積層つぎ手による木材の接合に関する研究

研究の目的
技術・家庭科の「木材加工」において,ほぞつぎ,相欠きつぎなどのつぎ手を用いた木製品を製作させることは,使用目的や使用条件に即した機能や構造を理解させる上で非常に重要である。しかし,生徒は木材加工の経験が少なく技能的にも未熟であり,すべての生徒に実用に耐える強度のあるつぎ手を製作させることは難しい。また,製作時間を多く取れない現状から考えても,つぎ手の指導には困難な面も少なくない。
そこで,ほぞつぎや相欠きつぎのような接合を板材の積層により作る方法(以下「積層つぎ手」という。)で行うことを考え,それを利用した題材を開発することを試みた。この方法によれば接合部分の強度の向上も期待でき,題材の種類を多様にするとともに,利用可能な木材の範囲を広げることができるものと思われる。
研究の経過
(1)接合強度試験による積層つぎ手の有用性
の検証
(2)積層における圧締方法に関する研究
(3)積層つぎ手を利用した題材の開発
(4)指導に必要な教具、ジグの製作
研究の成果
1 積層つぎ手の強度
(1) 接合強度試験
積層つぎ手の有用性を確かめるために,図1に示すような試験体を作り,接合強度試験を行った。ほぞつぎ,相欠きつぎの各々を,一般的な方法と積層による方法で作った。接合強度試験の方法,および試験体の寸法を図2に示す。試験機によって圧縮荷重を加えると,試験体は脚が広がるように変形してき,接合面の破断が起こる。この時の最大荷重を接合強度とした。
試験結果を図3に示す。ほぞつぎの場合,一般的な方法で作ったものよりも積層による方法で作ったものの方が,大きい接合強度を得ることができた。また,相欠きつぎでは一般的なものの方がわずかに接合強度が大きくなったが,その差は材料そのものの強度の差によるも考えられる。試験体の破断は積層面以外で起こっており,積層による強度の低下は認められない。この試験の結果から考えて,ほぞ面や相欠き面の仕上げが期待できない中学生などには,積層によるつぎ手が特に有用であると言える。
(2) 胴付き面積と接合強度
中学生に積層つぎ手を作らせる場合に問題となるのは,胴付き面の加工精度である。そこで,積層相欠きつぎの胴付き面の形状を変えることで,有効接着面積を変え,その接合強度への影響を調べた。
図4は試験体の形状を示したものである。試験結果を図5に示す。やはり,接合強度に及ぼす胴付き面積の影響は大きく,丈夫な積層つぎ手を作るにはできるだけ胴付き面を正確に仕上げる必要があることが分かる。
(3) 相欠き面積と接合強度
しかし,胴付き面の接合力が期待できない場合でも,相欠き面(または,ほぞ面)の面積を増すことによって必要な強度を得ることが可能である。図6は相欠き面積を2倍にした試験体及びその接合強度試験の結果である。胴付き面積は0であっても相欠き面を2倍にすれば,胴付き面積が 100%のものと同じ程度の接合力を得られることが分かる。題材の開発に当たっては,相欠き面が大きくなるように設計することが大切である。
2 積層における圧締方法
板材を接着して積層するためには,接着剤が硬化するまで適度な圧締力を加える必要がある。しかし,圧締方法が複雑であったり特殊な圧締用工具が必要であったりするのでは,中学生向けの題材や加工法としては不適当である。そこで,簡易な圧締方法の有効性を確認するために,積層つぎ手に必要な圧締圧力,圧締時間について調べた。
(1) 圧締圧力
圧締圧力を変えて作った試験体の圧縮せん断試験を行うことにより,圧締圧力と接着強さとの関係を調べた。
圧縮せん断試験の試験体の形状を図7に示す。万能試験機で,圧縮荷重をかけることにより,この試験体の接着層にせん断力を与えることができる。試験体破断までの最大荷重を接着面積で除した値を,接着強さ(kgf/cm2)とする。試験体の圧締は,体重計と自動車用ジャッキによる簡易型のプレス機で必要な圧締圧力を加え,48時間以上経過したものを試験した。試験結果を図8に示す。接着強さは,圧締圧力が0.5kgf/cu以上ではほとんど一定の値となり,破断も接着面ではなく木部で起こるようになる。圧締圧力は接着面が密着する程度に必要であり,それ以上圧締圧力をかけても接着力の向上には効果のないことが分かる。
1kgf/cu程度の圧締圧力を得るためには,特別な圧締工具などは不要であり,ボルトやナットを使った簡易なジグで十分である。図9は直径8mmのボルトとちょうナットを用いた圧締用ジグの例である。
(2) 圧締時間
次に,圧締圧力を加えた時間と接着強さとの関係を調べた。試験体は図7のものを用い,圧締圧力は図9の圧締ジグにより1kgf/cu以上となるように加えた。それぞれに圧締圧力を必要な時間だけかけた後ジグを外し,48時間以上経過した試験体の圧縮せん断試験を行った。
試験結果を図10に示す。圧締時間が30分までは接合強さとの相関関係が認められるが,それ以上では相関関係はほとんど見られない。また,10分以上の試験体ではすべて木部で破断が起こっている。このことから圧締圧力を与える時間は,30分程度で十分であると言える。
(3) 接着時間
つぎに、接着してからの時間と接着強さとの関係を調べた。試験体は図7のもの,圧締ジグは図9のものを用いた。接着した試験体に圧締圧力を所定の時間加え,圧締ジグを外した直後に圧縮せん断試験を行った。
試験結果を図11に示す。接着後30分間は特に急激に接着強さが増している。わずか10分の接着時間の試験体で接着強さは10kgf/cu に達し,30分では30kgf/cu 以上に達する。
この試験の結果と前の試験の結果から考えると,接着後に必要な圧締時間は30分程度であり,その後は圧締ジグを外し,かんな削りなどの作業をすることが可能である。
3 積層つぎ手を利用した題材
積層つぎ手を利用した題材として,ミニテーブル,サイドテーブル,マルチラックの3つの題材を選んだ。これらは同じ材料でできるが,製作の難易度が異なるため,個々の生徒の能力に応じて選択させることも可能である。
今後の課題
今後は,実際の授業の中で,積層つぎ手を利用した題材の指導を行い,個に応じた指導法や評価の在り方を考えていきたい。
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