ステップワゴンでエコラン(前編)

-燃費向上の理論編-


先日、私のクルマについて紹介しましたが、私の乗っているクルマのもう1台は、ホンダのステップワゴン(UA-RF4)です。
それまで乗っていたクルマが5MTのプリメーラ(HP10)で、キビキビ走って通勤に毎日乗ってリッター12キロでしたから、がんばってもまずリッター10キロを超えないステップワゴンの燃費は許しがたいものでした。

ホンダの自信に満ちたおせっかい
許しがたいといっても2000ccで、ATで、4WDで、8人乗りですから、リッター9キロなら満足すべきなのですが、メーターの中に瞬間燃費がよい状態のときに点灯する「ECO」のインジケーターがあり、ちょっとアクセルを踏み込むと消えてしまうものですから、私の探究心は否応なくエコランの方へ向き続けてきたわけです。

そういうわけで、今回はエコランの実践に向けて理論のお勉強です。
以下の内容は主に「Fast and First」の燃費掲示板、及び私と同じクルマを所有する熱心なステップワゴンユーザーのページ「1st STEP WGN」から得た知識のまとめです。
世の中には様々な燃費向上グッズとかを売っている例も多いわけですが、世の中を席巻するほど劇的な効果をあげるものはあまり見かけません。そういう中で私の知的探究心でどこまで切り込めるか、私の力で何か世の中に付け加えるものがないか挑戦してみます。ま、例によってkumapooh的切り口ですからあまり期待せずに付きあってやって下さい。
燃費を悪化させているものは何か
ステップワゴンは、先に述べたように燃費に不利な条件が満載されています。
まず、その重量、スタイルから来る空力数値の悪さ、おまけに4WDでオートマです。
しかしそんなことを嘆いていても始まりません。そういう取り除くことが出来ない要素を論じるならスズキのTwinにでも乗り換えましょう。

@まず、「余分な重量は燃費を悪化させる」ですが、余分な荷物を積まないという点では、トランクルームを持たないステップワゴンはむしろ有利です。
プリメーラに乗っていた時代には、大容量のトランクが災いして、ありとあらゆるものを年中積みっぱなしにしていたものです。
タイヤチェーン、牽引ロープ、ブースターケーブル、キャンプ道具、携帯ガスコンロ、缶詰、懐中電灯、長靴、拾ったパソコンの残骸、妻に捨てられかけた土産物の十手、鞄からこぼれた無用の書類、空き缶、地質調査用ハンマー、故障したままのCDチェンジャー、等々、思い出しても無用の品々を毎日よく運んだものです。これらは加減速のたびにエネルギーを無駄使いする原因となります。
今は車内を見回して、何か邪魔なものがあれば必要なものも含めてすぐ車から放り出してしまう習慣となりました。

A次は、「無駄な加速は燃費を悪化させる」ですが、無駄な加速か無駄でない加速かの区別は奥が深いので、その深い部分はあとで解き明かすことにします。
ただ、加速のうちどう考えても無駄な部分は、急激にアクセルを踏み込んだ場合のガソリン噴射量増量で、はじめ少し踏み込んでから、エンジンの回転数が上がることにより自然に吸入空気量が増えるのを待ち、それに従ってアクセルを踏み足すような気持ちで踏んでやれば、きちんとパワーも出て無駄な加速になりません。ECUはアクセルを踏み込む深さよりもむしろ踏み込む勢いの方を重視しているのです。

アクセルを踏み込む深さは、インマニの負圧減少となってECUに計測されます。しかしエンジンの回転数がそれ相応に高ければエンジンの負担は軽いのでガソリンは無駄に噴射されず、必ずしもアクセルを深く踏むと燃費が悪化すると言い切れるものではありません。回転数相応のアクセル開度であれば、いい仕事をしても燃費は悪化しないのです。

