逆さに文字を書くことについて

-路上観察学2006-


またまた更新をサボってしまいました。気がつけばもう秋。
更新をサボった原因は、「Newスーパーマリオブラザーズ」(ニンテンドーDS版)にハマったせいです。
元来、ぶきっちょな私は縦横スクロールのゲームにはなじまなかったのですが、クリアしていくたびに開けていく新しい世界が美しく、長いことかけてクリアする羽目になりました。
気がつけば左の親指の先が黒くなって皮膚が厚くなっています。ううむ。肉体改造までやってしまった。

さて、毎年このぐらいの季節に路上観察の研究発表をするのが恒例となりましたが、今年は不動産でないものを研究していました。
クルマのドアに、店の名前が書いてある場合がよくあります。


藤原とうふ店の場合は、運転席側にしか文字がなく、しかも「藤原とうふ店」と書いてあるわけですが、クルマによっては運転席側に限り「店ふうと原藤」というふうに、逆さに書いてあるものがあります。


それはクルマが走り去るときに、前から後ろへと目が追うことがあるので、クルマの進行方向を意識してそうしてあるのだろうと思います。
上の写真のように数行にわたる場合は、目の改行の速さが追いつかないので逆効果だろうとは思いますが、これはこれでまあ許しましょう。
もし、クルマの左側(助手席側)に逆さに文字が並べてあったら、これは完全に趣旨を誤解していると思われますから、路上観察学の格好の餌食となりますが、今のところ発見できていません。

ところが、ある日、こんな例を見つけてしまったのです。


それは「銀水」という料理店の配達バンでした。んん?「水銀」?Hg?
あえて指摘するのはかわいそうですが、「水銀」は毒物ですから、クルマのドアに大書するのはやめたほうがいいのではないかと思います。 たとえ右ドアであっても、逆さに文字を書いてはいけない事例があることに私は気付いてしまいました。
そうして「不適当な逆さ文字列」を探す長い旅が始まったのでした。


不具合のうち、よく見られるのは、「英文字を含む場合」「電話番号等のアラビア数字を含む場合」「文字自体がロゴとしてデザインになっている場合」でしょう。
カタカナを逆順に書くのは許容されます。元々日本語は縦書きで右から左に行が進むものです。一行に一文字しかないとすればこうした逆さに書く文字は正しい日本語の書式の一部なのかもしれません。
しかし英文字はそのようなことを許容していないので、目が受け付けません。
英語圏の人が墨で和紙に書く日本の文字を見て「書いたばかりの文字で袖を汚してしまうではないか」と指摘したそうですが、中国四千年、書道の歴史はその不合理に目をつむっていたようです。


次も、「逆さに書くと妙な意味を持ってしまう」事例です。
「しんかい」を逆さに書くのは「いかんし」。
というダジャレなだけです・・・。

そもそも、深海潜水艇は圧倒的に上下への移動が多いものであって、高速で走り去るものではないはずです。目で追う必要のないものに目で追うための配慮がしてある。この辺からちょっと発想が怪しくなってくると思われます。


なにげにクルマで走っていたらおおっと。地上に「地売」の看板。
この地面、たまには高速で走り去ることがある模様です。
移動しない物件に逆さに文字を書くのは明らかに禁じ手だろうと思います。


「店」の看板。
これは路上観察学でいう「ウヤマ」というタイプです。看板の文字が欠落していて何の店かわからない。その欠落しぐあいが面白いのが上物です。
で、この話の流れに「店」がどう関わってくるかというと、「店」の字の位置にご注目下さい。
「店○○○○」という風に、店の字は一番左にあったことがわかります。表に回ればここは「○○石材店」であることがわかりますが、店主は店のこちらの面が右側面であり、店の進行方向がこの写真右側であることをハッキリと意識していた形跡があります。


と、思っていたら、文字まで裏返しの看板まであるし・・・。
こういうのはクルマの前面に「AMBULANCE」とか「TURBO」を逆に書いておいて、バックミラーで見たときに正しく見えることを期待している場合に見られます。意味的には「抜きますよ」「速いですよ」ということですね。
で、このお店、速いんでしょうか?


ここなんかもう「屋」だけ裏返しというのは理解不能です。
上の「クリーニング」は、自分で窓に書いてみて、窓枠にはめなおしてみたら「やっちまったー。」という事情が見えてきそうな(あるいは店の中から見えるようにそうしたか)ので、まあよいのですが、この看板だけは看板屋のミスなら直してもらえばそれで済むはずなので、確固たるポリシーがあってそうしたとしか考えられないのです。

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