山よ、なぜそこにあるのか。(後編)

-日本列島を支える大きな力について-


これまでのあらすじ
前回のお話は、先を急ぐあまり、まとめを欠いていたような気がしますので時系列でこれまでのおさらいをします。

中国地方の岩石は、古生代から中生代にかけてに太平洋の海底で降り積もった堆積物(堆積岩)、およびそれが高圧で変成したもの(変成岩)、また高温で溶けてしまったもの(深成岩…深成岩の材料には諸説あり)がベースになっています。
古生代のものはプレート運動により長い間かけて押し寄せてきたものなので、「ここ」で堆積したものということはできません。

これらの中国地方をなす岩体で一番古い塊が日本列島に付加したのは中生代ジュラ紀といわれています。約2億年前、世界では恐竜が闊歩していた時代でした。
次の白亜紀になると、岡山県のベースになる塊はできていたと思われます。岡山県南部にあたる場所には富士山級の巨大な火山があって、盛んに噴火しており、一方で瀬戸内地方や津山市加茂町北部にあたる場所では地下のマグマがゆっくりと冷え固まって大きな花崗岩の塊となりました。これが約1億年前になります。
花崗岩の形成は新生代になっても続いていて加茂町南部や那岐山の下にある花崗岩は新生代のものです。

その後、我らが那岐山を形作る火山が噴火します。
当時の那岐山はどこが噴火口だったかもはや定かではないのですが、那岐山を形作るものと同時代の流紋岩・安山岩は現在の那岐山系から北へ、美作河井駅のあたりにかけて分布しています。これが5000万年ほど前の状態です。

そして再び水の時代がやってきて、津山盆地にあたる場所には古津山海と呼ばれる暖かい海が侵入してきます。
これが1600万年前ぐらいだったと考えられています。同時期に黒岩高原から高清水高原にかけての、今は玄武岩台地になっているあたりは削られて海面近い標高の平原になったものと思われます。(この推測は私がそう思っているだけで根拠は見つけていません)従ってその上に何が乗っかっていたのかは今となっては謎です。

こうして平らに削られた黒岩高原〜高清水高原は、約500万年前ぐらいから活発化した火山活動で玄武岩の台地になります。玄武岩質の溶岩は横に流れて平たい台地を形成する傾向があるので、ここに幅広い玄武岩台地を形成しました。
この火山活動に続いて、180万年前から50万年前にかけては蒜山や古期大山が噴火しており、5万年前から1万年前には現在の大山が噴火しています。そういう意味では現在もこの火山活動は続いていると言っていいでしょう。

地質年代表抜粋(下に行くほど古い)
細分類始まり津山地域に関するできごと
新生代第四紀完新世1万1700年前
更新世258万8000年前蒜山・古期大山・大山の噴火(180万年前から)
新第三紀鮮新世533万2000年前男女山・人形峠玄武岩の噴出(約500万年前)
中新世2303万年前津山海が広がる(1600万年前前後)
古第三紀漸新世3390万年前
始新世5580万年前那岐山の火山岩が噴出
暁新世6550万年前加茂南部の花崗岩が形成される
中生代白亜紀後期9960万年前津山市以南の流紋岩、加茂北部の花崗岩が形成される
前期1億4550万年前
ジュラ紀1億9960万年前岡山県付近の古生層が日本列島に付加される
三畳紀2億5100万年前エントモノチス(三畳紀後期、約2億年前)
古生代ペルム紀2億9900万年前
石炭紀3億5920万年前
デボン紀4億1600万年前
シルル紀4億4370万年前
オルドビス紀4億8830万年前
カンブリア紀5億4200万年前

火山活動と平行して、県境近辺は約1000m隆起して中国山地のテッペンを形成しました。
中国山地のテッペンは、意外と最近になって形成されたというところに私は注目しました。
「山よ、なぜそこにあるのか。」と問いかける時、山を形成した力は今なおそこで活動しているのかもしれません。いや、今そこにあるはずなのです。

アイソスタシーとは
前回、陸地というのはマントルの上に浮かんでいるという概念図をお示ししました。
これはちょうど氷山が海面に浮いているようなもので、高い陸地は下にも深く沈みこんだ根を持ち、低い陸地はその根も浅くなっています。
地殻を載せているマントルというのは、岩石の一種には違いありませんが金属イオンを多く含み、そのせいでかなり比重が大きい物質でできています。また、マントルは岩石のくせに非常に大きい圧力の中で極めてゆっくりと流動する性質を持っています。(以前作ったスライムのように、叩くと割れるが放っておくと流動する)この流動性も金属イオンが多いせいでケイ酸の結合がゆるやかであるためでしょう。
マントルが比重の重い岩石でできていて、しかも流動性があるために、陸地は氷山のようにその上に浮かんでいるのです。

