通勤怪速への道(その5)

-夏休みの工作に-


7月中旬にカブ部のツーリングで四国を巡る旅に出ました。

津山→尾道→しまなみ海道→今治→石鎚山(泊)→早明浦ダム→大豊→R439→剣山→R438→脇町→高松→国道フェリー→玉野→津山 という行程で、メーター読みで660キロほどの行程でした。

参加台数は7台。この1年改造を重ねてきたことで、ノーマルのカブには負けないぞと思っていた私ですが、集まったマシンはC90,C70を筆頭に持ち主思い思いの改造を加えたマシンぞろいで、私のマシンが事実上一番のミソッカスのようでした。
しまなみ海道は原付で渡れば安くて(7橋計510円)面白く、石鎚山・京柱峠・剣山ではマシンと人間の能力をしっかりと試されました。

さて、そうした中で着々と準備していた次のネタは「給排気ポート拡大」です。
パワーアップの要点は、「いかに大量の混合気を吸い込んで、排出するか。」という風水学的な問題に尽きます。
アプローチとしてはボアアップ、ターボといったものから、多気筒化、DOHC、と来ますが、所詮50のカブですからその辺はおいといて、給排気系の見直しを上流から見ていくと、パワーフィルター、大径キャブ、給排気ポート拡大、ハイカム、マフラー交換、とすべて何らかの形で通過する空気の量を増やすことにつながっています。

このうち、ハイカムは(その3)で、大径キャブは(その4)で試しましたが、ホンダはカブのローパワー化(省燃費化)のなかで、もうひとつ非常に効果的な部分の口径を絞っているのです。
今回はその絞ってある部分を拡げてしまおうという試みです。

まずは、拡大の道具としてプロクソンのルータを買ってきました。先端のビットには本当にいろいろな種類があり、持っているだけで創作意欲のわく道具です。ライダーマンの右腕を思い出します。

カブのシリンダヘッドを外して、ポート拡大を施行している間、カブが不動車となってしまうのは残念なので(失敗して永久に不動車となるおそれなきにしもあらず)ヤフオクでシリンダヘッドを探して落札してきました。

84年に4.5馬力になって以降のカブはインテークポートの径が14φとなっています。小指の先っちょがようやく入る大きさです。いくつかのシリンダヘッドを調べてみましたが、どれも入口の穴はなぜかいびつな丸になっていて、奥はいくらか広くなっています。始めポートが広かった金型を細工して入口だけ細くした形跡が見えます。
キャブをPB16にしても、エンジンまでの途中がこうしてくびれているのではその効果を殺してしまいます。
そこでこの入口を広げるわけです。パワーアップはまさに風水学です。

なお、私が買ったタケガワのPB16キャブはインテークマニホルドがテーパー状に細くなっていて、インマニ出口が拡大前のこのポートにピタリと合う14φになっていますから、マニホルドの穴も広げてやる必要があります。長いマニホルドの穴を広げるのは私の技術では無理と感じたので、そこはC90の純正マニホルドを買ってきました。写真右のマニホルドがそれです。
C90のマニホルド出口が18φですから、この大きさを目標にして穴を広げることになります。

まず始めたのは練習の意味も兼ねて排気側のポートから。
排気側はもともと圧力のあるガスが抜けていくところですし、あまりヌケを良くすると却ってよくないらしいので、目標を大きく持たずおそるおそる削っていきます。キタコ虎の巻にあるようなフィン型加工にしてみたかったのですが、加減がよくわからずちょっとフィン風かなって感じでおさまりました。

これで元気を出していよいよ吸気側です。玄関前の廊下にシリンダヘッドとルータと掃除機を抱えて座り込んで、削っては削り粉を掃除し、ビットを変えてはまた削り、飽きたら燃焼室やシリンダヘッド外部を磨いたり、のんびりと何日もかけて削りました。

吸気側の仕上がり。かなりツルツル。排気側の仕上がり。ちょっとザラザラ。
私のとった手順は、ハイスビット→ダイヤモンドビット→半丸やすり→サンドベーパー(粗)→耐水ペーパー(極細)→Mothers(金属磨き)という順序ですが、なにぶん誰にも習わずに勘でやったのでもっとよいやり方はあるのかもしれません。
ポートを拡大してみると案の定、インテークポートの中にはもともと18φぐらいの空間があって、入口がくびれているようです。
インテークポートがツボ型になっているのは、バルブからの吹き戻しをここでくいとめて燃費を向上させる役割があるそうです。
今度は小指がスッポリさしこめる穴になりました。このぐらいの大きさがないとサンドペーパーを突っ込んで中を磨き上げるのは困難です。排気側の磨き上げがちょっと不足しているのはその辺の事情によります。

ポート拡大前と拡大後
さて、ここまでは四国ツーリングの前後にはできていたのですが、エンジンを開けるには時間がかかります。夏休みで退屈しきった子供たちが待ち構えている季節、仕事でも忙しく、体力もなく、正直いって時間を確保するのが一番困難な問題でした。

ようやく時間を作った土曜日の夕方、今までのシリンダヘッドを外して、自慢のC70カムを移植しようとしたら、おや?

