特別支援教育 発達障害の種類と特徴
 
広汎性発達障害(自閉症,Pervasive Developmental Disorder:PDD)
 生後3年以内に次の3つの兆候が同時にある場合,自閉症と診断される。自閉症の主たる兆候は幼児期に顕著である。
・社会性の障害(他者とのやりとりが苦手。他者の意図や感情が読み取りにくい)
・コミュニケーションの障害(ことばの発達が遅れる。オウム返し。会話が一方的で自分の興味関心事だけ話す)
・こだわり行動(興味の偏りと決まりきったパターンへの固執)
 
 自閉症の認知の特徴としては,情報の中の雑音の除去ができない,一般化や概念化ができない,認知対象との間に心理的距離がもてないことがある。このことから,いくつかの対象を同時に視野に入れて処理することや,視点を変えることが非常に難しい。また,終点から逆算してスケジュールを組み立てるといったことができない。変化に対しては常に強い抵抗が生じるため,どうしても変更が必要なときには必ず予告が必要である。
 他の人と,喜んだり,悲しんだり,感動したりといった感情を共有しにくく,他の人がどのように感じているかを察知することが難しい,人に合わせて行動することも苦手である。
 特定の音,匂い,触覚などの刺激に敏感すぎる知覚過敏性を抱えるため,人に近寄られるのが怖いから避けてしまう。また,怖い世界から自分を守るために,くるくる回ったり,ぴょんぴょん跳ねるなど,自分で一定の刺激を作って,感覚遮断を行う。また,
過去の出来事を突然思い出して,あたかも先ほどのことのように扱うことがある。
 非常に狭い視野で周囲の世界を眺め,判断し,行動してしまう。想像力の障害から,様々な情報を統合し,推測することが困難で,細かいところにばかり焦点があたってしまう。抽象的な概念はすべて視覚的なイメージに転換しなくては理解ができない。
 中には,周囲の状況を無視しがちながら,好きなことには,人一倍熱中し,ときには,特定の分野で高い能力を発揮して認められる人もいる。
・人口の1%程度が該当する。
・半数程度は知的障害をもたない高機能群である。高機能群の場合,知的障害者の福祉制度の対象とはならない。(支援学校・高等支援学校への進学は基本的には療育手帳が必要となる。)
 
高機能広汎性発達障害 (アスペルガー症候群・高機能自閉症)
・知的には標準またはそれ以上
・自閉症と同じ幼児期兆候をもつが,発達するにつれて症状が目立たなくなる。しかし,中核症状である社会性の障害は軽くはなく,社会的自立においては大きな問題をもつ。
・特に,コミュニケーションの障害はあっても,言葉の発達が遅れなかった場合,アスペルガー症候群と呼ぶが,高機能自閉症と区別することは臨床的には意味がない。
・手先が一般的に不器用,しかしまれにとても器用
 
精神遅滞・境界領域知能(Mental Retardation:MR,Borderline Mentality)
 話す力やことばの理解,形を認識する力や状況を理解する力などの知的な能力が年齢に比して全般的に低いレベルにあり,社会生活をしていく上で理解と支援が必要な状態を精神遅滞(知的障害)という。知的能力を心理発達テストで評価し,IQ<35は重度精神遅滞,IQ35〜50は中度精神遅滞,IQ50〜70は軽度精神遅滞とされる。IQ70〜85は境界領域知能とされ,明らかな知的障害とはいえず,環境を選べば,自立して社会生活ができると考えられるが,状況によっては理解と支援が必要なレベルである。
 
・年齢相応の知的能力がなく,社会的自立の上で支援が必要とされる
・ダウン症など,染色体異常によるものもあるが,原因が特定できないものも多い。
・人口の2〜3%が該当する
・知的障害者の福祉制度を利用することが可能
 
学習障害(Learning Disability:LD)
 全般的な知的発達の遅れはないが,聞く,話す,読む,書く,計算する,または推論する能力の習得と使用に著しい困難を示すものと定義される。このためにLDの子は学習に支障きたすが,その影響は日常生活にまで及ぶことが多い。このような子どもは,一部の能力のみが劣っているので,周囲にそのことがわかりにくく,一部の能力が発揮できないのは,なまけているから,わざとやろうとしないなど理解されていないことがある。
 
・知的には標準またはそれ以上
・学力の著しい偏り(読み・書き・計算などの一部だけができない)
・注意集中力や落ち着きがない場合もある。また,不器用な場合もある。
・人口の5%程度が該当するというデータもある。
・知的障害者の福祉制度の対象とはならない。
 
注意欠陥多動性障害(Attention Deficit/Hyperactivity Disorder:ADHD)
 日常生活に著しく支障を来すほど多動,注意集中困難,注意転導(気が散る),衝動性が目立つ人のことをいう。
・注意集中が難しい
・多動,落ち着きがない
・衝動的,思いついたら行動に移してしまう
 
 上記の3つが同時にある場合に診断される。発達的な個性の場合だけでなく,環境条件が悪い場合にも同様の状態像を見せる。
・薬物療法が著効する場合もある。
・人口の3%程度が該当する。
・知的障害者の福祉制度の対象とはならない。


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