職業科(昭和22〜25年)
1.職業科の発足
「教育刷新委員会」(昭和21年〜)
第一次米国教育使節団の勧告を受け継ぎ、日本の教育改革の具体化を審議するため、内閣直属の委員会として発足。この委員会で下級中学校(現在の中学校)に「職業科」を新設することを決定した。職業科のねらいは勤労愛好の精神を養うことにあるとし、また職業指導的意義をもつ教科と規定した。
「職業教育並に職業指導委員会」(昭和22〜)
文部、厚生両省の協力により、産業再建の基礎を培う職業教育並びに職業指導の刷新を図ることを目的として発足した。この委員会は五部会から成り、学校における職業教育について審議した第二部会は、「新制中学校における職業科教育」について答申し、職業科の目標を次のように定めている。
(1)日本再建の基礎となる産業の発展につくそうとする熱意をもつようになる。
(2)社会生活における産業の意義を理解し、これを尊び、これに心身を打ち込む態度が身に付く。
(3)将来向こう可能性の多い職業の基礎となる知識・技能が精確に身に付く。
(4)すべての職業の基礎となる知識・技能の大体をも身に付く。
(5)物を大切にし、その働きを活かそうとする熱意を持つようになる。
(6)事実実物に即して工夫する態度が身に付く。
(7)真理を探求して、それにしたがおうとする態度が身に付く。
(8)日常の実際生活に必要な知識・技能が身に付く。
(9)経済生活の基礎となる正しい見方・考え方が身に付く。
(10)いろいろな職業を理解する。
さらに、第二部会、第五部会(職業指導)は、合同で「新制中学校の職業科について」答申を行い、次の三項を加えている。
(1)職業人としての個性の自覚および伸長をはかる。
(2)自己を省察し、職業を選択する能力を高める。
(3)適切な職業相談、紹介斡旋、補導をうける。
また、職業科の取り扱い上の根本方針として次の点をあげている。
(1)職業科の教育は、職業に関する一般陶冶でなければならない。
(2)職業科の実習は単なる職業訓練ではなく、試行課程(トライ・アウト)としての性質をもっていなければならない。
(3)職業科はその内容として将来の進路決定に役立つような多面的な職業への準備が計画されていなければならない。
学習指導要領職業科工業編
(試 案)
ま え が き
中学校の職業科について
人が社会の一員として,その社会の発展のために力を合わせることは,まことに欠くことのできないところである。このような社会の発展への協力を具体的に考えると,職業生活はじつにたいせつな意味をもっている。人は職業の社会生活における意義と貴さとを自覚し,これに必要な知識や技術を身につけ,そうしてそこに自らのあらん限りの力をつくして忠実にこれを営むことで,りっぱな職業人となり,これによって社会の発展に協力することができるのである。だからこれから,このようなよき社会の一員とならなくてはならない青少年に対して,勤労の精神を養い,職業の意義と貴さとを自覚するようにし,また職業を営むために必要な基礎的な知識や技術を身につけるようにすることは,教育の大きい目標とならなければならないのである。
このように,職業についての教育はきわめてたいせつであるが,ただこのような教育が効果をあげるためには,青少年が職業というものについてある程度の経験をもち,またこれについて理解し習得する能力の発達が,ある程度とげられていることを条件とする。このような点から,職業科が中学校でばじめて課せられることになったのであるが,なお中学校の生徒は義務教育の修了によって社会に出ていって,職業につくべき時を間近にひかえていることも,この教育が中学校でなされる一つの理由なのである。
しかし一方からいうと,中学校の生徒でもその将来の職業として何を選ぶかという志望は,一部分をのぞいてはなおきまっていないのが普通であるから,ここであるきまった職業についての特殊の教育をすることは適当ではない。そこで,中学校の職業科は,まず生徒が勤労の態度を堅実にすることを第一のたてまえとし,さらに職業生活の意義と貴さとを理解させ,将来の職業をきめることについて,自分で考えることのできるような能力を養うことを主眼とし,そうして,将来の職業のある程度きまっているものや,ある仕事を特に希望するものに対しては,この上にやや専門的な知識や技術を学ばせるようにすべきであろう。必修教科としての職業科は,この前の趣旨により,選択教科としての職業科は,おおむねこの後の趣旨によって設けられたのである。
中学校の職業科は,このような目標をもっているのであるから,ただある種の観念や知識をあたえるのでは不適当である。どこまでもぢみちな仕事をとおして生徒の経験の基礎をかため,どうしたら仕事がうまくいくか,どういう態度が必要か,どういう考え方がたいせつかといったことをつかませることが,最も肝要である。そうして,その上に広く職業についての展望をもつように導く要があるのである。
さて,かようにして中学校の職業科は,生徒がその地域で職業についてどういう経験をもっているかを考え合わせて,農・工・商・水産の中の一科──時としては数科──を選んで,これを試行課程として,勤労の態度を養い,職業についての理解をあたえ,その上にいわゆる職業指導によって,職業について広い展望をあたえるように考えられたのである。この行き方については,新しく加えられた家庭科も同じように考えらるべきである。これは女子のみが修めるべきであるとも,また女子にのみ必要だとも考える要はないのである。
これら農・工・商・水産・家庭の教科と職業指導とをどのような関連で課すかについては,次のような場合が考えられる。
(1)農・工・商・水産・家庭の諸教科と職業指導とを適当に融合して指導する場合。
(2)農・工・商・水産・家庭の教科と職業指導とをそれぞれ別課程にして,一定の時間をこれに配当して指導する場合。
(3)職業生活に関する社会科の単元を指導するに当たって,職業指導の学習指導要領を参照し,これを補って指導し,農・工・商・水産・家庭の諸教科はこの指導と関連をたもちながら別にこれを指導する場合。
これらはその地域の事情に即し,生徒の実情に即し,学校の実情によってどういう関連で指導するかを校長の裁量によって決定してもらいたい。
以上述べたのは必修教科としての職業科の指導についてである。選択教科としての職業科は,まだ志望の決定しない生徒でも特に必要や興味を感じた事がらを選択したり,将来の志望がある程度決定した生徒がその方面の事がらを選択したりして,多少とも専門的な知識や技術を学ぶようにしたい。この場合にも実習を中心として,いつも身をもってこれを学んでいくようにすることがたいせつである。
教師は以上のような職業科の一般目的をよく理解して,他の教科との関係と,それぞれの指導要領の趣旨とするところをよく考えて,この教科を設けた目的を達するように努められたい。
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