134度線を追え!

-津山の中心線-


津山市街地の中央を縦に貫く「鶴山通り」に程近いあたりを、東経134度の経線が通っています。
国土地理院の2万5千分の1や5万分の1の地形図を買おうと思ったら津山市街地が「津山東部」と「津山西部」に分かれてしまっているのはそのせいです。

お隣の東経135度の経線は、世界標準時のグリニッジからちょうど9時間分の時差となる、日本を代表する経線ですが、我らが東経134度も、もう少し人に知られてもいいのではないかと思っていました。
ずっとそんなことを思っていたら最近は、たいていの人のポケットにGPS機能付きの携帯が入っています。これを使えば、東経134度線上にいるということが、誰でも確かめられるというわけです。
そういうわけで、今日は携帯電話とデジカメと、プラスチック杭を持って134度線を追う旅に出てみました。

まずは一宮小学校。
ここの敷地のどこかを134度線が通っているわけです。
実際に緯度経度を測定してみたところ、測定値の下3桁はあまり当てにならず、いろいろと立ち位置を変えてみても、移動量に見合った測定値は出ません。どうも前回の測定値に引きずられて移動量を少なめに見積もっているような気がします。
時計台の近辺に134度線がある測定値。秒の小数点以下はあてにならない。
次は鶴山中学校です。
おおむね正門のあたりに134度線が通っていますが、許可なく侵入するわけにも行かないので、グラウンドの南側で134度線を探しました。

正門と校舎の間に134度線が通るらしい思い切り自分撮りなのでモザイク
津山高校もグラウンドを134度線が横切っています。
これらの3つの学校が134度線上に一直線に並んでいるわけです。
鶴山通りもほぼ南北に一直線ですが、134度線は鶴山通りからおおむね300m弱離れた場所を走っています。
鶴山通りは多少曲がっているので270m〜320mというところです。
やや古い国土地理院の2万5千分の1地図では、東経134度線は鶴山通りから数十mしか離れていないところに引かれていますが、これは日本の測地系が10年あまり前(2002年4月)に旧日本測地系から世界測地系(日本測地系2000)に切り替えられた影響で、この日を境に地理学的な緯線や経線の位置が南西方向に450mほど移動したためです。
(明石の天文台がある日本標準子午線は天文観測によって決められているので、この変更によって移動はしていないとのことです。)

世界測地系への切り替えは、GPSの普及などにより、一般市民のポケットの携帯や車のカーナビに、わりと正確な緯度経度を測定できてしまう機器が普及して来たため、明治以来使っていた旧日本測地系とのつじつまが合わなくなってしまったことによるのでしょう。
この記事のお話は、世界測地系切り替え後のお話ですから、ここで紹介する場所は10年ほど前から134度線上になったということです。

学校ばかりを目印に選んできましたが、学校は面積がある程度大きな施設なので、134度線が通ってくれる確率が高いということです。
次に訪れたアルネ津山は、134度線が通ってそうな大きな施設ですが、134度線は建物の西側にわずかに逸れていて、南西角の三叉路あたりが東経134度になります。

