「ふぅぅー」は冷たく「はぁぁ〜」が暖かいホントの理由

-勝手に後編-


私のホームページのお手本の1つである「できるかな?」(www.hirax.net)は、1年ほど前から更新が非常に遅くなってしまい、筆者の力点は「Tech総研ブログ」(平林純@「hirax.net」の科学と技術と男と女)の方へ移ってしまったみたいです。
私のページは、内容ははるかに及ばないまでも、体裁は「できるかな?」を大いにお手本にしていましたので、熱心な読者としては次の記事がいつ出るのかとクビを長くして待っていたのですが。

とりわけ、私が待っていたのは、「「ふぅぅー」は冷たく「はぁぁ〜」が暖かいホントの理由 前編 - 「ふぅぅー」と「はぁぁ〜」の温度(≠体感)差は2.5℃。だけど… - (2005.03.31) 」という記事の後編でした。

お話はこうです。
ということになったきり、1年が経過してしまいました。

この問題については、私なりの答えを持っていたので、後編でそれが解き明かされるのを待っていました。何より、大学の先生がよく検証もせずにもっともらしいことを言うことについて、大変不審に思っていました。
hirax氏はそのこと、要するに「ふぅぅー」が冷たいのは主として断熱膨張のためではない、ということに気がついていたはずなのですが、そのことは暴露されずに年月が経過してしまったわけです。

仕方がないので、この際、この問題に関する私の答案を提出してみましょう。

断熱膨張説
まず、「断熱膨張」説について検証してみます。

hirax氏は、「『気道内での圧力が(大気圧との差として) 3.92kPa を超えると肺の損傷が起きる恐れがある』という話もある」ことを根拠に、「ふぅぅー」の息の最大の気圧差を3kPa(大気圧の3%程度)と見積もっています。
えーと、気圧が計れる道具・・・おおっと、それなら最近クルマに取り付けたばかりです。

クルマの運転席にしゃがみこみ、ゴムホースを吹く係と写真を撮影する係をひとりで兼ねて撮った写真がコレです。
この圧力計は、静止状態で通常2kPaぐらいを指しているのですが、普通に「ふぅぅー」で10kPa、がんばれば15kPaぐらいは吹けるようです。
それもゴム風船を吹くような、口だけを使ってほっぺたを痛くするような吹き方を必要としません。無理なく普通に、肺とつながって息を吹くことで10kPaの気圧差が得られます。
案外、人間の体って強靭なものだなあと思います。

さて、「ふぅぅー」の気圧差が10kPaであるならば、元ネタの「ポアッソン(Poisson)の式」を使って、断熱膨張の計算をやりなおさなければなりません。えぇー、どうすりゃいいんだ?
「ふぅぅー」の温度差は7.9℃
数学の苦手な私は、七転八倒したあげく、難しい部分をExcel君に押し付けて上のグラフを得ました。
口の中の気圧は111kPa、温度は32℃として、これが外気圧101.3kPaまで断熱膨張した場合の温度は24.1℃と求まりました。
7.9℃の温度差なら、確かに冷たく感じることでしょう。

それでは、hirax氏の説明が誤りで、東大の先生の解説の方に軍配が上がったということでしょうか?
私はそうは考えていません。
hirax氏が末尾に記した「『何かの現象を説明するのに、一つの理由だけを考える』というのは、えてして落とし穴にハマリがちだったりもする(そんな気がするだけだが)ので、他の理由も考えたり知ってみたい、と思う。」という考え方に私も賛同します。
「『ふぅぅー』は冷たく『はぁぁ〜』が暖かい」現象というのは、突き詰めればもっと面白い考察ができると思うのです。

混合説
私の思いついた説明は(クルマの吸気負圧計を吹いてみる実験の前に考えていたことですが)
「ふぅぅー」は高速の気流であり、乱流を引き起こすため、目標に到達するまでに周辺の空気との混合が起こる。
「はぁぁー」は大きく開けた「あ」の口から、同じ大きさの手のひら(指を含まない)に到達する層流(乱流でない)であり、周辺の空気と混合されていない。

