教育評価
相対評価から絶対評価へ
相対評価
集団基準(norm)に基づく評価方法。個々人のテスト得点をその属する集団の得点の平均値と分散を基にして偏差値の形に変換したり,個々人の成績を,その属する集団の上位あるいは下位からどの程度の位置にあるかによって,正規分布を仮定して設定された段階のいずれかに割り当てるといったことが行われる。
相対評価の考え方は「集団の絶対数が多くなればなるほど,その成績の分布はおよそ正規分布に近づく」という統計学の理論を基本としている。正規分布は身長などの自然的な現象の測定度数分布などに見られる釣鐘型の分布形状で,標準偏差によって管理される。(体重のように人間の意志に関係するものは正規分布にならない。)
平均からの偏差を二乗して総和し,その平方根をもとめると標準偏差になる。σ(シグマ)は標準偏差のことで,5段階評価は1σ単位で区切り,10段階評価は0.5σ単位で区切る。偏差値は51段階評価で0.1σを単位として,×10+50 の加工をしたもの。平均の位置が偏差値50で,上は75,下は25くらいになる。偏差値は,学力を測る方法として,一定の数式により求めることができ,客観的な評価法として広く普及していた。
教師は成績資料を精査した後,生徒を成績順に並べ,5段階評定の場合,5…7%,4…24%,3…38%,2…24%,1…7%が目安とした,一定の割合で評定をつける。したがって,必ず評定5の生徒,1の生徒が存在する。 しかし,実際の学力試験ではその成績分布が正規分布にならないことが多いことはよく知られており,上記の基本的な考え方は実態にそぐわない面がある。
絶対評価
到達基準(criterion)に準拠した評価。到達度評価ともいわれる。教育活動を通じてその実現が期待される学力の内容を到達目標の形で設定し,それらのうちでどれが既に達成され,どれが未達成であるかを,個々人について,また集団について明らかにしようとする考え方。
完全習得学習(マスタリーラーニング)
時間を費やせばどの子にもどんな内容でも理解させることができる,というキャロルの発想をもとにブルームの提供した学習理論。学級の90〜95%以上の児童生徒に学習内容を習得させるという考え方を根幹に置き,学習方法や学習評価を工夫する。
教育目標を明確に設定し,その下位目標にあわせた学習単元が設けられる。単元が終了すると,達成度やつまずきを知るために形成的評価を行う。目標に達してない場合は,補充教材などでさらに学習が行われ,完全に学習を習得させようとする。
形成的評価
完全習得学習では,一定期間の教育成果をまとめて評価する総括的評価より,それぞれの段階での評価結果を,指導計画の修正や必要な補充指導の実施などの形で,次の段階における教育活動の展開に生かしていく形成的評価が重視される。
指導と評価の目標
期待目標と到達目標
期待目標とは,教育を通じてその形成が期待されるところを述べたもの,基本的な方向性。教育成果についての最大限の期待を示すもの。
到達目標とは,教育活動を通じてその確実な到達をすべての子どもにはかっていく。教育成果について最小限これだけは,あるいは最低限ここまでは,というところを表したもの。
行動目標
指導や評価のめあてとなるものとしての目標は行動目標の形で記述するべきだという主張がある。例えば,「……を理解する」という目標は曖昧である。「……を説明できる」「……を指摘できる」という,外部からの観察が可能な形で目標を表記することが望ましい。行動目標の形で授業のねらいを表記することで,その授業の目標がはっきりし,評価しやすいというメリットがある。
しかし,同一の学習に対しすべての生徒が同じ変化をもたらすという考えや学習の成果や観察可能な変化が,学習の直後に現れるということに対しては疑念を抱かざるをえない。そこで,こうした行動目標論を克服する方策として,梶田叡一は到達目標を3類型に区別することを提唱している。
達成目標・向上目標・体験目標
@達成目標…特定の具体的な知識や能力を完全に身につけることが要求されるといった目標。行動目標の形で記述されるものの大半は原則としてここに入る。
A向上目標…ある方向へ向かっての向上や深まりが要求されるといった目標。基本的には,個人内での比較(以前より……)や他の人との比較(だれだれより……)というかたちでしか進歩あるいは向上・深化などが把握しがたいという性格のものであり,論理的思考力とか鑑賞力,指導性とか社会性といったような包括的で総合的な高次の目標がこれに属する。
B体験目標…学習者側における何らかの変容を直接的なねらいとするものではなく,特定の体験の生起自体をねらいとするような目標。学習者の知的精神的成長のためには,触れ合い,感動,発見等々の体験が重要な意味を持つものと考えられるが,それらを直接,教授=学習活動展開のねらいとするもの。
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