Jeepはもはや三菱のクルマではない(その2)

-フルオープンが基本だ。-


車検から半年走ったわがJ58号のオイル交換をすることにしました。
せっかくだから、オイル交換のやり方を覚えて、オイルを缶で買ってきて、ドレンボルトからオイルを抜いて、ジョッキで入れてやればよかったのです。
しかし、横着な私はそこんところを人任せにしたくて、黄色い帽子の看板のお店へ行ってしまったのです。

カウンターでキーを預けて、「上抜きだろうが下抜きだろうが、何でも楽な方法でやってください。入っただけの量り売りで結構です。」とめいっぱいええかげんな条件でクルマを預けておいたら、10分もしないうちに携帯電話に電話がありました。

「Jeepは特殊車輌なのでお受けできませんでした。」
ああそうでしょうとも!
「わかりました。じゃ。ディーラーに持って行きますわ。」

Jeepは「特別ではなく、特殊なクルマ」のようです。
さて、嘘から出た真、ひょうたんから駒、藪から棒に(意味不明)その先の三菱ディーラーに足を運びます。
私は以前からディーラーというものには裏切られ続けているのですが、確実な整備は信頼の置けるディーラーへ、という信念は捨てていないのです。

ロビーでコーヒーを頂いて、ぽつねんと待っていると、年配のメカニックが「済みません、車検証を見せていただけますか?」とおっしゃいます。「それなら、鍵のかかる車検証入れに入っていますよ。フタのほうにひっついてますから。」おやおやこの整備士は車検証入れの場所を知らないのかしらん。
だいたい、私はこのクルマが壊れるたびに毎月のように部品を買いに来ていますから、この半年で7回目の来店です。にもかかわらず私はこのお店のお客として登録されていないようです。

オイル交換は済みました。ディーラーらしく完璧な出来栄えでしょう。たぶん。
先ほどのメカニック氏が、明細を持ってきて説明してくれました。
それから、彼は少し言いにくそうに、次のような指摘をしてくださいました。
  1. このクルマは貨物車なのに乗用車用タイヤがついているので次回の車検は通らないと思われる。
  2. 前輪についている社外品のフリーハブがフェンダーよりはみ出しているので、保安規準に違反しており、次回の車検に通らないと思われる。
  3. 幌とドアを外して(サントップで)走っているが、ドアの代わりに鎖が張ってないと保安基準に違反しており、車検時にはドアを取り付けられるとは思うが、このまま走ると警察に見とがめられる可能性がある。
そうですねー。フリーハブは車検のとき外せばいいんでしょう。
タイヤは私の知る限りこの15年間同じタイヤで走っていますから、たぶん20年以上経っていると思います。
そこにカタログがありますから、買い替えにあたってアドバイスしていただきたいとは思っていたんです。

そう言うとメカニック氏は少し顔を曇らせてタイヤ更新のアドバイスには応じて下さいませんでした。

なるほど、きみの言わんとする意味が、だいたい見当がつきました。きみは、こう言いたいのでしょう。
「このような不正改造車は私たちの店に入庫していただいては困ります。」

私は快くオイル交換料金を支払うと、複雑な思いを胸に店を後にしました。
私はこのクルマを末永く愛用しようと、正しい整備をしてくれる店を捜し求めているのです。
適合しないタイヤを履いていながら、20年以上つつがなく車検を通すお店が決してよいとは考えていないのです。(そのうち2回ぐらいは前オーナーが「この」お店で車検を通したはずなんですけどね。)

先に、三菱自動車がすでに三菱Jeepが自社の商品であったことを隠し始めたことについて指摘しましたが、ここでもJeepはもはや三菱のクルマではないようです。

さて、家に帰って「保安基準」のお勉強です。
(車枠及び車体)
第十八条  自動車の車枠及び車体は、次の基準に適合しなければならない。
三  車体の外形その他自動車の形状は、鋭い突起を有し、又は回転部分が突出する等他の交通の安全を妨げるおそれのあるものでないこと。ただし、大型特殊自動車及び小型特殊自動車にあつては、この限りでない。
これが、フリーハブがフェンダーよりはみだしてはいけないことの根拠ですね。
さらに
(乗降口)
第二十五条  運転者室及び客室には、乗降口を設けなければならない。この場合において、客室の乗降口のうち一個は、右側面以外の面に設けなければならない。
 2 (略)
 3  客室の乗降口には、確実に閉じることができるとびらを備えなければならない。但し、鎖、ロープ等乗車している者が走行中に転落することを防止する装置を備えた場合は、この限りでない。
これが、ドアなしオープンで走ってはいけないとメカニック氏が指摘した部分ですね。
でも、ちょっと待ってください。

