美咲町のど根性大根
-ニュースのツボと路上観察のツボ-
「ど根性大根」といえば相生市の「大ちゃん」が
- アスファルトの歩道を突き破って生える。
- ニュースになったとたん、何者かに地上部を折られる。
- 何者かに持ち去られ、こっそり夜中に返却される。
- 市役所が保護し、水栽培される。
- 花が咲きかけたので土に戻すとしおれはじめる。
- 細胞を採取し、クローン化計画が始まる。
- 「大ちゃん」クッキー発売
- もとあった場所に記念碑建立
と、大根にしては数奇な運命をたどっていますが、美咲町にもど根性大根が発見されたと新聞に載っていましたので、見物に行きました。
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県道勝央仁堀中線 |
ところは岡山県道52号勝央仁堀中線の美咲町宮山地区です。
以前、勝田・勝央・柵原・英田の4町が合併を協議していたとき、その4町の接点となっていた峠です。
なお、この道が勝央と仁堀中を結ぶルートもなかなか数奇な曲がり方となっています。
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ありました。 |
峠を登っていくと、ありました。2度も新聞を賑わしたど根性大根です。
1度目は「美咲町にど根性大根発見」の報で、2度目は「ど根性大根、美咲町役場により手厚く保護」の記事でした。
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異常に手厚い保護と | 町役場による注意書き |
しかし、わざわざ見に行った私には何やらモヤモヤした不満が残りました。
大根がアスファルトを突き破っているわけでもありませんし、大根の背後がすぐ畑であることから大根の種が遠い旅をしてきた様子もうかがえません。
この物件の唯一の面白さは公有地に極めて私物くさいものが立地しているという点だけです。
要は笑いの沸騰点に達していないということです。
割り切れない思いで(もっと面白い大根がないか道端を探しながら)帰路についた私は、新聞記事になるニュースと、自分の捜し求める路上観察ネタとの違いにようやく思い至りました。
新聞記事は笑いを取るために書いているのではないのです。どっちかというと、ニュースをめぐる人間の営みに焦点があたっているものです。
これに対して路上観察学は不条理であることをむしろ尊びます。万人が受け入れられないもの、99%の人が見落としていることが上ネタとなるのです。
思い出せば昨年、津山で「カモの卵救出作戦」がニュースになりました。
事件の概要は
- 梅雨期を控えた6月上旬、津山市役所の傍らを流れる御北川(おきたがわ)で野生の鴨が20個あまりの卵を産卵した。
- 場所が三方コンクリートの増水時逃げ場所のない所だったので、次の雨が降れば卵が流されることは明らかだった。
- 津山市職員の手により、6月10日に救出作戦が敢行され、17個の卵が保護された。
- (その数日後、川は増水して巣のあった場所は水没してしまった。)
- 卵は救出した職員の自宅で孵卵器に入れられ、7月上旬に2羽のひなが孵った。(あとの卵は傷ついていたり、無精卵だったりして孵らなかった。)
- 2羽のひなは農業公園「ドイツの森」に引き取られることとなり、7月13日にドイツの森に引き取られていった。
というものでした。
うーむ。美談です。新聞ネタとしては完璧なストーリーです。
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産卵というより散乱。 |
しかし、私がこの事件で注目したのは
- この鴨はマガモやカルガモではなく、アイガモであった。
- おそらく、縁日やペットショップで売られていたヒヨコが育ったために宮川に捨てられたものであろう。
- 中途半端な野生化のため、野生の勘が働かず、危険な場所に卵を産んでしまった。
- 笑いのツボは「卵を産卵」ではなく「卵が散乱」していたことである。
私の捜し求めている笑いのツボは、事象の裏側にあるこうした不条理なのです。
そうしてみれば、新聞のほのぼのしたニュースを頼りに現場に行ってみたとて、期待するものが見つかろうはずはありません。
そして今日もまた、路上観察者は不条理を探す旅を続けるのです。
不条理を探す旅の果てには |
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