渋滞を楽しめ!

-ネットワークの隘路はどこか-


高速ネットワーク「テレビ津山」に加入した私は、家に帰ってパソコンに向かうのが何よりの楽しみになっています。
ただ、家に帰ってパソコンに向かう時間は、世間の誰もがパソコンに向かう時間帯でもあります。
そして、高速ネットワーク経験5日目の私が目にするものは、なぜだかデータの大渋滞なのでした。
サクサク〜ッとページが開くこともあれば、ぱったりデータが止まって白紙の画面をタイムアウトまで見ることもしばしばです。

前回のレポートは、書き上げたのはよいけれど、どうしてもFTPで転送することができず、仕方なくマシンを替えて電話回線42kBPSでアップロードしました。
電話回線時代はこういったデータの渋滞は気になることがなく、なんとなく平均して速度が遅いだけでしたが、ネットの上でどんな魔物がいたずらしているのでしょうか?

目当てのページがなかなか開かないので、手わるさに「MS−DOSプロンプト」を開いてみます。

tracert <ドメイン名>

を入力すると、そのコンピュータまでの道筋と反応時間が順次表示されます。
関東のとある大学までtracertしてみると(最初と後半は省略)

... 2 9 ms 9 ms 10 ms 192.168.1.1 3 11 ms 8 ms 8 ms tvt-gw.tvt.ne.jp [210.253.58.1] 4 20 ms 12 ms 11 ms highway-gw.tvt.ne.jp [210.253.56.1] 5 9 ms 12 ms 11 ms o-tsu-rt11-FEther2-0.okix.ad.jp [210.236.97.249] 6 22 ms 9 ms 11 ms o-noc-rt00-atm1-0.okix.ad.jp [210.236.96.65] 7 12 ms 14 ms 14 ms o-noc-rt01-fddi0.okix.ad.jp [210.236.96.1] 8 16 ms 30 ms 47 ms 210.236.96.50 9 222 ms 28 ms 26 ms urban-tsuyama-gw.ctnet.ad.jp [210.166.42.25] 10 27 ms 33 ms 33 ms oka-bb.ctnet.ad.jp [210.166.33.129] 11 35 ms 37 ms 37 ms uji-bb.ctnet.ad.jp [210.166.32.5] 12 * 58 ms 55 ms STnet-gw.omp.ad.jp [210.159.1.237] 13 57 ms * 55 ms omp-osk2-gw1-GE3-0.omp.ad.jp [210.159.0.253] 14 54 ms * 64 ms 211.12.0.130 15 53 ms 56 ms * 210.171.224.122 16 62 ms 53 ms 59 ms tokyo-10-GE2-0.sinet.ad.jp [150.99.170.3] 17 67 ms 70 ms 78 ms tsukuba-10-A6-0-1.sinet.ad.jp [150.99.106.9] ...
テレビ津山の次はokix.ad.jpという団体(会社?)が持っているコンピュータだとわかります。
しかも5,6,7番とokixの中をたらい回しにされたあと、9番のコンピュータも津山にあるような気配です。
電話回線の頃もokixの名はしばしば目にしていたので、「沖電気の関連会社かな?」ぐらいに思っていたのです。
思うだけでは致し方ないのでJPNICのサービスでその正体を確かめてみました。

正解はこうでした。

a. [ドメイン名] OKIX.AD.JP e. [そしきめい] おかやまけん f. [組織名] 岡山県 g. [Organization] Okayama Prefectural Government ええ〜。「おかやまけん」さんでしたか。
これはひと頃新聞等でもてはやされた「情報ハイウェイ」ですな。
前回の記事で「これは、帯域のボトルネックがテレビ津山のケーブル網にあるのではなく、テレビ津山から外(たぶんNTT)への回線にあるのだろうということを暗示しています。」と書きましたが、テレビ津山はネットワーク的にはNTTに依存していなかったわけです。

