流行るお店の風水学

-私的不動産鑑定学-


昭和50年代の中盤だったと記憶していますが、この場所(現在は100均ショップ「Seria」が建っています)に「スーパーエース」というお店が出来ました。


イーストランドの開店やマルシン(現在のアイム天満屋)の大規模店舗なども出現した時期で、時代の流れに沿ったお店だと思っていたのですが、「スーパーエース」はあまり長くもたずに勢いを失って閉店してしまいました。


今度の写真はパチンコ店の廃墟ですが、ここは3度経営者と店の名前が替わって開店と閉店を繰り返しましたが、ついに廃墟となってしまって今に至っています。

お店には、小さな店から初めてトントン拍子に大きくなる店もあれば、そこそこの店舗を構えても次第に勢いを失って姿を消してしまうお店もあります。
店の栄枯を分けるものは第一には経営者の腕前、そして時代の流れ、さらにはたぶん資本の強弱でしょうけれども、私が観察するに、そのお店の立地条件も大きな要素であるように思います。
私が見るにそれは実に単純な話、道路の右側にあるか、左側にあるかという違いです。
道路の左側にあるお店は車でスッと入れるのに対して、道路の右側にあるお店は対向車が途切れるのを待つ必要があります。そのちょっとした差が積み重なって大きな違いが生じます。
正しい側に立っているお店はぐんぐん成長し、間違った側に立っているお店は苦戦してついには廃墟になってしまうのです。
今回は私が見聞したお店の風水学とでもいうべきものを書いてみましょう。

お店の3分類
まず、土地の風水を語る前に、お店には大きく分けて3種類あることを頭に入れていただきたいと思います。
私の勝手な分類と命名によると、それは「帰宅型店舗」「お出かけ型店舗」「目的型店舗」の3種になります。

帰宅型店舗
スーパーマーケットを代表とする食料品や日用品の店舗は、通勤の帰りにちょっと寄ることが中心となる店舗です。
日常生活と最も密接に関連のある商品、毎日何かしら用があるお店というのがこの部類です。
この種のお店は午前中は閑散としているのに夕方の6時頃にはむっちゃ混んでいます。
世の中そんな客ばかりではないと思われるでしょうが、クルマ社会と共働きというライフスタイルの中で、それに沿った戦略を考える必要がある種類のお店です。

お客の流れを読むと、スーパーマーケットを建てるには、街の中心地(日中仕事に出る人が集まるところ)から帰宅する道筋の左側に立地させるのがよいことがわかります。
冒頭に紹介した「スーパーエース」は、まさにその風水に逆らった場所に店を建ててしまったのです。

津山で昭和50年代に隆盛を迎えたスーパーマーケットには「マルイ」さんと「マルシン」さんがありますが、マルイさんは初めからこの風水に気がつかれていたようです。ほぼ全ての店舗が帰宅の流れに沿って左側に立地しています。

マルイ ウエストランド店マルイ 志戸部店

イーストランド、ウエストランドときちんと帰宅側に店舗を出店し、さらには志戸部店に至っては道路が開通する前から将来帰宅側になる場所に店を構えて、幹線道路の開通を待つという作戦を成功させました。

一方でマルシンさんはどうだったかというと、五分五分よりやや悪い率でしか風水に従っていませんでした。


結果は津山の住民の皆さんがご存知のとおりですが、こうなると風水などという曖昧なものではなく、かなり厳格な法則のように思われます。
ただし、その頃(昭和50年代後半)に車社会の進展を予測し得たかどうか、将来どこが大通りになるか都市計画にまで目を配ることができたかというと、後講釈は可能であってもそれに気付くことは難しいと思います。
マルイさんが大きくなってチェーンストアの雄になり得たのは、時代の先を読み客の流れをつかむ慧眼あってのことでしょう。

お出かけ型店舗
お出かけ型店舗とは上記の帰宅型店舗の逆で、郊外の住民が街へ買い物にお出かけする、週に一度のやや非日常な買い物の目的となる店舗です。
私の見立てではホームセンター、ちょっと豪華な飲食店、本屋、家電店、スーツの○○やま、などがこれにあたります。(飲食店の中には帰宅型に属するものもあると思います)
帰宅型店舗とは捕まえるべき客の流れが真逆になるというわけです。

はるやま、ナンバ、ハードオフ、マクドナルド、ガスト…本陣、BALLYS、茜どき、モスバーガー、備山…

ナンバさんは、マルイさんと同時期にはこの風水に気付かれていたと思われます。 また、現在の町並みがほぼこの風水に従っているということは、私の発見は今さら珍しいことではなく、大規模店舗を構える人たちには既に常識と化していると考えられます。
ところで、「帰宅型」か「お出かけ型」かで、最後に私が分類しかねているのは、パチンコ店です。

