職業科及び家庭科〜職業・家庭科(昭和26〜31年)
1.家庭科の分離
家庭科が職業科の一教科として置かれたことは妥当でないとする、家庭科関係者の強い要望から、家庭科の分離が文部省とCIEの間で了解された。昭和24年の「新制中学校の教科と時間数の改正について」の通達により22年の学習指導要領が一部改正され、「職業科」は「職業及び家庭科」となり「家庭科」が独立した。また、この通達は職業科と家庭科の実習を啓発的経験(試行課程)とみなすと規定している。
しかし、この改正は実施する段階にはいたらなかった。
2.職業・家庭科の発足
昭和22年の学習指導要領は暫定的なものであったため、完成後まもなく改訂作業が行われた。昭和24年の文部省通達「職業・家庭科大綱」は、「職業及び家庭科」を「職業・家庭科」という教科に改称することを定め、昭和26年の学習指導要領の骨子となった。
昭和26年版の「学習指導要領 職業家庭編」では職業・家庭科の基本的性格を次のように定めている。
(1)中学校に置ける職業・家庭科は実生活に役立つ仕事を中心として、家庭生活・職業生活に対する理解を深め、実生活の充実発展を目指して学習するものである。
(2)職業・家庭科の仕事は啓発的経験の意義を持つとともに、実生活に役立つ知識技能を養うものである。
(3)職業・家庭科の教育内容は、地域社会の必要と学校や生徒の実情によって特色をもつものである。
中学校学習指導要領
職業・家庭科編
(試 案)
ま え が き
この学習指導要領は昭和22年度に発行した数冊からなる職業科の学習指導要領の改訂版である。この学習指導要領の第一章の「性格」のところでも述べているように,「職業・家庭科の教育内容は,地域社会の必要性と学校や生徒の事情によって特色をもつものである」から,この教科は他の諸教科と違って,ただ1種類の学習指導要領で,全国の各学校に直接役だつようなものをつくることは困難である。
そこで,昭和22年度に発行した学習指導要領においては,職業科の中に,農業・工業・商業・水産および家庭という五つの科目を設け,各学校の男女の生徒は,その1科目または数科目を決めて学習することにした。そうして,それぞれ独立の体系をもつ5種類の学習指導要領を作成し,さらに,職業科・社会科その他特別教育活動などにまでまたがる職業指導の学習指導要領も作成したのである。
しかし,実際にはこの一つ一つの指導要領が,それぞれ独立の課程の性質をもっていたので,どれか一つを決めて,それを多少修正する程度で間に合う場合にはよかったが,一つの中へほかの科目の要素を多分に取り入れたり,二つあるいはそれ以上の科目を合わせて一つの体系を新しく作るような場合には,とかく,農業・工業・商業・水産・家庭などの体系にとらわれて,不必要な重複やすきまができ,地域社会の必要と学校や生徒の事情に適合する能率的な学習指導計画を立てることが困難であった。
このような欠点を除くため,この学習指導要領においては,まず,職業科の中の農業・工業・商業・水産・家庭の分立を廃して一つの教科とした。そうして,教科の名称を「職業・家庭科」と改めたのである。
農業・工業・商業・水産・家庭がそれぞれ独立の体系をもっている場合には,おのおのの伝統的な範囲と順序があり,他の教科との関係も社会通念によって一応はっきりしていたわけであるが,これを一つの教科としてまとまったものにするためには,新しい立場に立って,中学校の教育課程の全体の中におけるこの教科の位置をはっきりさせる必要があった。そこでこの学習指導要領においては,中学校教育の目標と教育課程全体とを勘案して,この教科の性格と目標とを明らかにした。
次に,この教科に含まれる教育内容のすべてを細かに分析して掲げ,各学校がその中から地域社会の必要と学校や生徒の事情に応じた内容を選んで課程を作ることができるようにしたのである。しかし,この教科の性格と目標とに照して最低限度に満たさなければならない必要条件はあるわけであるから,それを「教育計画の基準」として掲げることにした。
各学校は,これらの教育内容の中から,その学校に必要なものを自由に選び出して課程を作成し,その結果が教育計画の基準として掲げた必要条件を満たしていれば一応よいわけであるが,それだけで望ましい計画ができたとはいえない。そこで,この学習指導要領では全国の各学校がその学校の実情に合った望ましい学習指導計画を立てる上の参考に供するため,いくつかの異なった環境を想定し,具体的な学習指導計画を例示することにした。
しかし,これらの例は,具体的な学習指導計画とはいっても,実在するある学校について実際に調査を行って作成したものではないし,また,課程の編成や,単元の構成・展開についてもなお研究を要する点も少なくないので,各学校においては,この程度のものに満足することなく,いっそうすぐれた学習指導計画を立案されることを望んでやまない。ことに,都市工業地域の教育計画の例のごときは,なお,種々の問題が残されており,今後の研究が要望される。
この学習指導要領は新しい試みであって,なお,じゅうぶんな研究を必要とする点も多いと思われるが,教育実際家からの強い要望もあるので,とり急いでこの試案を発表することを適当と考えたしだいである。今後もこの研究を続けていきたいと考えるので,この案を実施した結果に基く教育実際家の率直な批判と有益な忠告を期待するものである。
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