Radioactive!

-ガイガーカウンターで遊ぶ-


秋月電子通商は、昔から科学少年をわくわくさせるアイテムをカタログに載せていますが、その中でもとりわけ私が好きだったのが超小型ガイガーカウンターでした。
あまりに気に入ったので3個も作ってしまいました。おや、現在のカタログからはAE-GEIGERは姿を消していますね。

この測定器の中枢は極小のクレヨンのような形をしたガイガー計数管で、浜松ホトニクス製です。
この種の放射線センサーの感度は体積に比例するので、中国地方の屋外地上の環境下では1分間に3回ほど放射線を検知した「ピ」という音を聞くことが出来ます。
学校の理科室にあるようなフランクフルトソーセージ大のガイガー管なら1分間に数百から数千回放射線を検出し、「ザー」とか「ガリガリ」とかいう音を出すのに比べるとまことにのどかな放射線検出器です。

私がこのセンサーを珍重して、当時カミオカンデに隣接する二重ベータ崩壊観測施設で研究をしていた友人に見せると、ああ、やっぱりそういうモノは浜松ホトニクスだなあ。と、感心していたものです。
私はその時はそのセリフを聞き流していたのですが、小柴名誉教授がノーベル賞を受賞するにあたって、ノーベル賞受賞の理由となった研究施設、カミオカンデを構成した光電子増倍管が浜松ホトニクス製であり、そんな大きくて品質の安定した光電子増倍管を大量に供給できたことについて浜松ホトニクスが大きく評価されたことをニュースで読んで、初めてその友人の感心の理由に触れることが出来ました。
私は世界に誇れる浜松ホトニクス製放射線センサーの末弟を手にしているようです。

この友人、私が500円で買ってきた螢石の鉱物標本を贈呈したら、しばらくして「光電子増倍管で見たけど光らなかったからX線で叩いてみた。でもやっぱり光らなかった。」と報告してくれました。500円の石でそこまで遊べるとはこれまた別格の科学少年です。

私はそれほど資材を持っていないので、「昼と夜では放射線はどう違うか」「雨の日と晴れの日ではどうか」「これを持って旅行をしたらどうか」といった夏休みの宿題のような研究しかできませんでした。
昼と夜、雨と晴れでは有意な差は見とめられませんでしたが、これを持って若狭湾沿いの原発が多数立地している地域をドライブしたら驚きました。なんと普段の我が家の半分ぐらいしか放射線が検出されないのです。
これは私の住む津山市近辺がカコウ岩を基調とした基盤を持つ地域であるのに対して、若狭湾近辺が玄武岩を基調とした火山岩地域であるためだろうと思います。カコウ岩は地下深くで形成され、構成する鉱物の中には放射能を持つものが多く含まれています。これに対して玄武岩には放射能を持つ鉱物がほとんど含まれていないようです。その他の放射線源は宇宙から降り注ぐ宇宙線由来のものでしょうか。原発の影響は地域差にかくれてしまう程度のものでしかありません。

このガイガーカウンターが、異常な数値を示すところが見てみたい。という思いはカウンタつきの測定器(まさにガイガーカウンター)を作ってからはますます強くなりました。しかし、10分間のカウント数を表示するこの窓は、1年中見ていても最大31、最小7の間以外を示したことがなく、異常といえば若狭湾沿いの放射能は少なかったなあというぐらいなものでした。

そこで私は、日本でおそらく唯一の放射性物質の路頭、人形峠をめざすことになりました。
(このガイガー管を持って飛行機に乗ったら、宇宙からの放射線を受けて鳴りっぱなしになるヨ、というのが秋月電子の説明でしたが、爆弾と間違えられちゃいやなので試していません。)

実は私が初めて人形峠にこのガイガーカウンターを持っていったのは、15年ぐらい前だったのですが、その時の記録も証拠も残っていないので、今回はその追体験ツアーになります。
Webでは読めませんが、このプレートには「人形峠ウラン鉱床路頭発見の地 昭和30年11月12日発見 通商産業省地質調査所 鉱業権者動力炉・核燃料開発事業団 昭和56年3月27日設置」と書いてあります。
昭和の終わりに来たときは、この路頭は今のように崩れて草むしておらず、下部が風化したカコウ岩、上部が砂やれきからなる湖成層のみごとな不整合面を見せていました。

