通勤怪速への道(その4)

-1万1千回転までキッチリ回せ!!-




前回の改造、ハイカム化とダブルスプリング化の効果は、低回転でのトルクを犠牲にして少しだけ高回転の伸びを確保するという結果を得ました。これはおおむね予想通りでしたが、通勤の道に立ちはだかる壁を乗り越えるにはまだまだ不足であることを思い知らされました。

このマシンはすっかり我がもの顔で乗り回していますが依然として借り物です。手っ取り早く確実なパワーアップはまずボアアップから始まるわけですが、持ち主が乗れない車に改造してしまうのはちょっと問題があるということと、手段を選ばない無差別級の改造に手を染めたら、手間やコストが無制限になってしまうことから、私としては「50ccのまま」「日常の使い勝手を損ねない」という条件でワンメイク改造の道を選びました。
そういう条件の中では、最も効果が高いと思われる改造が大口径キャブレターへの交換です。どうして私がそう思ったかは前回の記事中にある表をもう一度よくご覧いただけばわかると思います。

50ccのままのC50に適合するキャブレターはPB16、PC18、PC20あたりがポピュラーです。PBとかPCは形式を表し、ケーヒンのこのシリーズ内では2つ目のアルファベットがB,C,D,Eと進むほど新しい形式です。ただしPDやPEだと無条件に優れているかというとそれはわかりません。
16、18、20というのは本来の型番ではなくキャブの口径を表しています。

私が迷いに迷ったのは、キャブの口径と使い便利のバランスです。
PC20は将来ボアアップしたときにも対応できる余力があり、導入時の性能もかなりとんがったものになることが予想できますが、125ccのバイクの純正に普通に使われているぐらい、50ccのカブにはオーバースペックです。
オーバースペックのキャブレターを小排気量のエンジンにつけると、キャブ内の流速は小さくなり、エンジンが死ぬほど回っていてもキャブはまだまだ本気を出す状態にならないといったアンバランスが生じる可能性があります。PC20なら経験ある人であればきちんとチューニングすることは出来ます。しかしきちんとチューニング出来ずに苦しんでいる人も結構いるようです。

私が気にしたもうひとつのポイントは、純正エアクリーナー、純正チョークケーブルが使用可能かということです。各社のキットの中には純正チョークケーブルを使わず、キャブレターのレバーを直接操作するタイプのものもあります。また、パワーフィルターが前提で純正エアクリーナーを使わないものもあります。なるべく元の使用感のままで、外見も飾らず、しかもちょっと速い。というのがコンセプトです。
結局注文するその日になって、武川のPB16をチョイスしました。

しかしどうしてもわからなかったのが、フューエルコックのリザーブがあるかどうかでした。通販サイトを見てもカタログを見ても何もヒントが書いてありません。写真はコックが向こう向きの写真ばかりでどうなっているのかわかりません。
結局2又コックと燃料ホースを同時に購入しましたが、これにはすごいどんでん返しの解決があり、結局不要になりました。

さて、部品が到着しました。
真っ先に目が行ったのは燃料コックです。ほら、リザーブタンクがつながる枝がないじゃないか。
説明書は丁寧です。取り付け後のチューニングのポイントまで簡単に触れてあります。
付属品の中にはメインジェット(#90)とスロージェット(#38)も含まれていて、出荷時のメインジェット(#70)、スロージェット(#40)と交換します。
そして、今までのキャブの燃料を抜いてフューエルコックを取り外します。ストップに回した今までのフューエルコックはそのままピタリと新しいPB16にくっつきます。そんな解決があるなんて!無理して新式のキャブにせず、PB16にしてよかったとしみじみ思いました。

さて、キャブレター交換はバルブスプリング交換の時を思えばあっけないくらいに簡単です。
気をつけるところは取り付けボルトを締めすぎて2枚あるガスケットを割ってしまわないよう注意することぐらいでしょうか。
ただいま交換中。何もない。ピカピカのキャブにコックだけ古い。

