通勤怪速への道(その9)

-”ほぼ”最後のC90-


新型2種カブが発売になりました。
110cc、FI、4速、テレスコピックサスで、スピードメーターは100km/hまで刻んであります。丸型ヘッドライトのスタイルは継承です。
それでは90に飛びついた私は…というと、私はキャブレターつきでいじくり倒せるバイクが好きですから、ほぼ最終版(2005年式)のC90にいつまでも乗り続けることでしょう。

さて、私のC90改造作戦の第2章です。
私の手元のサービスマニュアルによると、C90はC(1982年式)以来7.0馬力/7000rpmなのですが、その中身は少しずつ変わっています。
次の表はサービスマニュアル、パーツリスト、ホンダ公表資料、その他(ビーンズクラブ様)から拾い上げた近年のスーパーカブ90年表です。空白は資料を持ってなくて不明の部分です。
年式記号車体番号カム燃費Fブレーキエアクリーナーメインジェットマフラーシート
82C0,20,30,2110mmガードなしヒンジ別体
83D
84E
86G80km/l(50km/h)
87H
92N1800001〜1837169丸型#85
93P1900001〜19509562,25,33,060km/l(60km/h)
95S2000001〜2056595
97V2100001〜2168024
99X2200001〜2499999130mmガード付(J20)
0112500001〜2599999俵型#82ガード付(J21)ヒンジ一体
0222600001〜2699999
0552700001〜2799999
0772800001〜

超抜粋のこの表をどう読むかですが、まずカムの欄は給排気のタイミングを書いてあります。吸気開、吸気閉、排気開、排気閉のバルブ1mmリフト時の角度を順に書いてあります。細かいことは知りませんが、1番目と2番目の数字、3番目と4番目の数字の差が大きいほど高回転型となります。
したがってP(1993年式)以降のC90はいささか高回転型になっていると読めます。同時に燃費も悪化しているようにも見えますが、燃費測定の速度も変わっているので正確なところはわかりません。
ちなみにC(1982年式)の前の無印C90(1980年頃か)のカムプロファイルはC50と同じ7,12,22,2でした。逆にC50C−スーパーデラックスEDは0,20,30,2のカムを持っていましたから、ホンダはこのへんで急速に試行錯誤し経験を積んだようです。

次に、フロントブレーキが大径化したのはVとXの間ですね。前回のお話ではこの大径ブレーキにえらく悩まされたわけですが、一般的に言って純正同士ならば大径ブレーキの方が効きはよいのだと思われます。ただし、社外品のブレーキシューに替えたければ大径ブレーキ用のシューは種類が限られます。

エアクリーナーの「丸型」「俵型」って何だ?というと、「丸型」のエアクリーナーはフィルターの型番が17211-GB4-010のもの。「俵型」のエアクリーナーはフィルターの型番が17211-GBZ-700のものです。実は俵型のエアクリーナーはY(2000年式、AA01)以降のスーパーカブ50と共通のフィルターになっています。
サービスマニュアル・パーツリストを愛読していて、これに気付いた私は「おいおい、ちょっと待てー。」と思ったわけです。
ここでのエアクリーナー変更は「クランクケースエミッション制御装置」の追加のためで、この年を境にクランクケースから黒いゴムチューブが出てくるエンジンになり、そのチューブがブリーザセパレーターを経てエアクリーナーにつながっています。この際、エアクリーナーを構成するパーツの大部分をAA01と共通にしたようです。
同時にメインジェットがやや小さくなり、ネット上での評判によると「環境に良いそうだがちょっとパワーがなくなった」C90になります。
マフラーも型番が変更になっています(18350-GT0-J20 ⇒ 18350-GT0-J21)が、これが性能に影響があったのかどうかは不明です。

シートについては前回レポートしたとおり、ヒンジ別体の方がユーザーの財布に優しいと思われます。そしてたぶんヒンジ一体の方がメーカーの財布に優しいことも想像に難くありません。

さて、こういったポイントをトータルで見たら、99式のC90が近年のスーパーカブ90としては最良のように見えますね。ユーザーが求めるものによりますけど。
私の”ほぼ”最後のC90は、年式が新しいということが最大のとりえですが、こうして調べがついてしまったので、さらに最良のカブに向かって進んでみなければなりません。
エアクリーナーがAA01と共通というのは、つい先日C90に乗りかえた私にとっては許せない改悪なので、早速「元に」戻すことにしました。