さて、番号の次の××msはサーバの反応時間です。
9番のurban-tsuyama-gw.ctnet.ad.jp が突出して反応が遅いようです。

別の例

... 3 16 ms 12 ms 9 ms tvt-gw.tvt.ne.jp [210.253.58.1] 4 11 ms 9 ms 9 ms highway-gw.tvt.ne.jp [210.253.56.1] 5 11 ms 10 ms * o-tsu-rt11-FEther2-0.okix.ad.jp [210.236.97.249] 6 13 ms 28 ms 12 ms o-noc-rt00-atm1-0.okix.ad.jp [210.236.96.65] 7 13 ms 13 ms 16 ms o-noc-rt01-fddi0.okix.ad.jp [210.236.96.1] 8 11 ms 17 ms 14 ms 210.236.96.50 9 * 29 ms 31 ms urban-tsuyama-gw.ctnet.ad.jp [210.166.42.25] 10 34 ms 38 ms 32 ms oka-bb2.ctnet.ad.jp [210.166.33.141] 11 35 ms 35 ms 34 ms uji-bb2.ctnet.ad.jp [210.166.32.13] 12 37 ms 34 ms 31 ms uji-bb.ctnet.ad.jp [210.166.33.81] 13 223 ms 150 ms 36 ms lcisco002-fastethernet3-0.hiroshima2.TokyoNet.AD.JP [203.183.236.50] 14 198 ms 71 ms 69 ms 203.183.237.121 15 81 ms 68 ms 79 ms 203.183.250.139 16 125 ms 72 ms * 203.183.254.189 17 * 80 ms 77 ms yahoo.co.jp [210.140.200.16] 9番に無反応(間に合わない)の*印が1個ついています。

また別の例

9 51 ms 32 ms 33 ms urban-tsuyama-gw.ctnet.ad.jp [210.166.42.25] 全くダメな時ばかりではないようです。

このctnet.ad.jpは「中国通信ネットワーク」という会社のようです。

いろいろ試してみると渋滞の原因はネットワークを管理する団体(会社)同士の結節点であることが多いようです。
そういうところのコンピュータ名にはゲートウェイを表す「gw」という文字がよく入っています。
また、その前後で団体名(.ad.jpの前にある文字列)が変わっているのですぐわかります。
テレビ津山を出入りするデータの流れは、はじめ岡山県情報ハイウェイに入り、中国通信ネットワークに流れ込み、なぜかその会社の「uji」という場所にあるコンピュータを経て様々な経路に広がっています。
大渋滞を引き起こしているのはurban-tsuyama-gw.ctnet.ad.jp と uji-bb.ctnet.ad.jpのそれぞれ前後にある結節点です。

それなら。岡山県のホームページなら渋滞と無縁なのでは? 案の定、自分のパソコンの中にあるデータのようにサクサクページが開きます。
まあ、真夜中にこんなところが渋滞しているわけもないのですが、自分のパソコンが県庁直通のハイウェイに接続しているとは気がつきませんでした。

インターチェンジの少ない、道幅はどーんと広い、利用者の苦情が多い割に走っている車は案外少なかったりする。そんなハイウェイですな。
あ、よく似たものが岡山県にあるとすれば、瀬戸中央道(備讃瀬戸大橋)ですか。あるいは国道2号バイパスですか。
県民性というよりも「県庁性」という感じです。

さて、渋滞の構造がわかったら改善策も提言しておきましょうか。
(注:私はシロウトです。ネットワーク同士の力関係が何によって決まるのかは存じません。)

テレビ津山にできる対策
データの元締めを行政ばかりに頼らずに、いくらかでもOCNやその他の太いバックボーンを持つ回線を導入できないものでしょうか?
行政とは慎重のあまり物事を最悪な方法で実現しようとする場合があります。

okixにできること
津山のデータを津山の別回線に流し込むことが有利とは限りません。
岡山により太いバックボーンが接続しているなら、津山からのデータの流れを岡山まで運び、そこでゲートウェイにつなぎこむのが情報ハイウェイの真の使命ではないでしょうか?
その、太いバックボーンというのがない。というなら話は別ですが。
発想を変えてsinet.ad.jp系のネットワークにデータを分岐させたりしたら、ハイウェイの価値が一層高まることでしょう。たまにそういう分岐を見たことがあります。

中国通信ネットワークに一言
御社に直接苦言を呈す人がいないことは幸いですが、どうやら多くの民の苦しみの原因はあなたにあるようです。
さあて、今夜も大渋滞を見ずに済んだ(記事を書いた)わけですが、インターネットというのはどうやったら心ゆくまで見ることができるのでしょう?

