通勤怪速への道(その10)

-サイドワインダー再び-


スーパーカブ90「フランケン号」に乗り始めて、いくつか気がついたことがあります。
まず思い知ったのは、純正キャブ・純正エンジンの調子のよさです。
メインジェットを一度#85にしてみて、かなり調子が悪くなったのでまた#82に戻した時、キャブレターセッティングがきちんとできたバイクはここまで気持ちよく走るのかと目が覚めました。
ひょっとして私はスーパーカブ50「サイドワインダー号」のキャブセッティングを一度もベストな状態にせずに1年半も付き合っていたのではないでしょうか。

混合気が薄すぎる状態で走り続けるとエンジンが焼きつくおそれがある、というので、焼きつきを恐れていつもちょっと濃い状態で満足していました。
PB16にもともと付属していたメインジェットが#90だったので、どこまで薄くしたらいいのかちっともわからなかったせいもあります。

こんどは「調子の良いキャブセッティングとはどんな状態か」ということを体が覚えましたから、もう一度サイドワインダー号に取り組めば、50cc限定改造のもう1歩先の世界が開けて見えるかもしれません。
カブ乗りのベテランなら2時間もあればセッティングを出せるものを、1年半かかって出来なかったというのは情けない限りですが、これも勉強です、経験です。

カスタマイズのよく似た2台

さて、サイドワインダー号は今年3月に私の手を離れて元の所有者のところに戻ったわけですが、理由あって今はカブ部部長のところに保管されたままになっています。
それなら是非、50cc限定チューニングのもっと先の世界を見てみたい。この手できちんとチューニングを完成してやりたい。 というわけで再びサイドワインダー号を借り出して来ました。半年ぶりの再会です。

「フランケン号」に乗って気が付いたことのもう一つ、それは大径130mmフロントブレーキに適合してよく効くブレーキシューはないということです。
キタコの「ノンフェードブレーキシュー・プレスカブリア用」は、「Cub90(’99〜’08)フロント用」にしてはちょっとだけ幅と直径が大きすぎ、しかも激しく使った場合フェードしないわけではないのです。
たぶん、私の体感によると、ブレーキシューの効きは
110mm(50カブ)純正 < 130mm(90カブ)純正 < 130mmキタコ << 110mmデイトナ
であり、青くて高くてよく効くデイトナのノンアスベストオーガニックブレーキシューに130mmカブ用の製品は存在しないのです。

青くて高くてよく効くディトナ(50フロント用)
サイドワインダー号のブレーキは、そんなに効いていたのか?デイトナのあの効きは幻ではなかったのか?
サイドワインダー号に乗ってすぐに、それは幻ではなかったことがわかりました。

さて、キャブセッティングの話に戻ります。
サイドワインダー号に付けたPB16キャブには、手放す時最後に#80のメインジェットをつけていました。
本来カブ50のメインジェットは#72(’97以降に#75に変更)です。
カブ70の純正が#78、カブ90の純正が#85(のち#82)とすれば、少々チューニングしていてもカブ50に#80は濃すぎだろうという見当はつきます。

あまり考えずにメインジェットを#75に変更し、そのまま出勤してみました。
200mほど走って国道の流れに乗ろうとしたところで、「あ、こりゃダメだ」と気がつきましたが後の祭りで、トルクがなく、全く坂を登りません。ノッキングはないようですが、アクセルを開けると失火して止まりそうになります。しかもモタモタしていると仕事に遅れます。(急ぐとエンジンを壊します)
回転を上げないようにアクセルを開けないようにだましだましその日の通勤を終えましたが、燃調が薄いということの怖さを思い知りました。

さて、それなら中間の#78です。(持っているなら普通は濃いほうから順に試すものです)
ん?アクセルのツキがいい。中速域のトルクがある。最高回転数は同じぐらい。
再び#80に戻してみます。(これから寒い季節に向かうので、寒いと燃調は薄くなる、薄すぎるとエンジンは焼きつく、なので薄すぎるセッティングでほうっておくことは避けたいのです)
回転の上昇が鈍い。アクセルをガバッと開けるとモーモー言いながら加速する。
やっぱりこの状態(ハイカム、ビッグキャブ、ポート拡大、でも50ccのまま)のメインジェットは#78でいいようです。