取り寄せたエアクリーナーを比較すると、1.5倍ぐらいの容量差があります。しかもボルトオンで互換性があります。
じゃあ何で丸型を続けなかったのだという疑問がわきますが、コスト削減の要求だったのでしょうか、それとも元々これほどの容量が必要なかったということでしょうか。
この旧型エアクリーナーを取り付けると、クランクケースエミッション制御装置のホースをつなぐ所がなくなりますが、エアクリーナーの底に穴を開けてパイプを突っ込み、ありあわせのゴム管をブッシュ代わりにして接続しました。どうせエアクリーナー内は負圧ですから少々漏れても差し支えはないと思います。

エアクリーナーを交換したら、キャブもあわせて調整したいところです。ここは当然メインジェット#85でしょうか。

旧型大容量エアクリーナーの効果は、気のせいではない、わずかな差があるように思います。ただ、コストに引き合うものかどうかは謎です。
メインジェットについては#85に交換したら、吹け上がりのはじめが重くなり、アクセル急開でエンストが起こるようになりましたから、とりあえず#82のままでいいようです。

なんだかあっけなく最良の(はずの)C90に生まれ変わった次は、足回りの改造にかかりましょうか。
サスペンションと言えばカヤバ。タンク付きガスショックのMGS−Tをヤフオクで待ちに待って落札してきました。

実際にはカブ用のサスペンションはタケガワの「SPタケガワリヤショックアブソーバ」で必要十分であろうと思います。
さらに言えばノーマルのリアショックだって、抜けていなければ かつ 街乗りなら かつ 慣れれば、なかなか快適なものだと実感しています。
しかし、サスペンション(とコンクリートミキサー車)はカヤバに限るのです。しかもタンクにKYBと書いてあるのが粋なのです。


なお、カヤバMGS−Tはサイズ的にはスーパーカブに適合しますが、倒立(タンクが下)に取り付けないとスプリングとチェーンケースが干渉します。倒立に取り付けた場合、上の写真左の傷が入っている場所にスイングアームの一部が干渉します。
私は当初、(干渉して傷がつくことを思いっきり確認した後、)ホームセンターでM10のワッシャーを買ってきて2枚重ねてスペーサーとして使っていましたが、後にお店で写真右のようなスペーサーを見つけたのでそれを使っています。
また、取り付け穴のカラーは上が内径12mm、下が内径10mmのものが必要となります。私が落札した商品には幸運にもそのサイズのものが付属していました。これが無かった場合、純正サスには外径14ミリ内径10ミリで、長さが1mm長いカラーが元々付いていますからこれを流用すればいいように思います。

さて、カヤバMGS−Tの威力はというと。
峠道では抜群の安定感です。しなやかにスムーズにコーナーを抜けて行きます。
スーパーカブには硬すぎるという評判もありますが、私にはあまり気になりません。
いや、事実硬いのかもしれませんが、サスはカヤバ、タイヤはミシュラン、クルマはジープ、ビールはヱビスじゃないと気に入らない私にとって、そして主戦場は峠のワインディングという田舎においては特に問題になりません。

リアサスがオーバースペックといえるほど豪華になった所で、フロントブレーキはやっぱり効きません。
どうもブレーキシューを削りすぎて、ドラムブレーキの特徴である倍力作用が失われてしまったようです。
左が削りすぎたシュー、右は使い古した純正

そればかりか、フロントホイールの挙動がどんどん怪しくなってきました。
ブレーキをかけるとフロントのサスは伸びますが、伸びきった後わずかながらホイールが右へねじれるのです。
最初の兆候は2ヶ月ほど前から感じていましたが、ブレーキシューをなじませると称して岡山県北峠ツーリングを敢行したあたりから急速に悪化してしまい、ついにブレーキングのたびにハンドルが右に取られるようになりました。
幸い、スピードを出した時には症状は治まります。ブレーキングの直後はどっちに向いて走り出すかわからない不安定さがあります。そんな状態で乗っちゃいけないんだってば。