さて、学生時代に私が南極大陸の地図に読みふけっていると、奇妙なことに気がつきました。
南極大陸の標高はおおむね2000mぐらいありますが、氷床の厚さを示す地図によると、氷床はおおむね3000mぐらいあるのです。あれっ?南極大陸の氷がなくなってしまったら、そこは大陸ではなく、せいぜい南極諸島と言えるものしか残らないでしょう。
そこのところを助教授(当時)に尋ねたら、「君はアイソスタシーについて知っているだろう」と即答されました。
南極の氷床がなくなってしまえば、沈み込んでいた陸地は再び浮き上がり、数万年かけて再びそこには大陸が出現するわけです。
現にスカンジナビア半島や北米大陸の一角ではそういう浮き上がり現象が進行中で、複雑な海岸地形を形作っています。
そのことを説明する図がどこかにないかなと思っていたら、なんと中学1年生の教科書に載っていました。
「南極の氷は分厚いなあ」ということを表したいのでしょうが、この図にはもっと深い意味があるのです。
この図では海面下1000mぐらいのところに大陸と書いてありますが、まさにその場所に氷によって押し沈められた大陸が存在しているのです。

このお話になぜアイソスタシーが関わってくるかお解りいただけたでしょうか。
陸地というのは案外不安定なもので、この地球上にプカプカと漂っているものなのです。(長い時間の目で見れば…ですが)そして山の高さというのは、その根の深さと関連があり、根がないものがむやみと浮き上がることはなく、理由があって押し沈められたものも重しが取れれば再び浮き上がる、絶妙なバランスの上に成り立っているのです。

アイソスタシーを訳すと、地殻均衡ですね。
山が存在するところに均衡があり、均衡が破られる時に山が造られる。そう言ってしまえばかっこいいですが、そればかりでないところがあるのも地球科学の妙味です。

日本列島を支える力
アイソスタシーの説明では、地殻の厚さによって山(陸地)の高さはおのずと決まってしまい、そうそう変動しないようにも思えますが、地球は生きています。そう単純なものではありません。

1.地殻同士のぶつかりあい
高くけわしい山脈が形作られるところでは、陸地同士の激しいぶつかり合いが起こっている場合もあります。
ヒマラヤ山脈やヨーロッパのアルプス山脈などがそうです。
アフリカ大陸の東部では今でも陸地が裂けて新しい地殻が形作られているのですが、その裂け目が広がってインド(デカン高原)をアフリカから分離させ、ユーラシア大陸に押し付けました。
インドがユーラシア大陸に押し付けられて盛り上がったのがヒマラヤ山脈です。
一方でアフリカ大陸がヨーロッパに押し付けられて盛り上がったのがアルプス山脈です。
このように、大地が盛り上がる理由のひとつには、地球規模で陸地が動いてぶつかり合い、その結果山脈が盛り上がるという場合もあります。

2.堆積物が積もって盛り上がる
日本列島近辺はユーラシア大陸を載せているユーラシアプレートの下に太平洋プレートとフィリピンプレートという、2つの海のプレートが沈み込んでいる場所にあたります。
海洋プレートが沈み込むところでは、海底に堆積したものがまるでベルトコンベアーの荷物みたいに陸地側に付加していきます。高知県や和歌山県の海岸を訪れてみると、折れ曲がった堆積岩の地層がどこまでも続いていて、まるで目の前でプレートが押し寄せてきているのを見るような不思議な気持ちになります。
こうしてプレートの上に載っているものが増えると、アイソスタシーの働きにより次第にそこは海から盛り上がり、山脈を形成します。私のイメージでは四国山脈や紀伊山地はそのようにして形作られたのだと思います。

3.地下深くにおける付加現象
では中国山地は?
フィリピンプレートからかなり遠ざかった中国地方は、徐々に侵食が進むことはあっても盛り上がる力はないのではないかと思うでしょう。

プレートの沈み込みは工場のベルトコンベアーのように精密な仕事をするわけではなく、海の底の堆積物をいくらか引きずりこんだまま沈んでいきます。そしてそれが地下50kmとか70kmに達したところで周囲のプレート(玄武岩)や上に乗っかっている陸地を巻き込んで融け、マグマを作ります。
地下深くだから熱い、熱いから融けるという単純な図式ではなく、逆に地下深くでは圧力が非常に大きいため、少々の温度でも岩石は融解しない環境になっています。
そんな環境で岩石が融ける条件は、圧力が部分的に小さくなること、または水分が存在することです。
海洋プレートの沈み込み部では、プレートの沈み込みの時に堆積物が海水の成分を閉じ込めて沈んでいますから、かなり深くなってから融けはじめる塊が生じることがあります。

