通勤怪速への道(その11)
-ブレーキ効き比べ-
このお話は2001年式以降(カラーラベル末尾の数字で言うと1,2,5,7)のスーパーカブ90のフロントブレーキ(直径130mm)に限定したお話です。ブレーキシューの型番とか出てきますが違う排気量・車種のカブにはあてはまりませんのでご注意ください。110mmのフロントブレーキにはデイトナのブレーキシューが断然お勧めです。
さて、どうしてもキタコノンフェードブレーキシューの効きに納得がいかないので、C90フランケン号のために、今度はベスラのブレーキシューを買ってきました。
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左から、キタコ、ベスラ、純正 |
純正の新品もキッチリ買っとるがなというのはさておいて、こうして3つ並べて見るとキタコのシューは幅、長さともひと回り大きいことがわかります。実は厚みもやや多いようです。
ベスラと純正はサイズは全く同じですが、ベスラのシューにはスプリングが付属していません。(スプリングは余っているのでちっとも困りませんが)
シューの質感は、キタコがコルクのようなちょっと柔らかそうな材質を固めた感じ、ベスラは緑がかっていて石のような質感、純正は鉄のようなメタリックな色で表面はザラザラしています。
早速ベスラのブレーキシューに付け替えてみました。
とりあえずの効きはキタコより弱い感じですが、ブレーキを力いっぱい握った時はゴリゴリという摩擦音とともにしっかりとした制動感が得られます。
べスラのブレーキシューに当たりがついた頃…通常使用時の制動力に疑問を持った私は、今度はNTBのブレーキシューに手を出してしまいました。
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そして、NTB |
NTBのブレーキシューが届くのを待つ間、上の写真のとおり確保してあった純正に付け替えてみました。
純正を付けてみて一番感じたのは、「絶対ロックさせないぞ」という職人魂のような感覚でした。社外品のブレーキシューには決してない感覚はむしろ新鮮でした。
インプレッションは後半に譲りますが、長いこと使っていたらそのありがたみがわかることでしょう。
そしてNTBです。正直いって私はNTBのブレーキシューが一番気に入りました。ただ後述しますがささやかな1点で純正やキタコに劣る部分を感じたので、これまた終着点にはなりませんでした。
もう何がなんだかわけわかめなほどブレーキシューを使い倒して、確認できたことはやはり「デイトナの青いブレーキシューほど効くものはない。」ということだけでした。デイトナのブレーキシューに直径130mmの適合はありません。110mmのフロントブレーキを130mmのドラムに換装してより強力なブレーキングを期待される方はありますが、私の経験から言って決してペイしないプロジェクトと思われます。
ただ、これほどブレーキのことを気にして付き合っていると見えてくるものはあるもので、あくまでも私の経験の範囲ですが、これら4種のブレーキシューについて論評してみたいと思います。
ブレーキについて論評するといっても、制動力と鳴きぐらいしか着眼点はないのではないかと思われるでしょう。私も実際そう思っていましたが、いざ比較してみるとその制動力というのが場面によってまちまちで、奥の深いものであることに気がつきました。
私が着眼したのは次の4点、いずれも制動力には違いありませんが、場面ごとにブレーキシューはそれぞれに違った顔を見せます。
- その日の使い始め、あるいはまだ温まっていない時の効き方
私がブレーキ遍歴を始めるきっかけになったのは、キタコのブレーキシューが毎朝ロックして危険で使い物にならなかったことから始まるのですが、他の3種はそういった傾向はありません。
逆に一般的なブレーキシューは、ある程度温まってから本来の性能を発揮するようになるもののようです。
純正は冷間時の性能低下は少ないようですが、べスラとNTBは気温が氷点下の日の使い始めには明らかに制動力が劣る時があり(私の走り方で5キロ走行ぐらい)ヒヤッとする場面がありました。
- ある程度温まった時の効き方
通常使用する時はこのゾーンの効き方が一番影響を及ぼすと思われますが、いずれも同等の効き具合だろうと思われます。使い手によってコントロールされる部分なので特に過不足は感じられません。
- ブレーキレバーを力いっぱい握りこんだ時の効き方
この条件での効きがいわゆる「制動力」として議論の対象になるのでしょう。
停止するまでの距離というだけでなく、各社独特のフィーリングを持っており、ブレーキ効き比べのもっとも面白いポイントです。
- 酷使した時の熱ダレ
NTBだけはいまだワインディング連続30分とかの過酷な条件を課したことがないので未経験ですが、各社とも酷使した時は熱ダレします。
低温で性能が悪いシューはその反面熱ダレにいくらか強い可能性はあります。
さて、ポイントを整理したところで今度は各社のブレーキシューのインプレッションを順番に書いてみましょうか。
- 純正(06430-GBJ-K10)
決してロックさせないぞという、きわめておとなしい効き方、しかし不思議な安心感を伴っています。
ブレーキレバーを握りこんだ時でもフィーリングは一定で、ある点から制動力が強くなる感じはしません。しかし最終的な停止距離はそんなに長くならないので、効きが悪いというわけでもなさそうです。
ガツンとは効かないということを念頭においてスピードを控えめに、車間距離を多めにとることを心がけていれば、並びいる他社製より確実に優れた最高のパートナーになれるブレーキです。
というのは、場面ごとの性能のブレがなく、気温氷点下の一発目だって、少々峠を攻めたって、強くかけても普通に握っても、安定して一定の効きを示すのはさすが純正だからだと思うのです。
ベタ褒めは決して皮肉ではなく、あまたの社外品を渡り歩いた後に出会った、頑固なまでの「ホンダ純正」の味に正直感動したのです。
