自己・他己双対理論に基づいて構築された心理学モデルを、「人間精神の心理学モデル」と名付けています。
 このモデルは、自他ふたつのモーメントに、五層の精神機能領域があると仮定しています。説明文の後に掲載した図表をご参照ください。
 モデルの一番下(中心)は、無意識層の個人的無意識−集合的無意識です(以下の説明でも、ハイフンの前が自己モーメント、後が他己モーメントを指しています)。前者は、個人が生まれながらに祖先から受け継いだ、自分では意識できない遺伝形質や、誰でもが共通にもつ生命維持のための生の衝動などを表します。後者は、人類が進化の過程で動物を越えて人間らしい特性として得た「無垢なもの」を表していて、それは純粋で無条件な、ひと(他者)への志向性のようなものと考えらます。
 次いで情動−感情機能(こころ)ですが、前者を具体的に従来の心理学用語で言えば、欲求・要求・動因・欲望・衝動・気分・情緒、あるいは一般的な言葉であれば自尊心・自己愛・利己心などになります。後者は向社会性がこれに属し、より一般的には同情心、共感心・思いやり・やさしさ・愛他心・利他心などであると言えます。ここで確認しておきますと、情動と感情を自他ふたつのモーメントに分けて概念化してありますが、これらは別々のものではありません。情動の働きのよくない人間が、感情の働きだけよいということは原則としてあり得ず、その逆も成り立つということです。また、情動、感情それぞれの働きの低下は、必然的に他方へと影響を及ぼします。これは、当然すべての機能水準に渡って言えることです。
 次は感覚−運動機能(からだ)ですが、感覚はいわゆる五感のことで、従来心理学で使用されてきた通りであり、運動も同様です。
 その次の認知−言語機能(あたま)は、続く自我−人格機能(たましい)と併せて、人間だけに固有な機能と考えています。認知に従来の言葉を当てはめれば、判断・創造・思考・抽象・表象・知能・知識などであり、言語については特に説明を要しないと思われます。
 最後は、精神機能の最上部に位置づく自我−人格機能(たましい)です。自我は、よりよい自己を意識する心であり、自己の生き甲斐を追求し、実現していこうとする心です。従来の心理学用語で言えば、自己実現の欲求・意図・意志、などがこれにあたります。
 次に、人格は、より社会的であろうと意識する心で、社会の要請・期待に従おう、社会に貢献・奉仕しよう、社会を尊重・維持しよう、社会関係を持とう、などといった言葉で表せるものがこれに属します。社会の内容を表すものとして、自然・世界・人類・国家・家族・法・正義・規範・役割・権威・人倫・道徳・良心・伝統・慣習・風習・社会意識などが考えられます。
 従来の心理学では、認知が精神機能の一番上に想定されてきましたが、精神には、全体を統合し、目的を設定してそれに向けて機能を動員し、さらに活動に一貫性を持たせる働きが備わっています。認知機能もそうしたコントロールを受けており、そうしたことを構造的に理解するためには、自我−人格機能を想定することが必要と言えます。


                            戻る