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向山洋一語録
相撲の面白さは、土俵という限定された円にある。限定されているからこそ、力を思いきって出せるのである。 |
(前略)私はハードルを多く用意した。三人か四人のグループを作って私のまわりにすわらせた。各グループで一台だけハードルを持っていかせて跳ばせてみた。 |
教科 | 領 域 | 局 面 | 有効な発問・指示 | 出典など |
体育 |
ハードル |
一つのハードル |
ふり上げる足は、ハードルに直角にまっすぐのばしなさい |
楽しい体育(明治図書)向山洋一 |
社会 |
資料活用 |
一枚の写真 |
「気づいたこと、思ったこと、考えたこと」をたくさんノートに書きなさい。 |
社会科教育(明治図書)向山洋一 |
図工 |
写 生 |
題材・色 |
つつじだけを描きなさい。赤、青、黄と白以外は使いません。 |
教室ツーウェイ(明治図書)岡田健治 |
図工 |
木版画 |
題材・道具 |
今日は、丸刀だけで顔を彫ります。 |
教室ツーウェイ(明治図書)岡田健治 |
理科 |
実 験 |
道 具 |
この器具だけを使って考えつく実験をして、ノートに発見したことをまとめなさい。 |
教室ツーウェイ(明治図書)岡田健治 |
書写 |
毛 筆 |
うっ立て |
筆が立っているかどうか見てごらんなさい。 |
教室ツーウェイ(明治図書)岡田健治 |
体育 |
平泳ぎ |
足の引きつけ |
足首は、返っていますか。 |
教室ツーウェイ(明治図書)岡田健治 |
体育 |
クロール |
呼 吸 |
耳は浸かっていますか。 |
教室ツーウェイ(明治図書)岡田健治 |
一.「局面の限定」とは
「局面の限定」は、子どもの可能性を引き出す、授業の原理原則である。
それでは、「局面の限定」とは、どのような原理原則なのだろうか。
向山洋一先生は、「教育トークライン」 50(東京教育技術研究所)の中で次のように述べている。
相撲の面白さは、土俵という限定された円にある。限定されているからこそ、力を思いきって出せるのである。 |
もし、土俵が無かったら、ああ素晴らしい技は、生まれなかっただろう。人は、「限定」されなくては、力を出しきることは、できないのである。
それでは、「局面」とは何か。国語辞典によると「碁や将棋の盤面。その勝負の形勢。また、成り行き」のことを意味する。したがって、「指導場面」ととらえたら良い。つまり、授業などの指導は、一連の「指導場面」が連続して構成されており、
「局面の限定」とは、その「指導場面」を「限定」する原理原則のなのである。
二.向山実践の「局面の限定」
「局面の限定」を向山実践のハードル指導で見てみよう。「楽しい体育の授業」bQ(明治図書)より以下に引用する。
(前略)私はハードルを多く用意した。三人か四人のグループを作って私のまわりにすわらせた。各グループで一台だけハードルを持っていかせて跳ばせてみた。 子供たちは、たった一つの、「ハードルを跳ぶ」ということだけでも喜んでいる。 三、四分すると子どもがやってきた。 「先生、どうやって跳ぶんですか?教えてください」と言う。 私は、全員を一台のハードルの前に集めた。教えたことは一つ。「ふり上げる足は、ハードルに直角にまっすぐのばしなさい」ということだけだった。 それだけをさせてみた。これだけで、ハードルの跳び方らしくなってきた。 (後略) |
この後、子どもたちは、ハードルを置く場所や踏み切り足について話し合いながら、授業はすすんでいく。
それでは、「局面の限定」でなぜこのように授業はすばらしくなるのだろうか。
まず、第一に、局面を限定することで、
子どもが、集中して思考する |
ようになることがあげられる。
向山先生のハードル指導法は、たった一つのハードルを跳ぶという局面に限定している。複雑化しないから、その跳び方に集中するのである。せいいっぱい集中して思考し、跳び方が上達する。一度にたくさんのハードルを与えると、複雑なために思考が散漫になるのだ。
次に、「局面の限定」をすれば教師は、
指導ポイントを的確に伝えられる |
ようになる。これも、授業をすばらしくしている要因である。
向山先生は、
「ふり上げる足は、ハードルに直角にまっすぐのばしなさい」 |
と指示している。
こうした、指導のポイントを子どもに直接伝えやすいのである。
こうした「局面の限定」の良さを生かし、使いこなすには、
@どこの「局面」に「限定」するか。 Aその「局面」でどう指導するのか。 |