60キロ以上をまず使わない人、寒冷地の人にはこれで決まりといっていいでしょう。
パーツリストに(ASK)とありますが、価格応談の意ではなくて、たぶんインド製(www.askbrake.com)という予感がします。
- KITACOノンフェードブレーキシュー(SH-90N)
純正及び他社の製品より直径が1mm大きいようです。131mmのドラムにキツキツです。
そのため私は2組買って激しい鳴き、朝一番のロック現象(梅雨時なので余計そうだったのかも)に悩まされました。
ある程度削ったり面取りをしてから使用すれば、純正よりいくらかは効くのではないかと思われますが、あれこれ加工したり性能のムラを出すことを思えばいっそべスラかNTBにしてよいのではないかと思われます。
- べスラ(VB-160)
純正、キタコの次に出会ったブレーキシューがこれです。
通常の状態ではいくらか純正より制動力が上と思われます。力いっぱいブレーキレバーを握った時には「ゴリゴリ」という感触があって純正よりもう1段の効きを示します。この「ゴリゴリ」を味わうのは私にとって楽しい感覚ですが握力が必要で手が疲れます。
純正の「いつになったら止まるんだろ」みたいなことはありませんが、ずっと上で「通常使用時の制動力に疑問を持った」と書いたのは、気温が氷点下ぐらいの頃の朝一番の効きがいまいちだったためです。
特殊な条件下で、予想のつくシチュエーションでの効きの低下なのですが、わりと短距離の通勤のため、毎朝通勤経路の半分を過ぎるまで効きが悪く、ヒヤリとする場面もありました。
寒冷地でない環境、ツーリングや長距離通勤主体の人にはこのべスラは次のNTBとともに選択肢の一つでしょう。逆に寒冷地で早朝に使う人は純正を選んだほうがよいと思われます。
ちなみにべスラは国産です。ベスト・ストップ・ライニングの略だそうです。
べスラのホームページ
レース活動も手がけており、メーカーとしてブレーキの性能にはひときわ気を配っていることがうかがえます。
- NTB(BS-K20)
ブレーキ遍歴の末、最後に出会ったのがこのブレーキシューです。
見かけは青っぽい色をしていてべスラのブレーキシューに似ていますが、中に銅の色をしたキラキラ光るものが含まれています。
特性もひと言で言えばべスラと似ています。
通常使用では純正よりやや効き、強くブレーキレバーを握った時には「ぎゅうー」という感覚とともにもう一段の効きを示します。
極寒時に効きが悪いというところもべスラと同じです。
べスラとの違いは力いっぱい効かせたときの感触の違いで、ゴムでも押し付けたようなグリグリした感触は純正ともべスラとも違ったものです。このグリグリ感は微妙な感触ですが、ああ、がんばって効いているんだなあという実感があってそれなりに心地よいものです。
NTBも国産で丸中洋行という会社が作っています。ブランド名がNipponTanshaBodyですから、NTBはその頭文字です。
NTBのホームページ
私の買ったブレーキシューはNAO(ノンアスベストオーガニック)素材で、ホームページ中のグラフによるとシューの温度が200℃ぐらいになって初めて本来の性能を発揮するようです。これはいずれの素材でも同じ傾向だとは思いますが、使用した感じではべスラとNTBが特にそういう傾向が強く、スポーツ走行やもっと大排気量のバイクを意識した素材なのだろうと思います。
ブレーキシューを選ぶ時、制動力を重視する人もあれば経済性を取る人もあるでしょう。上の効き比べの結果からすれば、クセのない安定した効き方というのも価値があるようです。(安定して止まらない純正は値段がわりと高い)
私の場合は寒い朝の通勤、そしてたまに峠で弾けてみる。そういう使い方をしています。
NTBとべスラは冬の出勤時、職場までの半分以上を過ぎないとブレーキシューが冷えていて効きが悪いので、よく効いている時の感覚で走っているとヒヤッとすることがあります。
キタコだと朝一番に異常に効く特性があるので、最初の2−3発は確かによく効きます。しかし後の経過は他のブレーキシューと一緒です。
結局、4種類(5組)のブレーキシューを買ってしまった私としては暖かい頃(4〜9月)はNTB(又はべスラ)を使っていて、寒くなると純正にするというのがいいのではないかと思いました。
ツーリング主体とか、長距離の通勤、温暖な地域の人ならNTB、べスラを使い続けてもいいと思います。
一方で寒冷地で短距離通勤とか新聞配達など、わりと過酷な仕事に使っていて遊びの要素があまりない人は純正の安心感を試されるのもよい(ていうかもともと付いているのですが)のではないでしょうか。
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走ると花びらが左右に散って道が出来ます |
余談になりますが、私の好きなミシュランM35が廃番になったそうです。
M45は供給が継続されますが、パターンがカブらしくないので実はあまり好みではありません。
2ちゃんねる情報では、M45の方が絶対的なグリップ力はあるが、がんばった後急にグリップを失うことがあるのに対して、M35はパターンそのものに踏ん張る力があり、限界はやや低いがすべる前にわかりやすい。また、溝が多いのでウエット路面に強い。と、そういう評判でした。
そういうタイヤこそ、カブのために必要だったと思うのですが、M35を4本買ったところでその選択肢がなくなったのは本当に残念です。
M35は廃番ではなく、マイナーチェンジして復活しました。オフロードっぽいブロックパターンのM62も発売されました。
ミシュランの特徴はサイドウォールが硬くてタイヤ交換のときになかなかリムにはまってくれないところですが、いざパンクした場合に急にペッタンコにならず、しばらく持ちこたえてくれるので欠点とばかりは言えないようです。
その硬いミシュランとまたお付き合いさせていただきましょうか。(10.09.17追記)
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