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向山洋一教育実践原理原則研究論文/ 各学年/局面の限定/          

  子どもの力を引き出す「局面限定の原理原則」  

  岡山県津山市立北小学校    岡田健治


向山洋一語録

相撲の面白さは、土俵という限定された円にある。限定されているからこそ、力を思いきって出せるのである。

(前略)私はハードルを多く用意した。三人か四人のグループを作って私のまわりにすわらせた。各グループで一台だけハードルを持っていかせて跳ばせてみた。
子供たちは、たった一つの、「ハードルを跳ぶ」ということだけでも喜んでいる。
三、四分すると子どもがやってきた。
「先生、どうやって跳ぶんですか?教えてください」と言う。
私は、全員を一台のハードルの前に集めた。教えたことは一つ。「ふり上げる足は、ハードルに直角にまっすぐのばしなさい」ということだけだった。
それだけをさせてみた。これだけで、ハードルの跳び方らしくなってきた。
           (後略)

主な局面と有効な発問・指示

教科 領 域 局 面 有効な発問・指示 出典など
体育

ハードル

一つのハードル

ふり上げる足は、ハードルに直角にまっすぐのばしなさい

楽しい体育(明治図書)向山洋一
社会

資料活用

一枚の写真

「気づいたこと、思ったこと、考えたこと」をたくさんノートに書きなさい。

社会科教育(明治図書)向山洋一
図工

写 生

題材・色

つつじだけを描きなさい。赤、青、黄と白以外は使いません。

教室ツーウェイ(明治図書)岡田健治
図工

木版画

題材・道具

今日は、丸刀だけで顔を彫ります。

教室ツーウェイ(明治図書)岡田健治
理科

実 験

道 具

この器具だけを使って考えつく実験をして、ノートに発見したことをまとめなさい。

教室ツーウェイ(明治図書)岡田健治
書写

毛 筆

うっ立て

筆が立っているかどうか見てごらんなさい。

教室ツーウェイ(明治図書)岡田健治
体育

平泳ぎ

足の引きつけ

足首は、返っていますか。

教室ツーウェイ(明治図書)岡田健治
体育

クロール

呼 吸

耳は浸かっていますか。

教室ツーウェイ(明治図書)岡田健治

一.「局面の限定」とは

 「局面の限定」は、子どもの可能性を引き出す、授業の原理原則である。
 それでは、「局面の限定」とは、どのような原理原則なのだろうか。
 向山洋一先生は、「教育トークライン」 50(東京教育技術研究所)の中で次のように述べている。

相撲の面白さは、土俵という限定された円にある。限定されているからこそ、力を思いきって出せるのである。

 もし、土俵が無かったら、ああ素晴らしい技は、生まれなかっただろう。人は、「限定」されなくては、力を出しきることは、できないのである。
 それでは、「局面」とは何か。国語辞典によると「碁や将棋の盤面。その勝負の形勢。また、成り行き」のことを意味する。したがって、「指導場面」ととらえたら良い。つまり、授業などの指導は、一連の「指導場面」が連続して構成されており、 「局面の限定」とは、その「指導場面」を「限定」する原理原則のなのである。

   二.向山実践の「局面の限定」

 「局面の限定」を向山実践のハードル指導で見てみよう。「楽しい体育の授業」bQ(明治図書)より以下に引用する。

(前略)私はハードルを多く用意した。三人か四人のグループを作って私のまわりにすわらせた。各グループで一台だけハードルを持っていかせて跳ばせてみた。
子供たちは、たった一つの、「ハードルを跳ぶ」ということだけでも喜んでいる。
三、四分すると子どもがやってきた。
「先生、どうやって跳ぶんですか?教えてください」と言う。
私は、全員を一台のハードルの前に集めた。教えたことは一つ。「ふり上げる足は、ハードルに直角にまっすぐのばしなさい」ということだけだった。
それだけをさせてみた。これだけで、ハードルの跳び方らしくなってきた。
           (後略)

   この後、子どもたちは、ハードルを置く場所や踏み切り足について話し合いながら、授業はすすんでいく。
それでは、「局面の限定」でなぜこのように授業はすばらしくなるのだろうか。
 まず、第一に、局面を限定することで、

子どもが、集中して思考する

 ようになることがあげられる。
 向山先生のハードル指導法は、たった一つのハードルを跳ぶという局面に限定している。複雑化しないから、その跳び方に集中するのである。せいいっぱい集中して思考し、跳び方が上達する。一度にたくさんのハードルを与えると、複雑なために思考が散漫になるのだ。
 次に、「局面の限定」をすれば教師は、