パチンコ店は帰宅型かお出かけ型かこの場所はどちらが帰宅向きでどちらがお出かけ向きか

この場所は向かい合う2軒がしのぎを削る激戦地ですが、ここを通るたびにパチンコ店は帰宅型店舗なのかお出かけ型店舗なのか、いつも考えてしまうのです。

目的型店舗
お店の中には、上記の風水を超越して客の流れには無頓着でよい種類のお店もあります。
この種のお店と言えばまず病院、とびきりおいしいケーキや和菓子の店、地域に1軒しかない特殊なモノを売っているお店、自動車ディーラー、などがこれにあたります。実は大規模ショッピングセンターなどもこれでしょう。
お客ははっきりとした目的があってそのお店に向かいますから、大通りに面していなくてもかまいませんし、むしろ少し引っ込んで立地していて地価(借地料や税金)が安い方がいいぐらいのこともあります。

目的型の代表

自動車ディーラーは道路の左右にこだわらず互いに寄り集まって立地していますが、これは住宅地や高度な商業地を避けて建てなければならないという都市計画上の要請で、お互いしのぎを削るために集まっているわけではありません。
クルマ屋さんは、性質的にはお出かけ型に属するような気もしますが、一度クルマを買ってしまえばそのお店に長期間お世話になるのと、欲しい車種を売っているお店は決まっていますからから道路の左右には無関係のようです。


カーブ、坂道、中央分離帯
上記のお話は、私の観察によるもので、分類や分析も私の思い付きです。
昭和50年代から平成の始めに顕著だったモータリゼーションの進展とともに起こった事象で、今では多くの経営者が経験的に知っていることと思います。
現在では逆の現象、脱クルマ社会とか、コンパクトシティという流れもありますので、「時代の先が読める者がチャンスをつかむ」という教訓として読んでいただければと思います。その先のことは私も予言できません。

お店の立地についてその道の専門家と雑談する機会がありましたので、その中で拾ったお店の立地について付け加えてみます。

まず、カーブの内側と外側ではお店の立地条件として大きな差があります。

カーブの外側、長年はやっているお店があります同じカーブの内側、空き地と空き店舗になっています

カーブの外側はかなり遠くから看板が見えていて、集客効果が高いのでお店の立地には有利です。
一方でカーブの内側は看板が直前まで見えず、土地が三角形になりがちなことなどの不利もあります。
このため、カーブの内側には目的型店舗しか向かないと言えるでしょう。
話の始めに紹介したパチンコ店の廃墟は、長い直線の後のちょっとしたカーブの続きにあります。

こんな立派な看板があっても帰宅向きには集客効果がない

先にパチンコ店は帰宅型かお出かけ型かという疑問を呈しましたが、遠くから看板がキラキラ見えていることでつい寄ってしまうお客も多いと思われる中、こんな風に帰宅向きの客を全く逃してしまってはお店の存亡にも関わるということでしょう。
この場所にはホームセンターやバイクショップなどお出かけ型の店舗が向いているのですが、最初に立派なパチンコ店舗が建ってしまったばかりにその呪縛にはまってしまったものでしょう。

次は坂道です。
二宮の坂道

坂道はクルマが徐々に加速して走り去ってしまい、坂の途中でもたもたしていると事故を誘発します。さらに段差が生じるため間口全体を進入路に使えないという不便もあって、一般にお店には不向きです。
細かく言えば上り坂にはあまり悪影響はなく、下り坂の始まり近くもあまり悪くないのですが、下り坂の途中から終わりにかけて、そしてその直後は車の速度が上がって入りにくい土地になります。

従って、下り坂の途中から下はカーブの内側と同様、目的型店舗にしか向いていないと言えます。
上の写真の坂道では、一番上にラーメン店があって、中段にハウスメーカー、坂が終わったところで住宅展示場、100均ショップ、ガソリンスタンドとなっています。100均ショップとガソリンスタンドは目的型ではありませんからいささかの不利を感じますが、ハウスメーカーと住宅展示場は目的型なので下り坂の影響をあまり受けないと思われます。

では中央分離帯はどうでしょうか。
中央分離帯は大通りにあります。大通りは交通量も多く、集客力も大きい通りなわけですが、中央分離帯の存在は道路の右折を困難にするため、多少の不便の方に働きます。
そして結果的には今回のテーマの「帰宅型」「お出かけ型」の違いを一層際立たせる効果があります。
立派な通りにお店を出すというのは商売繁盛の第一歩で、誇らしくもありますが、誤って反対側に店を出してしまったらその不利は倍増しますので注意を要します。
またイーストランドとナンバ河辺店では反対車線のお客を上手にキャッチするよう、敷地をさいてまで進入路部分を工夫されています。

このホームページにお越しの方で、これから自分のお店を持とうとか、自分の土地を活用したいとか、そういう方はそう多くはないと思いますが、自分のお店、そして土地の特性を知ってその風水に従うということは、必ず商売繁盛につながります。
あのお店はなぜ潰れたのか、なぜ長期間空き地だったのか、何度立て直しても潰れて廃墟になってしまうのはなぜなのか。そんな土地があったとしても、それは土地が呪われているのではなく、ちょっとした科学的法則に従っているだけなのです。

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