これはサスペンションがヘタったのでしょうか?
それなら、おとなしく純正のフロントサスと交換するよりコレでしょう。
東京堂フロント強化スプリング

価格は純正の2割増し程度ですが、スプリングがいくらか強化されているところが魅力的です。
これを取り寄せるかたわら、フロントサスペンションの構造と傷み具合を検証しようとバラしてみました。
そうだ、ショックがヘタっているかどうか確かめるには、左右のショックを入れ替えてみればいいじゃん。
と、いうことで左右のショックを入れ替えてみました。
しかし、やっぱりブレーキング時にホイールは右に傾きます。
ホイールの傾きの原因はサスペンションの一方がヘタったからではないようです。
こりゃまた、リアサスに続いてフロントもまだまだ使えるサスペンションを交換することになってしまいましたよ。

しかもこの左右ショックの入れ替え作業の際、またもやトルクレンチを信じすぎたためにフロントクッションアンダーのボルトをナメて外れなくしてしまいました。
これを何とかするのに2時間浪費

強化スプリングの足に生まれ変わる前に、これではヨレヨレの上にボロボロです。

さて、買い直したブレーキシュー、サスペンション周りのパーツが揃ったところで改めて足回り復活作戦です。
(左から)面取り後、面取り前、純正

まず、ブレーキシューは左右、特にホイール側に当たる場所を念入りに面取りします。たまたま家にあった#80のサンドペーパーを塗装磨き用のコルクに巻いて磨き落としました。
前回の失敗に懲りてブレーキシューの両端は一切削りませんでした。

次にサスペンションのリンク周りに手をつけました。
左が傷んだブッシュ、上側が薄くなっている。右は新品。ジンマシンみたいに錆びたカラー

ホイールのよじれる原因は、この樹脂製のブッシュが磨耗して、中の穴が楕円になっているためでした。
ブッシュの磨耗した部分はグリスと練り合わさって粘土みたいになってOリングの中に詰まっています。
その原因はカラーの側にあって、水分の侵入により金属製のカラーが錆びてザラザラになっているところに、峠を攻めまくってフロントサスを酷使したためにブッシュが磨耗したということでしょう。

原因はわかりました。しかし悲しいことに原因の根本になったカラーを調達するのを忘れていました。
いらぬ部品は山ほどストックしているのに、肝腎の物はこうして忘れるものです。
(シート、リアサス、フロントサス、俵型エアクリーナー、……うぁあ。)
やむを得ず錆びてザラザラのカラーを組み付けて再度組み立てます。しばらくはこれで動きますが、おそらく数ヶ月でブッシュがまた削れてくるでしょう。

さて、試走してみます。
まず、フロントホイールのヨレは全くなくなりました。非常に快適です。
東京堂フロント強化サスの感触はたしかにいくらか硬い感じです。安定してコーナリングができますが、私の乗り方では(ブレーキ馴染ませ中のため)フルブレーキングの時にはサスはやはりフルストロークしますから、大きな差は出ません。
本当に効果を発揮しようとしたらスプリング強化ではなくダンパー強化が必要なわけですが、スポーツバイクのような前足を期待するのはコスト面から無理でしょう。
フロント強化サスが真価を発揮するのは、ブレーキシューが馴染んでもう少し効くようになってからではないかと思います。

さて、2回も買い直したキタコノンフェードブレーキシューですが、今回の対策は適切だったようで、まだ馴染まないため絶対的な制動力はないもののブレーキングの感触がかなり向上しました。もちろん鳴きも解消しました。
今のところ、1日の使い始めにドラムが冷えている間は引っ掛かりがあります。数回ブレーキングして引っ掛かりが取れると、あとは順調に走れます。先に写真で比較しているように、純正のブレーキシューと比べるとシューの面積が長さ・幅ともに拡大されているので馴染んだ後は純正より効くのではないかと期待しています。
ただ、幅の拡大がちょっと過ぎたためにシューの一番奥の端がドラム外の部分に接触してブレーキ鳴きが発生するのでしょう。

赤いフロントサス、青いリアサス

さて、フロント強化サス、リア強化サス、デイトナのタコメーター、ホンダウイングのエンブレム、見えないところでエアクリーナー拡大と、早くも私のC90は私なりに満足の域に達してしまいました。
それと同時にスーパーカブ110が登場して、若いくせに旧車の仲間入りをしてしまったのは皮肉ですが。