Bそれから、「坂道は燃費を悪化させる」かというと、実は思ったほどではないようです。
直線的であまり急でない峠を登って、出発点と同じ標高まで下るというコースを考えれば、登りの時にはさすがに平地よりはずっと多くのガソリンを喰います。しかし、それはクルマの位置エネルギーとして蓄えられていますから、下りは全くアクセルを離して、減速時燃料カットの恩恵を受けながら、全くの無料で峠の後半を走りきることが出来ます。

クルマの取扱説明書を読んでいると「下り坂でギアをニュートラルにしてはいけない。ニュートラルにしても燃費向上の役に立たないばかりか、むしろ燃費を悪化させ、危険さえ生じる。」といった記述があります。下り坂でギアをニュートラルにすると、減速時燃料カットが解除されて、アイドリング用にガソリンが供給されるため燃費が悪化するうえ、パワステの油圧やブレーキの真空倍力装置に動力が不足するため、クルマが正しくコントロールできなくなり非常に危険です。って、自動車教習所的初歩知識かな。

ロスはスピードオーバーを防ぐためにブレーキを踏むことによってのみ生じます。全くガソリンを使っていないのに、ブレーキを踏むとロスが生じるのは、そこで位置エネルギーを運動エネルギーに変えそこねる(熱として捨てる)からです。
また、峠にはコーナーが付きものであり、コーナーを曲がるための減速はもちろんロスになります。
一番痛いのは、峠の逆で坂道を下ってスピードが一番乗って、ここから勢いで登るぞーという場所に信号なんかがあってブレーキを踏まされる場合です。位置のエネルギーも運動エネルギーもどっちも失って、ゼロからガソリンを使って坂を登るのは全くバカバカしい思いがします。

Cそれから、本質的ではないのですが、「短距離の通勤は燃費を悪化させる」のは当然です。ECUはエンジンの水温や吸気温、排気温を測定して、エンジンが冷えている間はガソリンを増量(混合気を濃く)します。するとアイドリングの回転数が上がってエンストを防いだり、なめらかな加速を実現したりします。
昔の機構でいえばチョークです。最初はチョークレバーを始動時に引いて、暖機完了後ランプが点いたら戻す、という仕組みだったのが、温まると勝手に戻るチョークになり、見えない場所で勝手に動作するチョークになり、とうとう電子的にチョークの真似をするエンジンになってしまいました。もう20年もしたら、吸入空気を制限(Choke=窒息)することでエンジン回転数が上がるデバイスがあったというのは誰にも信じてもらえなくなるでしょうね。

脱線しました。冷えたエンジンを混合気の濃い状態で走らせて、すぐに着いたらまた帰りの時間までエンジンを冷やしてしまうというのは、燃費にとって最悪のシチュエーションですが、これを避ける手だてはあまりありません。ただ、最近のクルマでは水温が低い間は暖房用のコアとエンジンの間だけを冷却水が循環していて、ラジエター全体が温まるのを待ちませんから、被害を最小限にとどめる工夫はしてあります。

加速が燃費を悪化させているのではない
エコランというと、アクセルの踏み方にばかり注意が行きがちです。
確かにアクセルを多く踏むとガソリンは多く噴射されます。それが馬力となってクルマは加速します。加速されたクルマは運動エネルギーを得てそれ相応の距離を走ります。現代のクルマでは、それらのプロセスにあまり無駄がないので、消費されたガソリンと走った距離の関係は常に比例していて、アクセルの開度によってそうそう差の出るものではありません。もちろん、メチャクチャとばしたり、極端なノロノロ運転をすれば差は出るでしょうが、通常の道路で実用的な使用をしている限り、差は出にくくなっています。