こうしてできたマグマが大山・蒜山を作ったり、黒岩高原や高清水高原を作ったり、男山・女山だったりするわけです。美作三湯もその副産物です。
こうして地下にできたマグマ(及び引きずり込まれた付加体)は、日本列島に下側から付け加わり、大きな深成岩の基盤を作り、アイソスタシーの働きにより陸地を浮き上がらせる浮力となります。

太平洋から遠く離れた中国山地がぐんぐん浮き上がっているのはそういう力によっているのです。そして日本海側に火山や火山の痕跡が見られるのも、こうした働きのひとつの証拠となっているのです。

あるアマチュア地学者の推論
ここまでは地学の一般論です。ここからは事実を交えながらも私の個人的推論であることをお断りしておきます。

これまで述べたようなことを勉強しているうちに、気になったのは、中国山地の約1000mの盛り上がりはおおむねこの500万年のうちに起こったことであるということです。
500万年は長いようですが、地球の歴史45億年、日本列島ができ始めてから2億年に比べたら非常に短い期間です。
この500万年がなかったら中国山地の盛り上がりはなく、津山盆地より北側は海か、せいぜいなだらかな平野だったと考えたら、その時、日本列島にとって何か重要な変化が起こったと考えざるを得ません。
それは何だったのか、山をそこに出現させたのは何の力だったのでしょうか。

500万年前に起こった事象のうち、私の見つけた最もそれらしい現象は、地球のほぼ反対側、南極大陸の氷床が発達し、大陸全体が分厚い氷に押し沈められたという事件でした。
南極大陸は常に南極にあったわけではなく、もっと低緯度にあって暖かい土地だった時期もあります。
プレート運動による大陸の集合・離散のうちにたまたま南極に位置してしまい、現在氷漬けになってしまっているだけです。

一方、プレート運動をひも解くと、現在の南極は地球全体にとって非常に特殊な位置づけにあることがわかります。
上の図はプレート理論に従って、陸地を黒の線、地殻が新しく作られる部分を赤の線、地殻が沈み込む部分を青の線で表した図です。(ごくごく略図です。)
ざっくり言って、南極の周りに赤の線がほぼ一周し、太平洋、大西洋、インド洋の中央も赤の線が走っています。
そのしわ寄せを受けて沈み込みが起こっているのは太平洋の周辺部、そしてヒマラヤ山脈です。
太平洋の周辺部は環太平洋造山帯といって、火山や地震が多く分布し、活発に山や島が造られています。そして日本はその環太平洋造山帯に位置しています。

この地図を見て南極の周りが特殊な状況になっていることがお解りでしょうか。
普通の世界地図では南極が引き伸ばされて正しい状況がわかりにくいので、南極を中心とした世界地図にこの赤青の線を描きなおしてみましょう。
これがその図ですが、南極を中心に地球の表面が引き裂かれつつあることがわかります。
このひび割れが、1億8000万年ぐらい前にあったゴンドワナ大陸を引き裂き3つの大洋を成立させ、今でも広がりつつあるのです。

なぜこのひび割れが生じたかというと、それ以前のいっとき、地球上の全ての大陸がひとかたまりに集まってしまって、パンゲア大陸という超大陸を作っていました。
陸地というのは高温の地球の中心から上がってくる熱を放熱する障害になります。そして大陸の下に熱が溜まるとマントルの対流が上向きに変わってそれを放熱しようとします。
パンゲア大陸はこうして引き裂かれ、ゴンドワナ大陸(南極・南米・アフリカ・オーストラリア・インド)とローラシア大陸(ユーラシア・北米)に分裂しました。それでもマントルの上昇は収まらず、ゴンドワナ大陸はさらに引き裂かれ南極大陸と南米・アフリカ・オーストラリアの大陸に分裂してしまったのです。

さて、朝晩目の前の山を見上げていたお話が、大風呂敷になってついにゴンドワナ大陸にまで達してしまいました。
大陸の下に熱が溜まるとマントルの対流が変わり、地球全体に及ぶ異変の引き金になります。そして最後の大きな異変は南極大陸を中心としたもので現在も進行中です。そして、たったの500万年前ですが、南極大陸に氷床が発達して、その異変の中心をポチッと3000mほど押し込んでしまったのです。
中国山地に500万年前から起こっている活発化の原因を探してきた私は、ひょっとしてその「ポチッ」がマントル対流に影響を及ぼし、環太平洋造山帯の活動を活発化させ、その影響で中国山地の地下にマグマを生じさせて中国山地の隆起を引き起こしたのではないかと、そういう推測に至りました。
地球は生きています。非常に緩慢にですが鍋のスープのようにぐらぐらと煮えたぎっていて、ちょっとしたきっかけで鍋全体の流れが変わってしまうものなのです。

