刻み煙草とジョニ黒と
-船乗りクプクプに教えてやりたい技-
たばこ税も高くなり、小遣いを圧迫されるようになりました。
そんな時、JTが用意してくれた粋な煙草が、刻み煙草の「小粋」です。
開封してみると、紙巻煙草に詰まっている煙草の葉とは全く違って、棕櫚をさらに細くしたような細かい繊維で出来ていて、ふわっとしています。
家に帰っての一服は、煙管で刻み煙草、非常に香りがよく、仕事の合間の紙巻の一服とは違った心休まるひと時を過ごせます。
副作用としてニコチン中毒は多少悪化します。
たばこ税回避のために刻み煙草を所望する人は多いらしく、商店街の煙草屋さんで売れ行きを尋ねると、「よく売れとるよ。爺やんが買うんかと思ようたら、意外と若い人が買うんじゃな。」と驚かれていました。そうでしょうそうでしょう。私は若くはないけど。
さて、煙管をふかしていたら3日に1度ほど雁首がヤニで詰まってメンテナンスが必要になります。
私の刻み煙草とのつきあいは実は20年近くになるのですが、この煙管掃除というのは私にとって長年の課題でした。
毎日煙管をふかしていると、段々煙の通り道が細くなっていき、ついには埋まってしまって通らなくなります。
詰まっているのはヤニ(煙草くさいタール)に刻み煙草の繊維が絡まったものですから、水で流しても流れるものでなく、ブラシが使えるような大きな穴でもなく、爪楊枝の頭がやっと届くぐらいの穴が、一番詰まりやすいところで直角につながっているのです。
恒例の煙管掃除をしていて、最近ふと思いつきました。
ヤニはタールであるから、水で洗い流すのは大変だ。
しかし、親油性の溶剤なら簡単に溶けるだろう。
台所の戸棚の中に、エチルアルコール約40%の経口摂取可能な水溶液があるじゃないか。
そこで、私は戸棚から、その水溶液を持ち出して、煙管の掃除に使うことにしました。
現在、自宅の戸棚にはその水溶液とやらが2種類あって、その一つは英国産のJOHNNIE WALKER BLACK LABEL、いわゆる「ジョニ黒」といわれる銘柄です。
もう1種類は国産、キリンシーグラムのROBERT BROWNです。
このロバートブラウンは、独特の香りが大好きなので方々の酒屋を探し回っては求めていたのですが、近年どこの酒屋にもさっぱり置いていません。
仕方がないので思い切って楽天の通販で取り寄せて、何年ぶりかにその懐かしい香りに出会えたところです。
一方でジョニ黒は値段はそれなりではありますが近所のスーパーでもコンビニでも入手可能なので、私にとってロバートブラウンほどの希少性はありません。
そんなわけで、私は3日に1度ほど、煙管の雁首を掃除するのにジョニ黒を使っています。
決してジョニ黒を軽んじているわけではありませんが、ロバートブラウンがお取り寄せでしか入手できないので現在たまたまそうなっているだけです。
煙管から雁首を取り外し、吸い口寄りの方からウイスキー(もちろんジョニ黒でなくても、サントリーレッドでもトップバリュウイスキーでも構いません)を流し込みます。そして爪楊枝の頭でヤニをグッチョグッチョとこね回して押し込んでいくと、火皿の方へヤニと刻み煙草の混合物がモリモリと押し出されてきますから、爪楊枝の先を使って火皿からその混合物を取って洗い流す。そういう工程です。
北杜夫の「船乗りクプクプの冒険」に、クプクプが船長のパイプを掃除するために大変な苦労をする記述が出てくるのですが、私がこの技を思いつくまで実際かなりな苦労をしていました。しかし、この技を使ってヤニ掃除をすると、ヤニはアルコールに溶けて流れ去るので、いとも簡単に掃除を終えることが出来るようになりました。
まあ、クプクプがパイプ掃除にウイスキーを使ったら、それはそれで船長に殴られていそうな気がしますが。
今日のお題は(私にとって)
たばこ税が高いから刻み煙草を煙管でふかしている。
ではなく、
雁首のヤニ掃除にはウイスキーを使うのが効果的。
という話でもなく、
ロバートブラウンはなぜ入手困難なのか。
というお話でした。
…この点、私にとっては謎のままです。
考へれば、本当に欲しと思ふことあるやうで無し。煙管をみがく。 石川啄木
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