メザシの鯉のぼり

-5月の空の鯉のぼり観察-


5月が近づくと、家々の間では元気そうに鯉のぼりがおよぎ始めます。
そして私は、今年もメザシの鯉のぼりを探し続けています。
ここ数年私が探し続けている、そしてまだ見つからない「メザシの鯉のぼり」とは何か。
私の果てしない鯉のぼりクエストの道のりをご紹介しましょう。


鯉のぼりは一般に、家で初めての男子が誕生したら買ってくるわけです。
最初の編成はお父さんを表す黒鯉、お母さんを表す赤鯉、子供を表す青鯉、それにてっぺんの吹流しというのが一般的です。
そして、その後弟が生まれると緑の鯉やオレンジ色の鯉が付け加えられます。
もし、男の子が非常にたくさん生まれたら鯉のぼりはどうなるのか。
それがこの数年私が追い続けているテーマなのです。

こういうのは研究対象外

まず、お断りしておくのは、上の写真のような近所中から集めてきたような鯉のぼりはいくらみごとであっても(私にとっては)研究対象外です。
あくまでも個人の力で成し遂げた偉業でなくてはなりません。

鯉のぼりは、いざ買いに行ってみるとわかりますが、メートル単位でサイズが決まっています。
中には10mという大物もいるわけですが、大きめのセットで真鯉が8mぐらい、緋鯉が7m、青が6mとなります。
このお兄ちゃんに弟が生まれれば、次は5m、その次は4mと、順にサイズが1mずつ小さくなるわけです。
この5匹セット+吹流しぐらいになると冒頭の写真のようにみごとな姿になります。

ところが、たまにそれを越える数の鯉のぼりがおよいでいる竿もあるわけで、そうなると「また男の子だったよ」「もっと大きなポールを買っておけば良かった」「一番下の鯉が小さすぎる」といった呟きが聞こえてきそうな雰囲気が漂い始めます。
8mから始めて鯉のぼりが8匹になれば、一番下の鯉のぼりは(理論上)1mになり、ずらっと並んだ姿はメザシのように整然としていて、壮観で、しかもちょっぴり滑稽な姿になることでしょう。

みごとな6匹の鯉のぼり

実際には鯉が6匹以上泳いでいる鯉のぼりはなかなかお目にかかることが出来ません。
7匹、8匹の鯉のぼりを見つけることが出来るのか、そのとき鯉のぼりは何を物語ってくれるでしょうか。

4+3で7匹の鯉のぼり

やっと見つけた7匹が上の写真です。
普通に4匹の鯉のぼりなのですが、スーパーのレジ横でお菓子付きで売っていそうな極小の鯉のぼりが3匹くっついて元気に泳いでいます。
これはこれでほほえましい光景ですが、わたしはまだまだ飽き足りません。

因美線の車窓から

長年の鯉のぼりクエストは、意外なところから急展開を見せました。
昨年の春に運行された「スローライフ列車」の車窓から、こんなみごとな鯉のぼりを見ることができました。
岡山県では年々しだいに鯉のぼりが少なくなっているのに、鳥取県は鯉のぼりの宝庫だったのです。

私はスーパーカブに乗って、鳥取県へ鯉のぼり探しの旅に出ました。
鳥取県の鯉のぼりには、一緒に子どもの名前を記したのぼりが立っているところが多くあります。
また、鯉の数は奇数を嫌ってか4匹か6匹になっており、7匹、8匹にするよりはいっそポールを2本にして、上の写真のように大量の鯉を泳がせるのが流行のようです。


いまだに8匹の鯉のぼりを写真に収めるには至っていませんが、私はかつてデジカメなど持っていない頃に一度だけ見たことがあります。通りがかりの一瞬だったので8匹だったのかそれ以上だったのかさえ定かではありませんでしたが、それは私の鯉のぼりクエストの出発点でした。
8匹の鯉はどうしてもポールの長さに収まりきらないので、ポールのてっぺんから庭の反対側へ斜めにロープを張り、初夏の風を受けて庭一杯に鯉のぼりが泳いでいました。
そのさわやかさ、見事さと、ちょっぴり滑稽さ。まるで「幸福の黄色いハンカチ」のラストシーンのように、私の心にしみいるひとコマでした。
いつか見たその風景をもうひと目見ようと、私はこれからも鯉のぼりクエストを続けていくことでしょう。


そして2年経ちました。
果てしない旅路の果てについに見つけたような気がします。
整然と下のほうへ小さくなっていく9匹のこいのぼり。
写真では一番上の吹流しがからまってしまってちょっと残念ですが、人家からやや離れた田んぼの真ん中にこの鯉のぼりは泳いでいました。

この鯉のぼりを見つけたときは夕方で、全く風がなかったために、改めて出向いて行ってこの写真を撮りました。
そしてよく観察してみると、一番上から、吹流し、黒、赤、青、黒、赤、…ここで吹流しが再び出てきます。そして小さな黒、赤、青。
この鯉のぼりたちは厳密には3セットの鯉のぼりが同居しているわけです。
そして鯉は8匹でした。

私としては新記録ですが、まだまだ鯉のぼり探しの旅は奥が深いことも悟りました。
(11.05.06追記)

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