PB16はあまりにもピタリとスーパーカブにつきましたが、どうやらキャブ本体はC70の純正と同じものだったようです。何もかもうまく行くのも無理はありません。

早速試走です。
中・高回転域でのトルクが太くなって、はっきりと乗りやすくなりました。
ハイカムを組んだ直後は5000回転までのトルクが細くなって、シフトアップした時に車の流れに乗りそこねることがありましたが、今度はその頃の全開よりもっと全開がついたわけですから、何とか持ち直せる範囲が広くなりました。
高回転域で全開にしたときのトルク感は抜群で、すぐやみつきになってしまいました。他の部分がついてこなかったらかなり危険です。まあ、サスペンションもブレーキも強化してありますから、一応バランスしている範囲だとは思います。ここに来て不足するのはミシュランのグリップ力でしょうか、それともバンク角でしょうか。

意外にもキャブレターを交換して、変わらなかったのは最高速度です。最高回転数はハイカム導入時に10000回転まで回るようになり、キャブレターを大径化してもそこのところは変わりませんでした。

通勤経路に立ちはだかる壁に対してはどうでしょうか。
トルクがある分、余裕は出来ました。しかし所詮は50ccの悲しさ、今ひとつのところでクルマを圧倒して逃げ切ることは出来ませんでした。当然といえば当然かもしれません。そこを何とかするにはライダー自身の軽量化が必要かもしれません。

キャブレター交換で、平地を走る分にはほぼ申し分のない性能を手にすることが出来たように思います。(あくまでもカブなりにです) ノーマルの時は車の流れに乗ることが苦痛で、国道ではほとんど無理だったところが、楽しく流れに乗れてトロトロ走る車は置いていけるぐらいになりました。 燃料の調整は本気で取り組むと難しいもののようですが、アイドリングストップスクリュを調整しただけでそのまま乗っています。 スロットル中開度〜全開では混合気はほぼ問題なく、スロットルをわずかに開けた状態では、濃いのか薄いのかちょっとエンジンの調子がおかしくなります。(たぶん濃いのだろうと思います。)
こんな状態から、もう一段階上のパワーを引き出すにはどんな手があるでしょうか。1万1千回転までキッチリ回すにはどこを工夫したらいいでしょうか。
点火時期可変CDIメインジェットセット

Webikeで、次はこんなものを買ってきました。
回転数が上がると、パワーを引き出すために必要な点火タイミングは早くなります。カブ純正の27°というのは結構進角していると思いますが、きちんと高回転まで回すには30°を超える進角が必要なようです。
POSHのこのCDIはmap1〜map6という6段階の進角が選べるようになっており、map1が一番進角、map3が純正相当、それからmap6にかけては純正より遅角とのことでした。
進角よりも遅角寄りの設定が多いのは、高圧縮・ボアアップ・パワーフィルターなど、高性能を追求するとどうしてもノッキングや熱の問題が起こりやすくなるため、結局遅角寄りの設定に落ち着くことが多いということでしょうか。

このCDIは、早速取り付けてみましたが、map1からmap6の間で、気のせいかなと思うほどの差しかありません。
タイミングライトを借りて調べたところ、map1からmap6まで、全て進角は27°で、純正と全く違いがありませんでした。なんじゃこりゃ。

次の試みはメインジェットの交換です。
メインジェットはケーヒンPBキャブの場合「京浜丸小」が適合します。商品検索するとバイクの種類によってメインジェットも多種多様のように見えますが、カブ系のエンジンは全て同じメインジェットのようです。
メインジェットを1個単位で買うと、400円ほどもするようですが、6個セット(#65,70,75,80,85,90)ならケース入りで1260円でした。ただし、セット中、#70と#90は既に持っています。