2005年モデルのC90を手に入れて、なんでもないはずの改造に意外と手間取ったことで、改めて気がついたことがあります。
このバイクを買った時のことを思い起こすと、
メーターは15000キロあまりを指していますが、主人の説明では、「ウチに来た時はスピードメーターのケーブルが切れとった、なので距離はクエスチョンとさせてください」という説明でした。また、チェーン、リアスプロケット、タイヤなどは新品に交換されていました。
おそらく、このバイクはメーターケーブルが切れた後、スプロケットが消耗するまで優に2−3万キロは走ったのでしょう。
私は3年落ちの新しいバイクと思いながら、4−5万キロを走りぬいたご老体を手に入れたのではないかと思われます。
ただ、店主の名誉のために言っておきますが、主人の説明は適切でした。また、各部にかすり傷はあったもののサビや汚れは少なく、機関も好調だったので、酷使もされたが手入れも十分されていたのだろうとも思います。

スーパーカブ110の発売を横目で見ながら、古いタイプの人間である私は、古いタイプのカブを後生大事に乗り続けることでしょう。
速そうに見えないクルマが速いからかっこいいのです、だからこそ通勤速なのです。

その後、フロントサスのカラーとブッシュを再び交換しました。

ピカピカの新品カラーと錆びた古カラー13ミリのソケットで打ち抜く、膝は打撲傷。

フロントブレーキのシューについては、朝一番にフロントタイヤがロックしてしまい、どーにもこーにも動かなくなる症状が続き、非常に苦労しました。

朝の出勤には、まず車通りのない川土手に寄り道して、時速20キロ超ぐらいの速度でドカンとフロントブレーキを握ります。
うまくいくとものすごいキシミ音とともにその日のフロントロック症状はなくなりますが、速度が足りないとフロントホイールが5回ぐらい跳ね回ってバイクが急停止します。失敗すればまた後方を確認してやり直しです。
こんな馬鹿なブレーキと2週間ほど付き合ってみましたが、通勤途中の大通りでいきなりフロントロックが起こって戻らなくなったりしたので、結局「削りすぎてユルユルになった」ブレーキシューに戻しました。
キタコのノンフェードブレーキシュー(SH−90N)は、私のカブにとっては直径と幅がわずかに大きすぎるという結論となりました。
効きは当たりがつけば純正よりややマシなのだろうと期待できます。
私としてはディトナプロブレーキシューの130mm対応版が出るのを待つばかりです。スーパーカブ110と共通のシューならひょっとして新製品として出るかなと期待しています。

さて、ブレーキの件が落着したところで、あらためて東京堂フロント強化サスの感想ですが、
赤いということ、改造しているという満足感に純正サスの2割り増しのパーツ代を支払う価値はあったかなと思います。
しかし、率直に言って(東京堂さんには申し訳ないが)スーパーカブのフロントサスを強化する必要は無いだろうとも思います。

中高速のコーナリングは安定していて、狙ったラインをスムーズにトレースします。その代わりに低速でヒラリと回ることは苦手になりました。もっと大きいスポーツバイクのような乗り味です。
そもそもカブのフロントサスは、リアブレーキをかけると沈み、フロントブレーキをかけると浮き上がります。
フロントとリアのブレーキをバランスよくかければ、フロントサスの特性に関係なくカブは水平姿勢を保ったまま減速するものなのです。つまり、ブレーキをかけてもサスの伸縮が少ないというのはブレーキングの巧拙の問題であって、フロントサスの強化とは無関係なわけです。
逆に、下手にフロントブレーキを強くかけてフロントサスが伸びた状態から急にブレーキを離すと、強化サスの場合急激にフロントサスが縮み、これはフロントタイヤのグリップを失う方に作用します。このオツリはフロントサス強化に伴っていくらか強くなります。
というわけで、上記の結論、スーパーカブのフロントサス(スプリング)を強化する必要は無いということになります。

まあ、それはそれとして、私はチラリとのぞく赤いサスと、スポーツバイクのような硬い乗り味には結構満足しています。
(09.07.27追記)

結局、東京堂の赤いサスについては、オツリ現象がひどくなって純正に戻すという結末になりました。
見かけるところカブのフロントを強化できる唯一のアイテムだっただけに残念です。
(09.10.25追記)

「なべのさかやき」目次に戻る