指導ポイントを的確に伝えられる

ようになる。これも、授業をすばらしくしている要因である。
 向山先生は、

「ふり上げる足は、ハードルに直角にまっすぐのばしなさい」

と指示している。
こうした、指導のポイントを子どもに直接伝えやすいのである。
 こうした「局面の限定」の良さを生かし、使いこなすには、

 @どこの「局面」に「限定」するか。
 Aその「局面」でどう指導するのか。

ということを充分練っておくことが大切である。的はずれでは、時間の無駄となる。 
他にも、「局面の限定」の向山実践は、多い。
例えば、「一枚の写真」の授業。
まず一枚の写真を限定して提示する。そして

「気づいたこと、思ったこと、考えたこと」をたくさんノートに書きなさい。。

と指示する。そして、出て来た意見を分類した後、発問により見えなかった所を見えるようにしていく。まさに、「局面の限定」で構成された授業である。

三.「局面の限定」を活用する

 まず、図工の描画指導で「局面の限定」を活用してみよう。
校内の花を色紙大の画用紙に描かせ、着色するとしよう。ここで「局面の限定」を活用しなくてはならない。
 「校内の花なら何を描いてもいいです。画板と絵の具を持って行ってらっしゃい。」と指示するのが、良いか。
それとも、「今日は、ツツジの花を採って来ます。教室で描きなさい。」と指示するのが良いか。
  私は、花を限定して、描く場所も教室に限定する。その方が、格段に素晴らしい作品が完成するからだ。
 もし、花を限定しなければ、およそ絵にならない花を選ぶ子もいよう。そして、教師は、学校中回って、様々な花の描き方を指導しなくてはならなくなる。これでは、「労多くして益なし。」である。使う色も、赤・青・黄・白のみに限定し、筆も、小筆に限定する。水の量も多くするように限定する。こうした「局面の限定」があってこそ、子どもの力を引き出す描画指導ができるのである。
同じく図工の木版画『顕微鏡をのぞく友達』の指導に「局面の限定」を活用した。
 この単元を指導するに当たって、私は、まず次のような指導計画を立てた。

構成を工夫してクロッキーする  6時間
カーボン紙で転写する 0.5時間
背景を版木にスケッチする   0.5時間
光りと影を鉛筆で入れる 0.2時間
棚と瓶を彫る(三角刀、平刀) 2時間
手と顔を彫る(丸刀) 2時間顕微鏡を彫る(三角刀、平刀) 2時間
服や服のしわを彫る(丸刀) 2時間机などを彫る (平刀) 1時間
目と紙を彫る(切り出し刀、丸刀、ニードル) 1時間
印刷する 2時間 

ご覧の通り、私は、 

その時間に彫る場所を限定した。
 彫る彫刻刀も限定した。

 こうした「局面の限定」により、表したい感じがでるように彫ることができた。けっして、自由にやらせることが子どもの可能性を伸ばすことではないのだ。
 道具を限定するという点では、理科の授業も「局面の限定」が活用できる。
磁石、空気でっぽう、豆電球など様々な教材セットを使うこともあろう。そんな時、

机の上に出させる部品を限定するのだ。

 例えば、磁石セットなら、棒磁石2個とクリップ10個などをいうふうにである。
そして、

「この器具を使って考えつく実験をして、ノートに発見したことをまとめなさい。」

と指示する。その後、児童に板書させて、発表、討論、実験と構成するのである。
 さて、毛筆習字の指導では、どのような局面に限定して指導すれば成果が上がるだろうか。私は、

 筆を持って打っ立て引く瞬間

に局面を限定する。この局面で指導するポイントはたった一つ。

「筆が立っているかどうか」

である。
 筆が立っているというのは、図のように紙を筆がほぼ垂直になっていることを意味する。筆が立っていないと、美しい生きた線は書けない。したがって、私は常に、子どもが筆を持って打ったてた瞬間に、「ストップ。今、筆が立っていますか。」と問う。筆が立っていないのに、様々な指導をしても無駄なのである。
 平泳ぎの指導では、私は、

陸上で片足を引き付けた瞬間

に局面を限定する。号令は、「イチッ。ニーイ」である。この「イチッ」の時、全員の動きを止めるだ。
指導のポイントは、たった一つ。

足首が返っているかどうか

である。そして、足首が返らない子には、私がその子の横に立ってやり、

「足の親指で先生を指さしてごらん。」

と指示する。自然に足首に力が入り、極めて有効である。
 また、クロールの呼吸指導なら局面に限定すると良い。二人一組でバディを組んで、一人はビート板を両手で持つ。もう、一人は、オーバーフローに足をかけ、片手でビート板をもち水に浮かぶ。そして「ブクブク、パァ」の号令に合わせて呼吸練習をする。チェックさせるポイントは、

片耳が水面に出ていないかどうかのみ

である。
 以上、「局面の限定」について述べてきたが、この原理原則を使いこなしたい方は、 「局面限定の原理原則を活用する」向山洋一教育実践原理原則研究会著(明治図書)も併せて是非ご参照いただきたい。すぐに役立つ活用事例とポイントの宝庫である。



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