20世紀の遺品

-タイムカンを食べる-


カップヌードルを食べたら、フタの裏側にこんなことが書いてありました。

お詫びとお願い
引き続き
タイムカンの全品回収にご協力下さい。

タイムカンなら、職場の事務机の下に非常食にと思って保管してあります。って、仕事をしている間にどんな非常事態が起こると思っているのでしょう。
これを、梱包して。
送りました。
それではいきなり話が終わってしまいますが、もちろん食べる用もとってあります。
2004年からタイムカンの回収は始まっていますが、少々おなかをこわそうとも、10年の歳月を待ち続けてやっとこの時を迎えたのです。
なお、回収にあたっては缶ごと送ってしまわなくても、開封して中のカップヌードルだけを送ることが認められています。
しかしそこはそれ、カップヌードルの熱烈なファンとしてケチなことはいたしません。
10年の歳月を経て、カップヌードルがどう変わったかを検証するために、新しいカップヌードルも一緒に調理してみることにします。
まず、缶をあけると中にカードが1枚入っていました。
カードには数種類あるようですが私の場合、1966年のカードでした。
新旧のカップヌードルを並べてみると、ほとんどソックリに見えますが、新しいカップヌードルが紙製容器になっているのに対して、昔のカップヌードルは発泡スチロールの容器でした。当時はフタ止めシールもついていませんでした。
紙製容器に慣れてしまっていましたが、この底の造形は大変懐かしい感じがします。

なお、先にタイムカンを食べた人のレポートでは、缶を開けた時点でカップの外側に油が染み出して黄色くなっている事例が多いようです。私の場合は1箇所だけ、写真ではなかなか写らないぐらいの変色が認められました。
上フタをめくってみると、懐かしや、コロ・チャーではない謎の肉が入っています。エビや玉子はいくらか色あせています。
写真ではよく分かりませんが、麺の入っている高さはかなり違います。内容量77g(めん65g)は変わっていません。
(注:作っている間に上の写真と左右が入れ替わっています。左がタイムカン)
エビはかなりいい色に戻りましたが、玉子はややさえない色でした。
さて味は。

昔のカップヌードルの味です!
古くなってこうなったというのではなく、当時のカップヌードルは確かにこの味だったのです。
この10年の間に味の微調整がなされたのでしょう、カロリーと脂質がやや減ってビタミンやカルシウムは増えています。ナトリウムの量は変わっていないので塩分量は同等のようです。
タイムカンの味は現代のカップヌードルより胡椒が効いた感じでややとがった味です。現代のカップヌードルは(タイムカンを食べる間待たせたので伸びていたせいではないと思いますが)やさしい味で麺・スープ・具の味がより調和しています。

しかし、私が一緒に青春を駆け抜けたのは、まぎれもなくタイムカンのこの味だったのです。

さて、当然タイムカンについてレポートされている先人がいます。

タイムカン10カ年計画(ねこプラ)
このWeb主は2004年に開封した時に異常を感じて日清に送付されています。この時のお詫びの品はカップヌードル20個入り1箱でした。タイミング的にはこの方の回収がタイムカン回収騒ぎの引き金になったと考えられなくもありません。

2000→2010 【十年缶保存計画】カップヌードルタイムカン開缶フォトレポート(FUKISOKU DAYS)
この方は開けてみたけどくさくて食べられなかったということです。

カップヌードル・タイムカン回収とのことで開封してみた(ARCANA)
あっさり日清に送ってしまったという方もいます。

10年の歳月を経てTimeCan(タイムカン)を食べてみる。(AWA FAVORITE)
実際に食べてみたが、現行のほうがおいしかったとのことです。

タイムカンを食べてみた(Dracula-OJISAN's Weblog)
この方は実際に食べてみて、そのせいかどうか腹を下してしまったそうです。

タイムカン回収騒ぎは、缶の上蓋部の巻き締め不良が原因とされています。
私の見立てでは、大切なのは保管環境で高温にさらされたりしていないというところではないかと思います。
温度の変化があれば、缶の内外に気圧差が生じ、巻き締め部から空気が侵入しようとします。油の酸化も高温であれば進みやすいと思われます。

私の場合、30℃をまず超えることのない環境で蓋を上にして立てたままにしており、横倒しにしたことさえありません。
無事に食べることが出来た要因としては、幸運なロットにあたったことはもちろんですが、保管の状態も大いにかかわっている可能性を感じます。

日清さんとしては、変わらない味の象徴としてカップヌードルの缶詰を企画されたのでしょうが、この10年で変わったものの中にはカップヌードル自身(コロー・チャーや紙カップ)も含まれていたようです。
その後、日清食品ホールディングスからお詫びの金券(定額小為替300円分、図書券500円分)が届きました。
10年前の200円が、こうして800円になったなら、お客としては十分な補償だと言えるでしょう。

しかし、日清カップヌードルのファンとして、安藤百福を尊敬してやまない信者として言わせてもらえば、タイムカン回収騒ぎによってわれわれの失ったのは200円ではなく、カップヌードルに架ける夢であり、21世紀に手渡す記念碑だったのです。
日清さんとしては、これに懲りずに、もう一度、10年、20年と保管できるタイムカンの製造にチャレンジしていただきたいと願っています。
さもなくば…私の手元になお残っているタイムカンを、さらに10年保管して食べることに、私は挑戦せざるを得ませんね。

18年目ですが、車庫に保管してあったタイム缶を食してみました。
今回は次男坊の要望もあって、2人による試食です
左が2018年の新品、右がタイム缶です。
カップの外側に緑がかった黄ばみがそれとわかるほどに染み出しています。
具材の色褪せも進んでいます。
だから何だというのだ、我々は臆せず突き進みます。
出来上がりもタイム缶の方がはっきり色褪せています。
味は…タイム缶の方がやや古びた味がしますが、まあこんなものかなぁという感想です。
スパイシーさやコクがいくぶん失われて、ちょっとホコリっぽい味わいですが、悪いにおいとかはなく、新品と食べ比べても18年という年月を感じさせる違和感はありませんでした。
保管の条件(&食べる人の感じ方)にもよるのでしょうが、18年たってもおいしさは失われていませんでした。
(18.04.11追記)
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