本当に気をつけなくてはいけないのは、エネルギーを捨てる行為、ブレーキの方です。
そんなこと言っても、ブレーキ踏まないといろいろ危ないし、だいいちブレーキはいくら踏んでもガソリン食わないでしょ。という反論があるかもしれません。私もブレーキをしっかり踏んでクルマの荷重を前輪に乗せてからクルリと角を曲がるのは好きです。それがエコランには大敵なのです。
ブレーキは、そこまでガソリンを燃やして蓄えてきた運動エネルギーを、一瞬にして熱に変えて捨て去ってしまう行為です。
「その」ブレーキを踏まなければ、惰力で減速時燃料カットを効かせたままで数百メートルは走れたのに、ブレーキを踏めばまたガソリンを燃やしてその数百メートルを走らなければなりません。
ブレーキを踏むのが全面的にダメなわけではなく、ブレーキを強く踏まざるを得ない状況をなるべく作らないようにすることがポイントです。


こうして、なるべくブレーキを踏まないための予測走行が徹底してくると、メーターパネルの中のECOのランプが何だか、意味が違って見えてきます。無駄な減速を避けるために、無駄な加速を戒めているのだろうという気がしてきます。結局、肝心なのはアクセルではなくてブレーキなのです。
ただ、あまり度が過ぎると周囲のドライバーをイライラさせますので、バックミラーに気を配りながら、人に迷惑をかけそうなときはほどほどにしておきましょう。

ポンピングロスという両刃の剣
燃費掲示板を見ていると、ポンピングロスという言葉が頻繁に出てきます。
これはどんなテクノロジーをもってしても燃費を悪化させる原因となる、理論的な壁です。
イヤラシイことにそれは、アクセルを離しているときに最大で、アクセルを開けていると少なくなるという性質を持っています。
以下に、私なりに理解したポンピングロスに関する考察を書いてみます。自動車工学の理論に明るい人に見せれば異論があるかもしれません。

ポンピングロスは、エンジンが給排気のときに失うエネルギーで、吸気の損失と、排気の損失に大別されますが、エンジンのサイクルの中で必然的に生じるロスという点では一体となっていると言えます。要は「給排気にかかる圧力×その圧力に逆らってピストンが動く距離」のうち、回収不可能なエネルギーがロスになるものです。(圧縮、爆発の行程はバルブが閉まっているので物理学的な仕事が起こらず、ロスにならない)
このうち、排気の損失は、私には調べることも、いじることも出来ませんから、ここでは論じませんが、吸気の損失から比べるとかなり小さいものと思われます。

吸気の損失は、「吸気負圧による力×エンジンのストローク」でおおよそ計算できると思います。
この吸気負圧というものが、アクセルを閉じたとき最大(エンジンブレーキ時おおむね0.8気圧)で、アクセル全開時にほぼゼロ(そのときの回転数にもよる、また、ターボなどはプラスにもなる)となります。従って、アクセル全開時にはポンピングロスは最小になります。

吸気行程によるポンピングロスを、私の乏しい物理知識でもって試算してみましょうか。ただし、エンジンのバルブはきっちり上死点で開いて、下死点で閉じるものではありませんし、空気の慣性なども作用するのであくまでも理論的な数値です。
条件として、アクセルをごく軽く開けた状態で、吸気負圧が50kPa(約0.5気圧、500ミリバール)2000回転で巡航しているステップワゴンのエンジン(K20Aの内径、行程は86mm×86mm、4気筒)を仮定しましょう。

ピストン1個の面積は
3.14 × 4.3 × 4.3 ≒ 58 平方センチメートル (= 0.0058平方メートル)

これにかかる負圧の力は
0.0058 × 50000 = 290 N(ニュートン) (≒ 29.6キログラム重)

ピストンはこの力に逆らって86mm動きますから
290 × 0.086 ≒ 25 J(ジュール)

これが4気筒あって
25 × 4 = 100 J

ここまでの計算は2000ccであればどんな内径・行程・気筒数でも同じです。

エンジンが1分間に2000回転すれば、この損失は1000回起こりますから仕事率が算出されます。
100 × 1000 ÷ 60 ≒ 1666 W(ワット)

1Wは0.00136馬力(1馬力は735.5W)ですから、これを馬力に直すと
1666 × 0.00136 ≒ 2.27 PS(仏馬力)
快調に巡航しているステップワゴンに、後ろ向きに2.2馬力のエンジンが取り付けられているという計算結果となりました。

