搬送ロボットカーの製作
    −動力変換機構の系統的指導−

1.はじめに
機械領域においては,機械の運動変換とその仕組みについて系統的に把握させることにより,機械の一般的な概念について理解させることが重要である。そのためには,機械の発達の歴史をふまえた基礎的事項の学習,製作活動を通した総合的,発展的な学習が必要であると思われる。そこで,技術史を取り入れた指導方法の研究,および理論学習と結びついた製作題材の開発を行った。

2.技術史の学習

人間は人力,畜力,水力としだいに大きな動力(機械的な仕事をさせるのに直接利用できるエネルギー)を獲得してきたが,その前提条件となるのは歯車を始めとする機構の発達であった。授業プリントや機構模型を用い,道具から機械への発展過程の中で機械の概念を理解させることを試みた。
「ピラミッドなどを作った古代エジプトの人々はどうやって重い石を運んだのでしょう。」といった発問で,技術史の授業が始まる。古代の人間は,てこや斜面などを利用することにより,人間の限られたエネルギーを最大限に活用した。ギリシア人ヘロンの五つの単一器械(simple machine)もまた,てこあるいは斜面の応用である。しかし,道具から機械へと発展するのは回転装置が現れてからである。回転装置の例として,まいぎり式の発火装置を取り上げ,実際に生徒達に使用させた。
 その後,プリントによりヨーロッパの引き臼の変遷を知らせる。回転式の引き臼の出現により,人間の力は単なる動力源となり,畜力,水力といったさらに大きな動力を獲得していくことができるようになるのである。
 水車はもともと水平型であったが,歯車の発達により,垂直型の水車となった。垂直型の水車は水平型に比べ効率がよく,また歯車によって速度の調整ができる。この原始的な歯車を理解させるために,木材とダボで作ったかさ歯車の模型を見せた。これは円形の木材の周囲に穴をあけ,放射状にダボをはめ込んだものを2つ作って組み合わせたものである。いろいろな機構の発達により,中世ヨーロッパや日本の江戸時代において,水車は一般的な原動機となっていたことを知らせたい。
 製作学習の導入として,からくりによる茶運び人形,ポケットコンピュータを用いた搬送車をとりあげた。からくり人形はお茶運び人形の復製品をまねて作ったものである。からくり人形(自動人形automata)はいわゆるロボットの先駆形態であり,生徒達に江戸時代の先人の知恵の偉大さを知らせる絶好の教具であると思う。また,その現代版として,ポケコン搬送車で同じ動きをさせて見せた。
 ポケコン搬送車はポケットコンピュータ(PC1245)でモーターを制御するもので,インターフェイスはトランジスタでリレーを駆動する簡単なものである。マイクロスイッチの上に荷物が置かれると,ポケコンの入力がONになり,プログラムによって左右の車輪が逆の方向に回転する。 180度回転したところで片方の右側の車輪が反転し,搬送車は前進を始める。そして,荷物が持ち上げられて,入力が 0FFになるまで前進を続ける。プログラムは BASICと一部に機械語を用いて作成した。

3.機械材料の学習
題材の搬送ロボットカーのシャーシーは厚さ1mmのアルミ板を加工して製作する。また,ねじりばねはピアノ線を用いて生徒に製作させる。機械の題材には金属材料をぜひ使いたい。現教育課程では,機械を履修させた場合,金属加工を履修させることは難しい。できれば機械領域の中で,金属加工のエッセンスを教えたい。せめて,弾性,塑性,加工硬化,疲労破壊といった基本事項はおさえたいと思う。亜鉛鉄板の小片を配れば,実際に全員が実験をすることができる。加工硬化などは,クリップを伸ばしたり,ハンマーでたたいた針金を曲げたりするだけで確かめられる。
ロボットカーの製作の中では,けがき,穴あけ,切断,折り曲げといった作業を体験させることができる。

4.搬送ロボットカーの製作

これは荷物を置くとマイクロスイッチが閉じて前進し,荷物を取ると止まる搬送車である。カムの働きで自動的に方向を変えて,元の位置にもどってくることができ,一種の固定シーケンスロボットと考えることができる。市販されているキットの中にも茶運び人形のような動きをするものがあるが,それはモーターを2つ使い,カムでスイッチをON-OFFさせるものである。このロボットカーではひとつのモーターで動力とかじとりを行うようにした。ギヤボックスには2軸出力のユニバーサルギヤボックス(タミヤ)を用い,動力はプーリーによって後輪に伝えている。
この題材には,平歯車,ウォームとウォームホィール,カム,平行リンク,プーリー,ねじ,軸受け,ねじりばねといった機構,機械要素が含まれている。これを教えるだけでも機械領域のかなりの重要事項が指導できるのではないかと思う。知識の学習と製作活動を有機的に結びつけた指導が可能である。
ロボットカーの動きは部品の取付け位置のわずかなずれによって変わってくる。したがって,元の場所にもどってくるようにするには,カムの形状を各自で工夫しなければならない。また,各部品がスムーズに動くように微妙な調整も必要になる。組み立てはさほど難しくはないが,正確な動きをさせるためには発展・応用的な力が要求される。ただし,ギヤボックスの歯車が噛み合わない場合などは,教師がギヤボックスを少しラジオペンチで変形してやるなどの手助けをすることが必要だろう。

5.おわりに
 出来上がった作品は,工作台を並べたテストコースでテストを行った。コースに張られたビニルテープに得点を書きこんでおき,元の場所まで荷物を運んだロボットカーには10点満点を与えることにしている。テストは何度挑戦してもよい。ほとんどの生徒は,リーマで穴を広げたり,グリスのスプレーをかけたりするなど,10点の動きができるまで調整を繰り返した。
 この実践は男女共学の半学級で指導を行った。男子も女子も意欲的に製作に取り組み,すべての生徒が作品を作り上げた。「女子だから製作が簡単なキットを」という発想はやめたいと思う。

前のページへもどる