私のJeepの助手席側には扉というにはお笑いですが、ロープがついています。
運転席側にはロープも鎖もついていません。
しかし、運転者室の乗降口にはとびらとか、鎖が必要なのですか?
保安基準をよく読めば、運転者室の乗降口にはドアも鎖もロープもなくてもかまわないことがわかります。

私のJeepは新車のときからこういう形をしていましたし、当時も今も(ドアに関しては)合法です。
それを、警察に見咎められるなどと、当の三菱ディーラーで指摘されるのは心外です。
ランドクルーザー40をトヨタディーラーに持ち込む人も、日産パトロールを日産ディーラーに持ち込む人もこういう扱いを受けるのでしょうか。
クルマと長くつきあうための信頼の置けるパートナーというのは、どこに行ったら得られるものでしょうか。

私もこれまでは長年純正幌にドアをつけて走ってきました。
日中の駐車場に1日駐車していて、帰りに車に乗り込むと車内はムッとして暑く、エアコンもなければ窓も開かないままで、フロントガラスの下の郵便ポストの差込口程度の大きさの換気口だけで風を受けながら帰宅するのは耐え難いものがあります。
そこで今年は発奮して中古のサントップを入手し、オープン生活を満喫することになりました。

オープンにしてみてしみじみ思うのは、Jeepはオープン状態が真の姿で、幌はオマケに過ぎないということです。
幌は走っている間中、常にバタバタ、キコキコと騒がしく、横風を受けたり窓が曇ったりします。
戦闘用万能車輌として設計されたJeepは、ジャングルを走って窓が汚れるぐらいなら、フロントガラスさえなくて構わないという、徹底した合理主義が貫かれています。幌なんて、一時的に利用する気の利いた付属品に過ぎないのです。

純正幌がボロになって、やむを得ず至ったこの境地ですが、やっぱりフルオープンはやめられませんなあ。

「違法な」WARNのフリーハブを純正に戻す相談をしに、市内のもう1軒の三菱ディーラーに行ってみました。
フロントの方は、私のクルマの運転席側をちょっと見るなり「ゴッパーですか?」と尋ねられました。
自身も2台ジープを乗り継いだことのあるJeepファンの方のようです。J3に乗っておられたということは相当な猛者です。

ああ、私はこういうクルマ屋さんに出会うためにはるばる尋ねてきたのです。
自分のクルマが合法だとか違法だとか、車検が通るとか通らないとか、経費が高いとか安いとか、そんなことはどっちでもいいのです。
自分のクルマについて、正確な知識と確かな技術を持ち、こんなに愛着を持って見てもらえるなら、クルマにとって、そして所有者にとってこれほど幸せなことはないでしょう。
三菱も全体としてはまだまだ捨てたものではありませんでした。

この世話のかかるクルマを整備して、末永く乗ってやろうという意欲がしみじみと湧き上がる1日となりました。
(06.07.23追記)
その後、フリーハブを取り外すという限りなく無意味に近い整備を行いました。
フリーハブを取り外すと、代わりにフタとなる部品が必要です。どうせ足回りをいじるなら、数年前から破れたままだったゴムのブーツを交換したくなりました。(これが案外工賃が高い)実際にバラしてみたら、グリスが固まっていて、ベアリングも傷んでいましたので交換となりました。
そして、私のクルマは純正どおりのフリーハブなしとなりました。
かかった経費とその結果のアンバランスにちょっとめまいを覚えながらも、次はタイヤを何とかしなければなりません。
(06.09.18追記)
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