その後、2001年秋にかけてネットワークは「むちゃくちゃ速い時」と「混んでいて使い物にならない時」が交互に出現していましたが、「増速工事のためのネットワーク停止」が挟まるごとに改善を見せ、今では平日の夜で120〜300kbpsにまで安定して来ました。と、同時に「むちゃくちゃ速い」現象も見られなくなりました。
どうやらネットワークの帯域を上手に分配する方法を確立されたようですが、下り11Mbpsのユーザーを1000人以上抱えて、唯一の外部への出入り口OKIXへは6Mbpsでしかつながっていないというのは何やら芸当じみていると思います。
いえ、安定していますよ。快適ですよ。技術的向上ですよ。私は満足しています。
(02.02.18追記)

今日は(火曜日)午後10時で1M〜1.5Mbps出ていました。このぐらいになると使ってよかった決めてよかったと思いますね。
(02.02.19追記)


物知り弟にこの記事を見せたところ、経由地のアドレスに出てくるatmとかfddiというのは、TCP/IPとは別のプロトコルで、IPアドレスを名乗ってインターネットの一部をなしているように見えますが(いや、インターネットの一部ではありますが)本当はIPアドレスなど不要な交換網であるとのことでした。
そればかりかFEtherとかfastethernetという文字も見られますが、これはおなじみ100BASE−TXです。インターネットの幹線をなしていると思われる.AD.JPのネットワークも時として100Mbpsという地味なスペックであることがわかります。家庭や職場で使っている中で実効速度はそれより遅いことが知られています。
実際のネットワークの隘路はここだったのかも知れません。しかし、上記は1年前の状態ですから今となっては昔のことだろうと思います。
それから、「中国通信ネットワーク」は電力系の通信会社とのことです。

最近のテレビ津山は外部に15Mで接続しているとのことです。人が接続などしそうにない時間だと2.5Mぐらいの速度が見られますが、その分ユーザーの層も厚くなって、以前のような「あ、テレビ津山を使っているのは僕だけ。」というような状態はなくなりました。
(02.08.23追記)


上記tracerouteの結果で謎だった部分がわかりました。
「highway-gw.tvt.ne.jp」のあとに「okix」ドメインが続いて、ctnetとの接点に出てくる「urban-tsuyama-gw.ctnet.ad.jp」は津山にあるようだと上で述べていますが、これは岡山市(大内田、コンベックスの近くのどこか)にあるのです。

okixドメインの中に出てくる「noc」というのがネットワーク管理センターを意味しており、okixに渡したパケットはすぐnocに中継されます。しかし、そこからが面白いところで、パケットの送付先が岡山県内でなかったら、テレビ津山はそのパケットを県外に引き渡す回線を自分で確保しなければならないことになっているようです。そのためにNOC内に場所を借りてテレビ津山のパケットをctnetに流し込むサーバを、テレビ津山が確保していると見ていいようです。
一般にはインターネットに流し込んだパケットの流通コストはお互い様だから負担しなくてよい、というルールのように解されていますが、岡山情報ハイウエイはこの点でThe netそのものとは少し違うもののようです。

ctnetのホームページを探し回ってみると料金表があって、これを見るとテレビ津山が意外なほど大きな月額利用料を負担していることがうかがえます。
と、そこまでわかったら「uji」は京都府の宇治ではなく、広島の宇品ではないかという想像も出来ます。

この記事を書き始めたときには、テレビ津山が外部への接続をケチっているか、あるいは適切なルーティング方法を知らないために、パケットが特定の混雑するサーバを通り、結果として渋滞が引き起こされているのではないか。という推測があって、その裏づけとなる証拠を収集していたつもりなのですが、これはおおむねOKIXの仕様によるものと判明しました。
これはテレビ津山と岡山情報ハイウエイの名誉のために訂正記事を出しておくべきでしょう。

上記の記事で誤っていた点

  1. テレビ津山はデータの元締めを行政に頼っていたわけではない。
  2. 回線が空いているからといってOKIXが勝手にSinetにデータを流し込んだりはしない。
  3. OKIXはまさに津山からのデータを岡山のバックボーンの太いところまで無料で運んでくれる回線である。
それじゃ、当時の大渋滞の原因は何だったのでしょう?
たぶん、urban-tsuyama-gw.ctnet.ad.jpの容量、すなわちテレビ津山の財布のヒモの問題だったのでしょうね。
(03.01.12追記)
2年も前の記事に追記したりして、この文が人の目に触れるのかどうか自信がありませんが、興味深い後日談が発生しました。

