めざせ津山の最高峰

-天狗岩登頂記-


4月号の広報つやま(P18コラム)によると、「津山一高い山」は、加茂町倉見の天狗岩(標高1196.6m)であるとのことでした。
おおっと。津山一高い山は滝山だと思っていました。

津山盆地から見上げる滝山は、津山に面した南斜面が奈義町ですが、北斜面が旧勝北町でしたから、私は当然滝山が津山で一番高い山になったものだと思っていたのです。

早速地図を取り出して検分してみると、滝山の標高は1196.5m。
たった10cmの違いで、滝山は津山の最高峰の栄誉から漏れてしまっていたのでした。

いやいや、たった10cmの差ならば、山に登ってちょっと足踏みしたら逆転してしまうような差にすぎません。
津山のトリビア探検隊としては、この、今まで聞いたこともなかった最高峰をめざしてみなければなりません。

天狗岩の登山道は、勝間田高校の演習林の中にあります。周囲には倉見温泉や別荘地もあり、山菜採りの方々も出没し、それはそれで楽しめる場所がいっぱいあります。
演習林の道路を進むこと1.4km、「天狗岩登山口」と書いた大きな看板のすぐ先で道に鎖が張ってあり、そこからは徒歩になります。

その先の林道は、悪ふざけかと思うほど曲がりくねっていて、天狗岩の方向へずんずん進んだかと思うと180度ターンして戻ってみたり、山肌に沿ってつづら折れになったり、時々は下り坂になったりして続きます。
地図で見当をつけてはいるものの、何の案内もなく、行ったこともない山ですから、心細い限りですが、谷を流れ下るせせらぎや、見かけない虫を見たり、鳥の声を聞いたりしながら進みます。そういう私はハイキングでもなく、山菜採りでもなく、全く怪しい探検隊です。

航空写真でこの林道を見ると、植林が放射状に切り開かれた奇妙な間伐が見られますが、やがてその現地にたどりつきます。何でも巨木の森を作るための実験的な間伐のようです。

縞々に間伐されたところを一番奥まで進んだら、砂利道の車道は三叉路になって、その一角に山に上がれるように木の段段がついていました。

やはり何の案内もありませんが、これが登山道入口らしいと見当をつけて登りはじめました。
この時点で、まだめざす天狗岩がどんな山なのかさえわかりません。(帰りに見ると、すでに登りはじめに見ていたことがわかります。)

薄暗い植林の中で、一度下り坂になったところで、木々の間の上方に岩山が姿を現しました。

なるほど、あれが天狗岩だなと納得をさせるその姿を見ると同時に、そこまでイッキに登らなければならない見通しがわかって、ちょっと疲れを感じます。
まっすぐ天狗岩を目指して登る坂道は、しだいに勾配がきつくなり、きつい坂から、シャレにならない坂へ、そして信じられない坂となり、ありえない坂となってまだ登り続けます。
黒ボコ土の足元は昨日の雨でぬかるんで、クマザサの軸をにぎって滑り落ちないようにしないと登れません。
登るといっても、ちょいデブおやじには過酷な道。腰掛けやすそうな木を見つけるたびに小休止です。

水平距離400mで標高が200m上る登り坂が限界まで急になったところで、視界が開けて岩山が見え、頂上が近いことがわかります。
そのまま闇雲に岩山を登りかけて、道が右へ迂回していることに気がつきました。そのまま登ったらあやうく遭難するところでした。

頂上にはちょっとした広場と、三角点と、「天狗岩」がありました。

樹木とクマザサに覆われた頂上から、大きな岩がいくつか空にそびえています。
三角点と岩のてっぺんを見比べたら、岩の方が3mぐらい高くそびえています。(写真の看板の高さが約2m、三角点より看板の根元の方が50cmほど低い)
ということは、天狗岩のてっぺんの標高は1200mに数十センチ足りないぐらいの高さということになります。

滝山との最高峰争いは、滝山に登頂してみなければ正確なところはわかりませんが、この岩の高さ分だけ天狗岩の勝ちのようです。滝山の頂上は樹木が多くて岩がなく、なだらかだった記憶があります。

お昼にしようと、リュックサックからみごとにひしゃげたサンドイッチを取り出したときです。

キューンと鋭いジェットの爆音が北の方から迫ってきました。
爆音のもとが何者か見つけようと、とっさに天狗岩にかけ上りましたが、爆音が聞こえ始めてからものの3秒ほどで爆音の正体は峰の西側の木々の向こう、数百メートルも離れていないところをかすめ過ぎたようです。
さらに数秒後、鋭角的なシルエットをもったジェット戦闘機の機影が泉山を背景に大きくバンクして右(西)に旋回して消えました。 近付くときは全くだしぬけだった爆音が、その後1分ほども山々にこだまして轟き続けました。