ところで今、南極大陸を覆っている氷床は急速に縮小・崩壊しています。
私のいう、南極大陸を「ポチッ」と押した指が急速に離されつつあるということです。

ひょっとしてに重ねてもしですが、南極大陸から氷床がなくなってしまえば、地球の大きな時計が逆向きに回って、我らが中国山地を盛り上げた力はなくなってしまうかもしれない。そういう風にも私には思えるのです。
そうなれば「日本は沈没する。」こともありうるのでしょうか。田所博士!

中国山地はアイソスタシーによって浮いているので急速に沈没することはないと思いますが、環太平洋造山帯の沈み込みが弱まれば火山活動がない時代がやってきて、次第に山は削られて低くなり、古瀬戸内海のように海が侵入してきて、長い時間をかけて日本列島の大部分が海没してしまう、そんなこともまんざら起こらないでもないと考えられるのです。

独坐大雄峰、見つめ続けた私はついに日本沈没を予見するに至りました。
悠久にして躍動する大地、その未来を変えるのはもしかして人間の活動なのではないでしょうか。

4月21日のRocketNewsにこんな記事が出ていました。
地震の原因か? 気候変動が地球のプレートに及ぼす影響
地震と地球温暖化。どちらも私たちに重大な影響を及ぼす現象だが、最新の研究でこのふたつが密接に関わっていることがわかったそうだ。長期に及ぶ気候変動が地殻変動の原因となっている可能性があるというのだ。

オーストラリア、ドイツ、フランスの共同研究チームが明らかにしたところによると、1000万年の長きに渡るインドプレートの動きとインドに激しい雨をもたらすモンスーン(季節風)には関連があるとのこと。「モンスーンによる雨量の増加が、インドプレートの動きを年に1センチメートルほど速めています」と、チームを率いるイアファルダーノ博士は語っている。

「プレートが変動することにより山脈や海溝が形成され、気候の変化にも影響を及ぼすということは以前から知られていましたが、その逆も起こりえるのです。つまり、気候変動がプレートの動きに変化をもたらすということです」とのこと。

研究者らは、今回の発見が今後起こりうる大地震の予測に役立つことを期待している。「プレートの動く強さがある域まで達するとプレート境界部で地震が発生します。そのため地震を予測するには、プレート変動を起こしうるあらゆる可能性を調べる必要があります。そういった意味で今回の研究結果は、気候変動がプレートの動きに影響を与える可能性を初めて示した重要なものとなりました」と、博士は自信を覗かせている。

博士はこの結果を、過去の地殻変動の分析にも利用できると考えており、そのためにもさらなる気候変動の研究を行っていくとのこと。

「気候や地殻の変動自体が長い年月をかけて進行するものなので、地球温暖化が進んでいるからといって、今回の研究が今後の地震の多発を予測しているわけではない」とのことだが、いずれにしても、今までに考えられてこなっかた新たな説として今後注目を集めそうだ。

参照元:Mail Online(英文)
探してみると朝日新聞にも4月17日の記事に取り上げられていますね。
元の英文に当たってみると朝日新聞にはささやかな誤訳があるようです。

朝日新聞では、
ANU地球科学研究学院のジャンピエロ・ヤファルダノ博士は、仏独の研究者らと共に、過去1000万年以上のインドプレートの移動と、この間のインドの雨量増加との関連をコンピューターで解析。インド北部で年400ミリ降雨が増えたことで浸食が増し「滑りやすくなった」(豪誌)結果、プレートの移動速度が年1センチ近く増したとの結論を得た。
となっていますが、降雨の増加は4000ミリです。そして「滑りやすくなった」というのは誤解を招く表現ですね。
ざっくり言って、インド北部が多雨なためヒマラヤ山脈から大量の土砂が削り取られ、ヒマラヤ山脈が軽くなることでそこに押し寄せるプレート運動のベルトコンベアーががスピードアップしたるわけです。

プレートの上に載っかっているものが気象現象によって増減することにより、プレート運動に変化が起こるというのは私の主張と一緒です。
ただ、私の主張は南極の氷床が成長することでプレート運動が加速されたのではないかという(特段根拠のない)主張です。
ともあれ、地表の気候変動と地下のプレート運動は相互に影響しあうというのは本当だったようです。
(11.04.22追記)

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