人が乗ることが出来る。AZガンダムの形を崩さない。B作ることが可能である。
これらの条件から、全高は約7メートルと決定しました。これより小さければ人間が乗って操作できなくなり、大きくすれば強度、運動性、動力などの問題がさらに増します。また、自分の力ではこの大きさが限度でした。

Q6 動力は何ですか?
A 電気モーターで油圧ポンプを回転させて発生した油圧により、各関節に組み込んだ油圧シリンダーを動かします。なお、電源は内蔵バッテリーではなく外部からの供給が必要となります。

Q7 構造はどうなっているのですか?
A 鋼鉄製の骨格に、FRP(繊維強化プラスチック)の外装、脚部は動かせるように、片足6箇所の関節があります。動力発生源のモーターポンプ、オイルタンクはふくらはぎの部分にあります。

Q8 操縦方法は?
A コクピット内にある制御弁を手動操作して操縦をします。レバー1本が一つの関節に対応しておりますが、将来的には自動制御となり操作も簡単になると思われます。また外部の様子はモニター画面で見ることになります。

Q9 実際に動くのですか?
A 現状では動きません。電気配線を行い作動油を入れれば足を動かすことは可能であると思いますが、本体の支持金具を取り外し歩けるかどうかやってみないと解りません。また、転倒防止の設備の問題もあり動かすところまでには残念ながら至っていません。

Q10 なぜこのようなものを作ったのですか?
A 巨大ロボットへの憧れというのは小さな頃からありましたし、ものづくりに生きてきた自分にとっては、つくり甲斐のあるものと思い挑戦しました。

これを読めば、遠い未来でなく、いまや来ようとしている近未来に実用的な汎用機械を実現しようとした製作者の意図が感じられます。 遠い未来や宇宙戦争を夢見たプラモデルの特大版ではなく、まさに「レイバー」の着想でもってどんな企業も着手しようとしなかった汎用歩行機械を、いち個人が、10年以上も前に世界に先駆けて作り始めたのがこのガンダムです。

聳え立つガンダムの姿は確かに美しいと思います。しかしこれがガンダムの姿をしていることでこのガンダムが向かっている方向が誤解されているような気がしてなりません。
これは「世界で最初に着工された二足歩行型有人汎用機械」であり、世界で最初に完成こそしなかったけれども、来るべき未来を見つめて完成の日を待っているのです。

こんなモノが津山にあることを津山市民は誇りに思うべきでしょう。

町役場が作ったガンダムの格納庫の方が
ガンダム自身の総工費より高かったのはナイショです。
側面から見ると妙に腰の辺りが頼りなく見えます。
なお、私の見学の翌週(4月下旬)はこの道の駅で「仙人まつり」が行われ、ガンダムのコックピットに搭乗できるイベントなどがあったそうです。

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