8月24日(日)の夜にメールチェックをしたら、8月23日(土)21:00に送信されたメールが入っていました。
送信元はテレビ津山で、内容は8月25日(月)にバックボーン増速がありますので、あなたのグローバルIPアドレスが変わります  っておい!
そういう事ははよ言うてもらわんといろいろと差し支えるがな。

まあ、グローバルIP変更のほうは面食らいながらも処理しました。
それで、バックボーン増速をいかなる方法で実現したのかTracerouteを実行してみました。

Tracing route to google.co.jp [216.239.33.100] over a maximum of 30 hops: 1 7 ms 8 ms 6 ms 172.17.0.1 2 10 ms 10 ms 13 ms 10.11.254.252 3 12 ms 9 ms 10 ms atm.tvt.ne.jp [211.2.176.2] 4 11 ms 13 ms 13 ms l233.tr4.kct.ne.jp [211.125.114.233] 5 12 ms 12 ms 13 ms m189.tr5.kct.ne.jp [211.125.115.189] 6 15 ms 15 ms 18 ms 210.138.33.101 7 16 ms 16 ms 17 ms Osk003bb01.IIJ.Net [210.138.33.2] 8 27 ms 26 ms 29 ms Otemachi-bb8.IIJ.Net [202.232.0.80] 9 28 ms 29 ms 28 ms Ariake-bb7.IIJ.Net [202.232.0.71] 10 29 ms 28 ms 27 ms Ariake-bb8.IIJ.Net [202.232.0.150] 11 129 ms 132 ms 132 ms sjc002bb01.IIJ.net [216.98.96.219] 12 129 ms 129 ms 128 ms sjc002ix00.IIJ.net [216.98.96.170] 13 128 ms 130 ms 128 ms eqixsj-google-gige.google.com [206.223.116.21] 14 129 ms 131 ms 129 ms 216.239.48.210 15 131 ms 128 ms 130 ms 216.239.48.125 16 130 ms 131 ms 130 ms 216.239.47.2 17 129 ms 129 ms 132 ms google.co.jp [216.239.33.100] Trace complete. kct.ne.jpって、調べてみると「倉敷ケーブルテレビ」じゃないですか。
その前がatm.tvt.ne.jpですから、ここでイッキに倉敷まで伸びる光ファイバーが存在しているわけです。
代わりにokix.ad.jpすなわち岡山情報ハイウエイは介在していません。
倉敷ケーブルテレビはTracerouteを数種類試してみればわかりますが、非常に優秀なバックボーンをお持ちのようです。ここではIIJにパケットを渡していますがinterQなりNiftyなり、メジャーなネットワークが何でもすぐ隣まで引いてあるように見えます。
これについてテレビ津山にかまをかけてみたところ、岡山情報ハイウエイとの関係をなくしたわけではなく、経路の複数化を図って接続の安定を目指しました。という回答でした。

数回のTracerouteの結果が全てkctを経由したところを見ると、上記の回答とはうらはらに、岡山情報ハイウエイ(あるいは、その向こうのctnet)に対してテレビ津山が何らかの不具合を感じているとは言えるのではないでしょうか。
また、固定IPアドレスが変更されたということは、IPアドレスを分けてもらうさらに上位のプロバイダに関して、根本的な変更が起こったことを意味しています。
それが何であるかは現在は不明ですが、この記事で長々と(足かけ二年)調べ上げてきたことと一致する何かであったような気がします。

それで、「バックボーン増速」がどうだったかというと、安定はしたかもしれませんが、めざましい増速もありませんね。テレビ津山の速度はとうに私の要求する水準を上回ってしまっていますから、特別の感想はありません。あ、これ、けなしているわけじゃありませんよ。

続いて8月31日付けでうれしいお知らせがありました。
「ルータをつないで複数台のパソコンを接続可能にしたら月額3000円の追加料金」
というルールが9月1日から撤廃されるそうです。

やれやれと言って月額3000円の支払を終了するユーザーよりは、やれやれと言って所有するエアステーションの合法化を喜ぶユーザーの方が多そうな気がするのですが。
え?エアステーションって反則だったの?あれは電波でパソコンをつなぐ機械であって、ルータとやらとは違うものでしょ?
ほじくるときりがないのでこの辺で。
(03.09.02追記)


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