カムの山が何やら見慣れない造形になっています。
初めは「もともとそんな形だったのでは?」と思いながら作業を続けていましたが、新品の時の写真がこのお話の(その3)に掲載してあるので、それと見比べて、ただならぬ状況になっていることがようやくわかりました。
これほど硬いカムの山が削れてしまっています。勝手にバルブリフト量が変わるなんて、いわば可変バルブリフト機構ですか(違。

C70カムとダブルスプリングを組んで以来、シリンダヘッドからはいつもカチカチ音がしていましたが、仕事で乗るC70も同じような音がするのであまり気にせず、自分ではこのマシンを「サイドワインダー号」と勝手に名づけて平気でした。
しかしこれは…カムに角があればジャラジャラ言うわな。

さて、計画変更です。傷ついたカムは記念品にしかならないので、C50カムに交換です。バルブスプリングもシングルに戻しました。
次第にマシンを進化させていくことも結構ですが、どのパーツがどれだけ効果があったのかを比較するためには、こうして設定を戻してみるのもいいんじゃないでしょうか。

さて、走ってみると、確かに中低速のトルクはいくぶん増しています。ただし劇的なものとはいえません。高回転側については10000回転までは何とか回りますが、削れたハイカムの頃の盛り上がるパワーはありません。サイドワインダー音もなくなりました。

体感パワーグラフ
あえて体感的なところをグラフにしてみればこうです。(正確なパワーを表したものではありません)

ノーマルのカブは非力な割に中低速もスムーズで実用性に富んでいます。

ポート拡大+PB16キャブでは、その全体が底上げされて多少は高速性能も上がります。ただし、フィーリングはあくまでもノーマルのカブとそう変わりません。アクセルを急に開けたら息つきのようなナーバスな反応をする場合があるので回転数の上昇に合わせてアクセルを開けていくことに慣れる必要を感じます。(キャブセッティングが出ていないだけ?)

ハイカム+ダブルスプリング+PB16キャブだと、5000回転あたりまでは明らかにノーマルに劣ります。その後50ccなりに爆発的な加速が味わえてなんとも嬉しい気分になります。低速域のトルクが細いのはダブルスプリングのせいでもあったのでしょうが、高速寄りのセッティングというのはもともとそうしたものなのだろうなと思います。(C70カムを一般のハイカムと同列に扱ってはいけないのかもしれませんが)

それでは、PB16キャブ+ハイカム+ポート拡大では?…今回は残念ながら試せませんでしたが、きっといつか試みることになるでしょう。

   失って はじめてわかる ハイカムの価値

カムが損傷した理由は、たぶん、バルブスプリングが固すぎたからではなく、高回転で回しすぎたわけでもなく、慣らし運転の不足オイル管理の不備によるものだろうと思っています。 思えばこのC70カムを入れたとき、その効果を確かめたくてうずうずしていて、慣らし運転どころか暖機運転さえ十分にしていないままで、壁のような坂道に挑んだり、最高回転数を探ったりしていました。
また、オイルはP10プリメーラの遺産となった5年以上前のものでした。

そこまで過酷なことをしても、焼きつきもせず、止まりもせず、粛々と働き続けるスーパーカブのエンジンって、本当にタフなエンジンだと思います。この状態でC70,C90混走の600キロツーリングを走り切ったなんてエンジンさんに本当に申し訳ないことをしました。

慣らし運転は、例えばショップ(PESASUS)のFAQによると、「具体例を挙げてみますと、最初の1000kmまでは5000rpmをリミットに、次に3000kmまでは7000rpmまでをリミットに、その中で自然な加減速を組み合わせて走る、と言った感じです。」とされています。高性能を期待して改造を重ねている者に、これは本当の苦行だと思います。
人と同じ道は歩かない、メーカーの宣伝は信じない、バイク屋には近づかない、という主義の私としては、学ばずに突き進んだあげくの貴重な体験でした。
これに懲りて…改造はまだまだ続きます。

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