不整合面には大豆から小豆ぐらいの大きさの不整形のれきが詰まっており、黒っぽいものがこびりついています。この不整合面にガイガーカウンターを密着させると、1分間に30回ぐらいのカウントが聞かれます。実に自然放射線の10倍です。
しかし、現在はこのとおり、大切な路頭は崩れてきた土砂に「守られて」いるようです。
この数十センチ下に件の路頭があるのだがと、適当にさぐりながら10分間計測した結果がこれです。
自宅周辺で見られる最高値をわずかに上回る35カウント/10minを記録することが出来ました。

ウランを含む人形峠鉱床はこのように、下がカコウ岩、上が湖成層になっている不整合面に生成しています。
カコウ岩というのは前述のように、もともと他の地域の岩石より放射性物質をいくらか多く含んでいます。これに上からかぶさった堆積物と、カコウ岩の間に地下水を仲立ちとした何らかの交代作用が起こって、カコウ岩の中のウランが湖の堆積物の方へ移動してきたのだと考えられています。
その時に、(たぶん生物の活動による)酸化還元作用のためウランを含む物質が境界面で沈殿して、湖底のれきにこびりついたものが人形峠のウラン鉱床です。
それだけなら、人形峠以外でも世界の多くの場所で起こっていることでしょうし、他にも多くの場所でウラン鉱床が見つかってもよさそうなものです。

さて、以前五輪原細池湿原についてレポートしたのを読まれたでしょうか。
岡山県北には標高がだいたい1000mぐらいのところに新生代第3紀の玄武岩がテーブル状に薄く広く分布しています。
五輪原細池湿原もその山のてっぺんのテーブル状の玄武岩に乗っかっていたものです。
この玄武岩が横にどこまで広がっていたのかは今となっては不明ですが、カコウ岩の岩盤の上にできた湖で形成されたウラン鉱床は、広い範囲でこの玄武岩の下に埋まってしまいました。
それからまた、長い長い期間を経て玄武岩台地が削り出されて、ウラン鉱床が顔をのぞかせたわけです。
ウラン鉱床の上の地層は津山市内にも多く分布している、爪で引っかいても砂に戻ってしまうような軟らかい岩石です。これが風化を免れて鉱床を形成するためには、この玄武岩台地の傘が必要だったというわけです。

ところで、ガイガーカウンターはみごと人形峠の鉱床に反応してくれたわけですが、こんな自然放射能に毛が生えた程度の放射能ではまだ飽き足りません。ハダシで逃げ出したくなるほどβ線やγ線を出している場所はないのでしょうか?
この記念碑の路頭から数百mのところに「人形峠展示館」と「人形峠アトムサイエンス館」があります。
「人形峠展示館」の方にはウランを含む鉱物標本を多数展示しています。
ここにガイガーカウンターを持って入ったら、いったいどんな数字を指し示すでしょうか?

2つの展示館にはあわせて1人の受け付け嬢がいただけですから、あとから冷静に考えればもっと落ちついて振舞えばよかったのですが、このカウンタには重大な欠点があって、感度が非常に低いため、10分間同じ場所で計測しつづけなければならず、しかも次の10分はカウント数を表示しているだけで測定はお休みという、まことにのんびりした計測器なのです。

それでも、我々はおそるおそる、坑道を模した展示スペースに測定器を設置することに成功しました。
もちろん、10分間ガラスに測定器を押し当てておけば、放射線数は距離の2乗に反比例しますから、この写真で見えるような腰の引けた設置環境の5〜10倍のカウント数が見られると思います。

さて、おそるおそる10分を経過して、カウンタが表示した数値は118でした。このぐらいの数値を超えると「すみやかにそこを立ち去った方がいいですよ。」という意味になります。設置場所をもっと遠慮せずに選べば10分間のカウント数は500を超えたのではないかと思われます。
しかし、受付嬢から見通し範囲内で展示品のガラス中央にアヤシゲな箱を押し付けたまま10分間を過ごすことは私にはできませんでした。
しかし、「原子力は安全です!ウランはこんなに役に立っています!!」と宣伝するための施設が、放射線管理については意外とずさんであることは告発できたので一応の目的は果たせたようです。
この標本の直近の放射線は「1日中そのガラスにもたれていると、体によくないことが起こる可能性がいくらかあるヨ」という程度のもので、即危険というほどのものではありませんが、私の知っている限りでは最高にガイガーカウンターが反応してくれる場所です。

家に帰ったガイガーカウンターは今日もまた、のんびりと平穏をカウントしています。
どんなに待ってもこの平穏を破るものはないことでしょう。そう願いたいものです。


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