という違いによるものだと考えました。

つまり、口の中の空気の温度が32℃、外気温が16℃と仮定するならば、「はぁぁー」の温度は限りなく32℃に近い、30℃かそこらの温度だといえますが、「ふぅぅー」は50%混合で24℃、2割呼気、8割外気なら19.2℃になります。
現実、口から3cmぐらいまでなら「ふぅぅー」だって温かいのです。

「ふぅぅー」の時の口の開口面積を考えれば、30cmぐらい離した手のひらに吐いた息が到着するまでには相当に混合が進んでいると見ることができます。

熱流量説
もう一つ、「はぁぁー」と「ふぅぅー」の違いで頭に置いておかなければならないことがあります。

それは、気流が熱を運ぶ速度の問題です。
やけどをして「アッチッチ」となったときに、息を「ふぅぅー」と吹きかけるのは、なるべく多くの空気を冷やしたい患部にぶつけて、熱を運び去らせるために自然にそうしてしまうのです。
吹きかけた空気が、外気温よりも高い温度であることなど考えていたらどうしていいかわからなくなりますが、より冷たい外気温の中でじっとしているよりは、大急ぎで体温に近い「ふぅぅー」を浴びせるほうが効果的なのは明らかです。
これに対して「はぁぁー」は、熱を運び去る速度がずっと小さいと思われます。
アイスの表面に成長する霜

よく冷えたアイスキャンディーを食べていて、その表面に霜が成長するのを見たことがあるでしょうか。
私はこれを見るとついつい息を吹きかけてみます。
「はぁぁー」と息をかけると、アイスの霜は吐く息の水蒸気を吸収して見るまに成長します。
さんざ霜を成長させたところで、「ふぅぅー」と息を吹きかけてみると、霜はあっさりと溶けてアイスの下地の色になります。
溶けちゃった霜が気の毒な気がして、もう一度「はぁぁー」とすると、また霜は元気に成長をはじめます。
でも、気がついたら、アイスが思わぬところから溶けていて、ズボンに甘い汁が垂れてしまったりしますからほどほどにしておきましょう。

ちょっと話がそれた感じですが、これがまさに「ふぅぅー」が運ぶ熱量は多く、「はぁぁー」が運ぶ熱量は小さいということの説明になっています。
アイスキャンディーにとっては「ふぅぅー」は温かく、「はぁぁー」の方が冷たいものなのです。

蒸散による冷却
汗ばんだところに風が吹くと、水分の蒸発により気化熱を奪われ、ひんやりと感じます。
「ふぅぅー」が冷たいことの説明には、水分の蒸発も当然関係があります。
うちわや扇風機が涼しいのは、たぶん断熱膨張や、より涼しい空気との混合のせいではないので、水分の蒸発の効果を一番に考えるべきでしょう。
ただ、「ふぅぅー」の口から出たところの湿度はたぶん100%に近いでしょうから、口からやや離れた場所で、外気とよく混合した後でないと蒸発の効果はないでしょう。
この話の流れから言うと蒸散の効果を論じるのはやや蛇足な感じがしますが、一応押さえておきたいポイントではあります。

まとめ
「ふぅぅー」は冷たく「はぁぁ〜」が暖かい理由を精一杯考えてみました。
どの要素が一番大きいかというと、外気温と冷やす(温める)対象になるものの温度によって違ってくるわけです。
冷やす対象が非常に熱い場合、例えばハンダゴテのような温度だったら、熱を運び去る速さ、すなわち熱流量が重要になるでしょう。
冷やす対象と外気温がともに体温に近い、生ぬるい状態のときは断熱膨張の効果しか期待できません。
ただし、冷やす対象が汗ばんだ人間である場合は気化熱の効果のほうが大きいと見込まれます。
外気温が体温よりある程度低くなると、混合による温度低下が大きくなってきます。
対象の温度が極端に低い場合は、「ふぅぅー」の方が温かいなんてこともあり得ます。

人は様々なシチュエーションで無意識に「ふぅぅー」と「はぁぁ〜」を使い分けているわけですが、シチュエーションごとに「ふぅぅー」が冷たい理由は様々なわけです。

今日のネタは頂き物だったわけですが、hirax先生、このぐらいの回答で満足していただけるでしょうか。

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