こんな調子の良いサイドワインダー号は初めてです。
フランケン号は控えめな改造の実用車で、音がわりとうるさくてブレーキは効かないのですが、サイドワインダー号は静かでシャープに吹けあがって、ブレーキがよく効く、乗っていてワクワクするバイクに仕上がっています。
一万一千回転まで吹き上がるエンジンチューニングというのが私のとりあえずの目標でしたが、これはもちろん頭文字Dの読みすぎです。
1600ccの車で11000回転を実現しようとすればそれなりのチューニングパーツと費用、そしてメンテナンスの手間がかかりますが、逆に50ccのバイクでこれを実現するには、ちょっとした純正パーツと、ホームセンターで売っている工具で実現できるのです。
1600ccの4気筒エンジンなら、1気筒あたりの排気量は400ccになりますが、50ccのエンジンは1気筒あたりの排気量は当然50cc、8分の1です。
実はここにミソがあって、ピストンやバルブの重さも、ストロークの長さもはるかに小さいため、高回転で回るエンジンを作ることははるかに簡単になるわけです。
「一万一千回転までキッチリ回せ。」このセリフを現実のものにするために、私にとってもっとも近道だったのがスーパーカブ50の改造だったのです。

さて、キャブセッティングの出たサイドワインダー号で、カブ部ツーリングに出かけてみました。
天橋立にて

例によって50,70,90混走で峠道や海岸のワインディング、悪路をふんだんに含むコース約480Kmを2日かけて走り切り、カブツーリングを堪能しました。
キャブセッティングの状態としては、エンジンが冷えている間はやや薄い感じがあり加速がいまいちですが、10分ほど走って暖まると本領を発揮して高回転まで回るようになります。パワーバンドは6000回転超あたりからで、4000回転あたりから巡航に耐えるトルクは得られます。キャブの口径がやや大きいためアクセルを急激に開けると失速する場合があります。(このため5.5馬力のスーパーデラックスEDはVCキャブを採用していました。)
11000回転まで回るといってもしょせん50cc、トルクでは70や90に太刀打ちできるレベルではありません。燃費もやっと40km/リットルを超える程度で決して良い方ではありません。
カブ50であえてこのツーリングに参加したのは、そこを何とかというチャレンジ精神、クセがあるもののスムーズな50ccエンジンの味わい(スムーズさではなくそのクセが味わいたかったのです)、カッチリと仕事をするデイトナのブレーキシューのためでした。

さて、その後も50と90を交互に乗っていたら、もうひとつ気になることが出てきました。 90のフロントサスは東京堂の赤い強化サスに交換してあるのですが、ブレーキングのたびにフロントが浮き上がる現象に悩まされ始めました。浮き上がることよりも、ブレーキを放した時にいっきにサスが縮むのが不快で危険です。
東京堂のサスは、始めからこの傾向が強かった感じはしていましたが、だんだん悪化したのか、はたまた初めからこんなものだったのかは今では不明です。
2台のカブを交互に乗るようになってから、50のフロントの挙動があまりにもマトモだったので、ついに東京堂サスのおかしさに目が覚めました。

純正と東京堂ひび割れてます
交換してみて、なるほどです。東京堂の方は手で押しただけでかなり縮むのですが、純正はほとんど縮みません。バネの硬さが2割り増しといううたい文句は何だったのでしょうか。
また、東京堂の方はダンパー効果がほとんど失われてしまっていて、ただのコイルバネがサスペンションとして付いている状態に過ぎませんでしたが、純正に戻したところ、しっとりとした挙動が戻ってきました。
東京堂のサスの評判は、ネット上ではモニター当選者の記事がちらほら目立っただけで特に悪評も見かけませんでしたが、私のところに届いた商品は二本とも同じようにヨレヨレでしたから、たまたま当たりが悪かったという感じではありませんね。値段や外観、ネットの評判に惑わされてはいけないということ、それに、とりあえずは純正を信じろということですね。

サイドワインダー号はこれらのご奉公のお礼にエンジンオイルをG3、磨り減ったリアタイヤM45の代わりにM35(2.50−17)に交換して持ち主の元へ帰っていきます。出会ったときと比べてかなりいい感じに仕上がったものと、今度こそ納得しています。

さて、フロントサスに手を焼いているうちに、こんなものを入手してしまいました。
もうひと組のMGS-T抜けてます

2本中1本のダンパーが抜けているということで、非常に安価に入手することが出来ました。
入手して早速手で押して確認しましたが、右の写真の1本は確かに抜けていました。

MGS−Tシリーズは新品が1本で16,100円もする高級品です。傷んでいてもメーカーでオーバーホールしてくれます。オーバーホール代金は1本9,800円ですが。それって…次を買えよ!と言うに等しい価格差だと思います。

どうやらこれは私にとって「銀のエンゼル」になってしまったようです。もう1本抜けていないやつを手に入れるためにクビを長くして次のチャンスを待てということですね。あうぅ。

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