中国山地はこうした米軍機の飛行訓練コースとなっていることが知られています。
厚木基地や横田基地から、韓国の基地に往復する戦闘機は、往復のついでにこのように山間を縫って飛ぶ訓練をするので、瀬戸内や津山盆地上空で見かけることはありません。
してみると、我々があまり知らなかったこの天狗岩は、意外な人たちの間でよく知られた目印になっているのかも知れません。

食事の後は岩に登って地質学と地理学の研究です。
中指の指すあたりが天狗岩のてっぺんのてっぺん。
丸いくぼみは10円ハゲたまねぎ状風化です。
眼下はさっき登ってきた登山ルートが一望できる絶壁です。
一番遠くの「山」の字に並ぶのが那岐山・滝山・爪ヶ城
那岐山の右、ひとつ手前のテーブル状の山が大ヶ山

そびえ立つ岩山は、山すその花こう岩とは違って、安山岩質の岩石でした。
この辺で安山岩質の岩石といえば、那岐山や滝山の山塊が中生代白亜紀の安山岩類(一部流紋岩類)ですが、これほど離れたところで由来の同じ安山岩類が見られるとは考えにくいので、天狗岩は巨大な岩脈なのでしょう。
花こう岩が白亜紀の末なので、那岐山塊よりいくぶん新しく、それを貫く岩脈はさらにいくらか新しいものだと考えることが出来ます。
その後、調べたところ上記の予想は全く違っていました。天狗岩は白亜紀後期の斑れい岩でしたね。周辺の花崗岩と同年代でやや古いもののようです。(10.09.04追記)
また、人形峠周辺や五輪原、大ヶ山の玄武岩(新生代第3紀)と分布的に近くにあたりますが、それとも全く違った感じの岩です。

天狗岩のてっぺんは、切り立っていますがよじ登って腰掛けるのに具合がいいところがあり、さっきまでのしんどさも忘れてお山の大将になった気分です。
足をぶらぶらさせながら、知っている山の姿を探して見ます。

津山第二の高峰、滝山は意外と遠くに見えます。大ヶ山は東、那岐山は南に見えるような気がしていましたが、実際にはほぼ同じ方向に見えます。大ヶ山の手前、北寄りには五輪原の大根畑が広がっています。
加茂の町の一部が見えるのは成安のあたりでしょう。それ以外では平野部から天狗岩を望むことはできないようです。
南に泉山、そして割と近くに花知ヶ山、西と北の眺望は樹木にさえぎられてよくありませんが、木々の間から牧場のようなものが見えるのは、普段スキー場として親しんでいる恩原高原でしょう。

久しぶりのお天気に恵まれて、ほんとに天狗にでもなったかと思うようなご機嫌なひと時でした。
本日のルートマップ(徒歩部分)

後日談
梅雨の晴れ間に滝山に登って、頂上と三角点の関係を確認してきました。

天狗岩に比べるとよく整備された登山道で、中腹が急傾斜になっており、8合目以上はちょっとなだらかになっています。
国道から入ると、自衛隊のジープやメガクルーザーが草をいっぱいくっつけて訓練しているところを「ちょっとゴメンナサイ」と通り抜け、
登山道の前半は滝神社の参道を兼ねていますから、役の行者の伝説を追って修験者の気分で登ります。
滝神社で小休止したあと、渓谷を登り、山腹の5合目から8合目までの急傾斜を登りきると、クマザサの間に踏み分けられた青草が茂る、ちょっと不思議な感じの登山道はしだいに緩やかになり頂上に至ります。
(他に声ヶ乢から爪ヶ城山、滝山を経て那岐山に至る縦走ルートもあります。)

滝山の三角点は、滝山の本当のてっぺんに位置しています。
これで津山の最高峰は天狗岩であることが確認できました。

ところが最近、頂上(奈義町側)に、こんな木製の展望台ができていました。
ざっと目測すると床板が三角点より1.5mぐらい高く、手すりは床より約1m高いぐらいでしょうか。
この展望台に私が立っても、目線は標高1200mを越えないはずです。
これに対して天狗岩のてっぺんに腰掛けた時の私の目線は1200mをわずかに越えていたはずです。
ここでもやはり天狗岩に軍配が上がるようです。

ただ、滝山の頂上からの眺めは上々で、天気がよければ津山盆地や日本原をはじめ、四国山地や大山に至る相当の範囲を展望することが出来ます。
登山道の整備状態や、眺望のことを考えれば、ピクニックの行き先としては滝山の方がずっと優れていると正直に認めましょう。
帰り道で見つけた「オトシブミ」の卵
子供のゆりかごを道に落とすなって。
(06.06.23追記)
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