ということを充分練っておくことが大切である。的はずれでは、時間の無駄となる。
他にも、「局面の限定」の向山実践は、多い。
例えば、「一枚の写真」の授業。
まず一枚の写真を限定して提示する。そして
「気づいたこと、思ったこと、考えたこと」をたくさんノートに書きなさい。。 |
と指示する。そして、出て来た意見を分類した後、発問により見えなかった所を見えるようにしていく。まさに、「局面の限定」で構成された授業である。
三.「局面の限定」を活用する
まず、図工の描画指導で「局面の限定」を活用してみよう。
校内の花を色紙大の画用紙に描かせ、着色するとしよう。ここで「局面の限定」を活用しなくてはならない。
「校内の花なら何を描いてもいいです。画板と絵の具を持って行ってらっしゃい。」と指示するのが、良いか。
それとも、「今日は、ツツジの花を採って来ます。教室で描きなさい。」と指示するのが良いか。
私は、花を限定して、描く場所も教室に限定する。その方が、格段に素晴らしい作品が完成するからだ。
もし、花を限定しなければ、およそ絵にならない花を選ぶ子もいよう。そして、教師は、学校中回って、様々な花の描き方を指導しなくてはならなくなる。これでは、「労多くして益なし。」である。使う色も、赤・青・黄・白のみに限定し、筆も、小筆に限定する。水の量も多くするように限定する。こうした「局面の限定」があってこそ、子どもの力を引き出す描画指導ができるのである。
同じく図工の木版画『顕微鏡をのぞく友達』の指導に「局面の限定」を活用した。
この単元を指導するに当たって、私は、まず次のような指導計画を立てた。
構成を工夫してクロッキーする 6時間 カーボン紙で転写する 0.5時間 背景を版木にスケッチする 0.5時間 光りと影を鉛筆で入れる 0.2時間 棚と瓶を彫る(三角刀、平刀) 2時間 手と顔を彫る(丸刀) 2時間顕微鏡を彫る(三角刀、平刀) 2時間 服や服のしわを彫る(丸刀) 2時間机などを彫る (平刀) 1時間 目と紙を彫る(切り出し刀、丸刀、ニードル) 1時間 印刷する 2時間 |
ご覧の通り、私は、
その時間に彫る場所を限定した。 彫る彫刻刀も限定した。 |
こうした「局面の限定」により、表したい感じがでるように彫ることができた。けっして、自由にやらせることが子どもの可能性を伸ばすことではないのだ。
道具を限定するという点では、理科の授業も「局面の限定」が活用できる。
磁石、空気でっぽう、豆電球など様々な教材セットを使うこともあろう。そんな時、
机の上に出させる部品を限定するのだ。 |
例えば、磁石セットなら、棒磁石2個とクリップ10個などをいうふうにである。
そして、
「この器具を使って考えつく実験をして、ノートに発見したことをまとめなさい。」 |
と指示する。その後、児童に板書させて、発表、討論、実験と構成するのである。
さて、毛筆習字の指導では、どのような局面に限定して指導すれば成果が上がるだろうか。私は、
筆を持って打っ立て引く瞬間 |
に局面を限定する。この局面で指導するポイントはたった一つ。
「筆が立っているかどうか」 |
である。
筆が立っているというのは、図のように紙を筆がほぼ垂直になっていることを意味する。筆が立っていないと、美しい生きた線は書けない。したがって、私は常に、子どもが筆を持って打ったてた瞬間に、「ストップ。今、筆が立っていますか。」と問う。筆が立っていないのに、様々な指導をしても無駄なのである。
平泳ぎの指導では、私は、
陸上で片足を引き付けた瞬間 |
に局面を限定する。号令は、「イチッ。ニーイ」である。この「イチッ」の時、全員の動きを止めるだ。
指導のポイントは、たった一つ。
足首が返っているかどうか |
である。そして、足首が返らない子には、私がその子の横に立ってやり、
「足の親指で先生を指さしてごらん。」 |
と指示する。自然に足首に力が入り、極めて有効である。
また、クロールの呼吸指導なら局面に限定すると良い。二人一組でバディを組んで、一人はビート板を両手で持つ。もう、一人は、オーバーフローに足をかけ、片手でビート板をもち水に浮かぶ。そして「ブクブク、パァ」の号令に合わせて呼吸練習をする。チェックさせるポイントは、
片耳が水面に出ていないかどうかのみ |
である。
以上、「局面の限定」について述べてきたが、この原理原則を使いこなしたい方は、 「局面限定の原理原則を活用する」向山洋一教育実践原理原則研究会著(明治図書)も併せて是非ご参照いただきたい。すぐに役立つ活用事例とポイントの宝庫である。