向山洋一教育実践原理原則研究論文/ 各学年 /学級経営          

 「誰がやったかわからない事件」に取り組む 

  岡山県津山市立北小学校    岡田健治

 4月末から5月にかけて、「問題行動」の発生により軌道に乗ったはずの学級経営に陰りがさすことがあります。しかし物は考えようで、こうした試練を乗り越えてこそ「本物」とも言えるのではないでしょうか。
そこで、本ミニ特集では、トラブルが発生したとき、どのように解決したかを具体的にお示しいただくことにしました。
     ◆      ◆      ◆
 ある年、私は6年を担任していた。5月末のある日、私が職員室で次の授業の準備をしていると、大勢の男子が慌てて私の所に来て、こう言ったのだった。「先生、A君の靴が片方ありません!」
草むらや下駄箱の後ろ等、皆で必死に探す。10分後、A君の靴は、PTAの意見箱の中から発見されたのだった。
 まさか「靴かくし」が、自分のクラスで起きるとは思いもよらなかった。私は、狼狽した。
 教室で私は、「A君の靴が何者かによって、隠されたようです。このクラスのみんなを先生は疑っていません。でも、何か知っていることがあれば、先生に教えてください。」と言った。こうした、全体指導で解決するだろうと私は考えていた。
 しかし、「靴かくし」は、またも起こった。今度は、B君。それからC君。またB君。今日はD
君。またまたB君。執拗に繰り返された。隠されるたびに、私は、子ども達と必死に靴を探した。やがて、子ども達の中に、(お互いにやっているんじゃあないだろうかとか、捜し当てた子が、犯人じゃあないだろうか。)といった疑心暗鬼が広がった。 しかし、私は、「子どもを疑ってはいけない。」という向山先生の言葉を思い出し、子どもを信じ続けた。
 やがて、隠される被害者は、隣のクラスまで波及し、挙句の果てに焼却場から無残な姿で出てくることもあった。こんな暴挙は、前代未聞であった。
 そこで、6年生全員を体育館に集めて、学年指導をすることにした。私は、被害にあった子どもに出て来てもらい、その時の気持ちを語らせた。そして、「6年全員で何物かから靴を守ろうと」
と括った。これでもう大丈夫であると私は思ったが、またまた起こった。私のクラスのE君である。もう、万事休すである。
 そこで私は、教室のロッカーを整理し、靴を教室で管理することにした。
 こうなると、全く隠されることはなかった。こうして、夏休みを迎えた。そして、二学期となりまた、靴箱を使う事とした。すると、F君の靴と隣のクラスのG君の靴が無くなったのである。 
 たまりかねて、私は向山先生の次のような言葉をポスターにして下駄箱に掲げてみた。 

 誰も見ていないと思っても、自分自身と神様は見ているのです。

 そして、「人の靴を取るのは犯罪行為です。卑怯なまねは絶対しないようにしよう。文責 岡田 」と付け加えた。
 それと同時に、被害にあった彼らが皆、スポーツ少年団に所属するサッカー好きなやんちゃ坊主であることから、次のように指示した。「誰か、遊びに入れないなど辛い思いをしている子がいないか気を配ってあげなさい。」
 それからは、ぱったりと「靴かくし」事件はなくなり、靴箱は平穏をとり戻したのだった。
 犯人捜しはしなかったし、今だに誰が犯人か不明だが悪夢のような事件は、終結したのである。


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詳しくは、向山洋一教育実践原理原則シリーズ(明治図書)向山洋一監修 岡田健治・小林幸雄編集 向山洋一教育実践原理原則研究会著をご高覧ください。