これはどのぐらいの加速力(減速力)かというと、ステップワゴンの車両重量を1590kgとして、1分間にどのぐらい加速できるか計算します。
√(1666 × 60 × 2 ÷ 1590) ≒ 11.2 m/s ≒ 40 km/h

ポンピングロス(吸気)のエネルギーだけで時速40キロのステップワゴンが1分で止まるほどの損失が生じていると言えます。

快調に巡航している状態と思いきや、エネルギー的にはガソリン消費が、このポンピングロスや空気抵抗、各種の摩擦やタイヤの転がり抵抗にみな食われている状態ということになります。中でもポンピングロスは純粋に物理的な要因によって発生し、何の恩恵も残しませんから特に痛いわけです。
あ、ひとつだけ積極的な意味がありますね。アクセルを離した時に効く「エンジンブレーキ」がそれです。効きは悪いけれども磨耗もせず、余分な熱の発生もなく、申し分ないブレーキなわけですが、アクセルを少々踏んでいてもエンジンブレーキは効き続けているのです。

アクセルを開けるとポンピングロスは減る、しかしガソリンは多く噴射されるため燃費は悪化する。この両刃の剣の状態を何とかするために、自動車工学の世界では常に知恵を絞っていますし、エコランを極めるなら押さえておきたいポイントではあります。

ポンピングロスは、排気量の小さいクルマでは小さくなります。それはピストンの内径×行程が小さくなることと、同じ出力を得るためにはよりアクセルを大きく開け、吸気負圧が小さくなりがちなためです。
また、過給機付きのエンジンで、軽く過給してやるとポンピングロスは減ります。
技術的には、吸気行程のバルブを遅く閉じる(早く閉じる場合もある?)ことにより、吸気負圧に逆らった仕事量を減らすというエンジンもあります。が、よく見ると出力も減りますから、排気量を減らすのと効果的には大差ありません。
ま、ステップワゴンでエコランが今回のテーマですから、そのへんを突っ込むのはやめておきましょう。

おそるべきホンダのテクノロジー
エコランをいざ実践にかかろうと思ったら、目の前に大きな壁が立ちはだかっていることに気付かされました。
STEPWGNも当然VTEC

きょうびのクルマは普通に走ったらエコランになるように注意深く作りこんであるために、少々の工夫では燃費に差が出ないのです。

例えば点火プラグの失火による不着火などは皆無です。従って「より強い火花で点火することにより、パワーアップ、燃費アップ、排気ガス浄化・・・」などというグッズには説得力がありません。
吸気経路に何やら細工することで燃焼効率を上げるとするグッズもありますが、燃焼室内に渦を作って完全燃焼させる技術は排ガス対策の歴史の中で克服済みです。
VTECだって、低回転時に燃焼室内の流速が小さくなり、燃焼効率が悪化するのを防ぐための仕組みです。
要するに、ガソリンの不着火・不完全燃焼防止をテーマとした燃費向上技術は既に過去の話題なのです。

エンジンルームも、ひと昔前のホンダ車の、ぎゅうぎゅう詰めとは様変わりしており、何でも電子制御が徹底して、配管の数はむしろ減っています。電子制御は組み込みコンピューターの高速化により精度を増していますから、下手にいじると結果がむしろ悪くなるということも十分予想されます。
実際、観察してみるとアクセルを相当開けてからでないとガソリン噴射量が増えなくなっており、ポンピングロスの問題を巧妙に回避しています。これはキャブレターの時代には実現できなかった動作ですが、電子制御は何でもこなしてしまいます。
それはドライバーの運転の仕方さえも吸収してしまっており、歯をくいしばってECOのランプが消えないようがんばっても、1割も結果は違わないのです。

このホンダのテクノロジーを超えた結果がいちユーザーに出せるものか(まだ出ていません)、今日は理論編ということで、実践編は次の記事とします。しばらくお待ちください。

「なべのさかやき」目次に戻る