次の施設は、津山駅の扇形機関車庫、その中心にある転車台。転車台が納まっている円形のピットの中を134度線が通っています。
南北を向いた転車台のレール転車台中心より数m東に134度線があるらしい
今年はナルト列車が走っています
さて、こうして134度線を追ってきたら、北緯が35度ちょうどの場所もそう遠くないところにあることにお気づきでしょうか。
この旅にプラスチック杭を持参したのは、「東経134度、北緯35度」ちょうどの場所を尋ね当てて、そこに到達記念の目印を設置したいという思いからでした。
地図で調べると到達不可能な地形ではないようです。
十字マークが本日の到達目標地点(東経134度、北緯35度
GoogleMapで調べると、この場所には道が通っていますが、実際には廃道になっていて、作州やまなみ街道の一番近いところから無理やり徒歩で到達する方が楽です。
道沿いのフェンスの脇をかいくぐり、時々携帯のGPSで緯度経度を確かめながらちょっと斜面をよじ登ると、それらしい場所にたどり着きました。
ここまでの道は廃道東西のこの道のわずかに北が北緯35度らしい
案の定GoogleMapに描かれている道は笹藪になっていて、この道を通ってここまで到達するのは無理のようです。
体力がある人には可能かも知れませんがマムシが出るかもしれません。
この廃道はちょうど北緯35度あたりで直角に曲がっていて、曲がった先は笹が侵入しておらず、かろうじて道の姿を保っています。
この場所でだいぶ手間をかけて、正確な「東経134度、北緯35度」の位置を割り出そうとしましたが、数十メートル四方をうろついても、なかなか正確なところはわかりません。経度1秒はこのあたりでは約25mに相当しますから、結局最後の1秒を携帯電話のGPS頼りに突き詰めることはできませんでした。
最終的な測定値、だいたいこのへん。杭に「134°E 35°N」と彫りこみました。
最終的に付近のそれっぽい所に持参した杭を打ち込んで、本日の冒険を終了することにしましたが、よくよく調べたら正しい134度線より10mばかり東に外れたところに杭を打ってしまったような気がします。
他人の土地に意味不明な杭を打ち込むのは、多少脱法的な行為と思われますが、その場所は特別な場所なのです。
杭の場所が正確ならば、その場所は周囲の山林より価値の高い特別な意味を持つ土地なのですから、土地を所有される方がもしこれを不快に思われるようでしたら善処したいと思います。
(不正確な場所に貧弱な杭を打つよりも、もっと正確な場所に幾分ましな杭を打ち込むのが本当の善処かなと思います。)

お隣の東経135度、北緯35度は兵庫県西脇市にあって、「日本へそ公園」という公園があります。
東経134度、北緯34度は徳島県東みよし町にあって「ゆめりあ34」という公園とモニュメントがあります。
また、高知市内に東経133度33分33秒、北緯33度33分33秒の場所があり、「地球33番地」という名所となっています。
東経133度北緯33度(高知県黒潮町)、東経140度北緯40度(秋田県大潟村)、東経143度北緯43度(北海道芽室町)なんかも人里近いところにあるので、私のような奇特な人が探しに行くと面白いかもしれません。(私はよう行きませんが)

緯度経度はもともと人間の決めごとで、不可視なものですが、きょうびはそれを可視化するツールを誰でも持っていて、地図と携帯電話と少々の体力さえあればこんな隠れた名所を探し当てることができたり、さらには町起こしにつながったりもします。
今日の隠れ名所は、特異さという点では日本のへそ公園に及びませんが、とりあえず津山のへそと呼ぶべき場所だろうと思います。
その後、もう少し精密に測定できるGPSデバイス(要するにAndoroidスマホ)を入手したので、改めて「東経134度、北緯35度」の杭を打ち直しに行って見ました。
Androidアプリは、ガラケー(SH-06A NERV)の測定プロセス不明のものより少しマシな感じがします。
それっぽい場所を探して、改めてウロウロしていると、先日見落としていたと思われる、こんなものを見つけました。
うおお、先人の行跡あり。
私と同じことに気がつく方がおられたようです。場所も私の最初の杭の位置よりいくらか正確でした。
さて、GPSアプリは計測が早く、下3桁にゼロが並ぶのもわかるので正しい「東経134度、北緯35度」は、見つかりやすいような気がしますが、前回の探索と同じように、その地点に至る移動方向に引きずられる、測定者自身が衛星を隠してしまう、などの要素があって、究極の精度はガラケーと同程度でした。
結局、30分ぐらい場所を探したり、測定値が落ち着くのを待って、先人の残した張り紙の近くに先日の杭を打ち直しました。
打ち直した杭Andriodアプリ(GPS Status & Toolbox)
2種類の携帯の測定画面を比べてみると、ガラケーの表示値は秒の少数以下3桁(最終桁は緯度の場合3cmぐらいを表す)であるのに対して、Androidアプリの表示値は分の少数以下3桁(最終桁は緯度の場合1.85mぐらいを表す)なので、サクサク表示が動いて測定プロセスが明確なスマホのほうが優れているように見えますが、最終的な精度は同じぐらいであるような気がしました。
何より、同じことを考えた同志がいて、こんな辺鄙な場所まで足跡を残しに来ていたということが、この再度のチャレンジの大きな収穫でした。
(13.07.07追記)
「なべのさかやき」目次に戻る