PB16キャブに交換した当初は#90でしたから、最も濃い設定で乗っていたわけですが、間違えて薄すぎる設定で走り続けると焼きつきや故障のおそれがあるということで、「今は濃いのか?薄いのか?」とずっと迷いながら走っていました。
メインジェットを交換する前に、小さなドライバをポケットに入れて通勤し、アイドリングストップスクリュやパイロットスクリュをあれこれ調整してみますが、これという決め手はありません。
次はジェットニードルのクリップ位置を変更してみましたが、元々の位置が一番いいようです。

毎朝、通勤で職場に着く頃にエンジンの調子は最高に悪くなります。交差点の右折待ちでアイドリングが維持できません。これは濃いのか?薄いのか?
そのうち気がついたのは、朝のエンジン不調はしばらく待てば直るということです。どうやらキャブレターのどこかが凍って空気かガソリンの経路が詰まるのでしょう。

いくら考えても、今が#90ですからセッティングは薄いほうへ変えてみるほかはありません。

メインジェットを思い切って#85に変えてみたら、2速で1万1千回転が回るようになりました。
いえ、決してあっさりではありません。1万回転を超えるところでエンジン音にギィィィンという金属的な音が加わります。一時的ならエンジンは壊れませんが、パワーと引きかえの心理的ストレスは耐え難いものがあります。
元々カブは3速60キロで8800回転ぐらい回っています。10000回転で70キロ弱、11000回転では75キロが出る計算です。そんなスピードに達する場所もないし、その速度から安全に止まれるのかいまいち自信がありません。
今のところ3速11000回転は未体験です。

キャブセッティングは、次の#80を試す段階が来ているのですが、#85で特に困ったところはないのでそのままにしています。

改造が一段落したら、2月6日に延長部分が開通した「やまなみ街道」にツーリングに行ってみましょうか。
延長部の入り口ここが事実上の終点

やまなみ街道は、よいコーナーはあるものの、アップダウンがかなりきつく、大排気量のバイクにはうってつけのツーリングコースです。50ccのカブにとっては上りも下りも苦行の連続です。 一連の改造によって苦行の程度は緩和されましたが、それでもしょせん50cc、10%の登り坂を楽々登ることはできませんでした。
のんびりと山並みを楽しんだ後は、お決まりの中島ブロイラーで焼き鳥5本(ツーリングのたびに買う本数が増えているような…)、その後亀甲で長いことどこにあるか知らなかった「亀甲岩」を訪れてから帰りました。
カブの本領は、こうした寄り道だらけのツーリングです。
カブの元々持っている性能は
  1. 低燃費と高い耐久性
  2. ちんたら走っていても恥ずかしくない(恥ずかしいを超越した)外観
  3. 意外と高いオフロード性能
私の改造によって付け加わった能力は
  1. 山道ワインディング(アップダウンの少ない所に限る)を楽しめる安定した足回りとブレーキング
  2. 国道の流れに乗れる最高速度
なお不足している能力は
  1. 登り坂での余裕
ということになります。
ハイカム化・大径キャブ交換で、ホンダらしくスムーズに高回転まで回るエンジンになることを期待していたのですが、結果は意外とピーキーな特性になり、それを3速で走らせるというマニアックなマシンになってしまいました。
それは、「ツボにはまると意外と速いんだぞ」という、今どきにない味を持った、ライダーを選ぶバイクになったということです。

このバイクとめぐり会ってから10ヶ月。
ついに持ち主N君と交渉して、このカブを譲ってもらうことになりました。
思えばエキサイティングで、それでいてのんびりして、油まみれで、知的好奇心をくすぐられる10ヶ月でした。
初めから自分のバイクだったら、初めからボアアップが視野に入っていた分、改造の方向性はもっと違ったものになったわけですが、そうなると「羊の皮をかぶった狼」の面白味を追求することは なかったでしょう。
いえいえ、このマシンはいまだに羊なのです。「たまに狼と同じ速さで走る羊」なのです。

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